仮の婚約(2)
「あの…すみません、これはただの仮定です。漠然とした話をしてしまいました…」
「いや、その仮定はもしかしたら事実に近いかもしれない。」
ルル様は何かを思い出したような表情をしていた。
「王妃は水魔法が使えるとされているが、本来は水魔法は使えず、使える魔法が違うものだったとしたら…。」
「王妃様の魔法が別の物…!?でも国民の前では水魔法を使ってましたが…」
「俺も王妃は水魔法だと思っていたが…いつも王妃が水魔法を使う時に側にいる侍女が顔色も悪く焦点が合っていないような表情なのが気になっていた。スーの話と俺の考えがもし本当ならば辻褄が合う。」
「だとすると…王妃様は催眠の魔法が使えるという事でしょうか?」
「いつも側に支えている侍女に催眠の魔法をかけて水魔法を王妃の魔法のように使わせているのだとしたら…まだしっかりと調べる必要はあるが…これが本当なら合点がいく。」
「催眠の魔法は呪いのようなものだと言われていて世間に知られたくないから、という事でしょうか?」
「いや、それよりももっと根深いものがありそうだ。」
王妃様は美しいけれどなんだか不気味なオーラがあって苦手だった。
「という事は…本当にこの話が事実だとしたら、シリウス様にも王妃様は催眠の魔法をかけていたのかもしれない…?」
「あぁ。シリウスはもしかしたら何か勘づいているのかもしれないな。」
小説にもこんな話あったかしら…もう記憶が薄れ始めてきていてあまり思い出せない。
「王妃の事はもっと詳しく調べる必要があるが、一先ずはスーに王妃からの手紙が来る前に婚約者候補として陛下に話を持って行きたい。スーは婚約者の件、了承してくれるんだね?」
「はい。お受けいたします。」
「スー!嬉しい…!」
ルル様は私を抱きしめた。
「仮の婚約者として出来ることがあればなんでも仰って下さいませ!」
「仮…」
ルル様は抱きしめていた手を離し、私の言葉に反応して少し不機嫌そうになっていた。
「はい!仮ですからね!私、王太子妃なんて素晴らしい立場恐れ多くて…先頭に立つような器もないですし、それに正〜直に申し上げると…私、目立ちたくないのです!端っこでのんびり過ごしたいです!」
勢いよく言うとルル様はフッと口角を上げて声に出して笑い出した。
「な、何でそんなに笑うんですか!?」
「あははは…ご、ごめん…あまりにも素直で正直だからつい可愛いし可笑しくて…」
笑いはなかなか収まりそうにない…。
何だか恥ずかしくなって顔が赤くなってきた…
「俺はそんな素直な所にも惹かれてるんだよ。側にいるだけで心が落ち着く。…スーに出会えて良かった。」
再びぎゅっと私を抱きしめるルル様はとても優しくて温かい気持ちになった。
まだずっとこうしていたいような…そんな気持ちにさせられた。




