王太子殿下の訪問(2)
両親と、カイお兄様と私で家の前に立ちルル様が来るのを待った。
「カイお兄様、ソイルお兄様はいらっしゃらないんですか?」
私は小声でカイお兄様に声を掛けた。
「ああ、ソイル兄はな今遠征に出ているんだ。今日は間に合わないだろうが、数日したら戻ってくると聞いたよ。」
馬車が家の門をくぐって私たちの前で止まった。馬車のドアが開き、ルル様が中から現れる。
気づけば家族全員が頭を下げていたので私も慌てて頭を下げる。
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。ダンパーネ領当主、サヴァル・ダンパーネに御座います。」
「あぁ、堅苦しい挨拶はいい。楽にしろ。」
「ありがとうございます。」
全員で顔を上げると、私の目の前にはルル様が立っていた。
(ん?これは…私が皆の代わりに挨拶を続けたらいいのかしら?)
チラッとお父様を見ると挨拶しなさいとジェスチャーで伝えてきた。
「ルルド王太子殿下、ようこそいらっしゃいました。我が家へご案内致しますわ。」
「……。」
「あの…殿下…」
「スー、俺は堅苦しい挨拶はいらないと言った。」
ルル様は無表情ながらムスッとしているのが分かる。
「えっと… ルル様?」
「うん、スー会いたかった。」
ルル様は私を抱き寄せた。
お父様とお母様は目を丸くしてビックリして衝撃を受けている。
カイお兄様はまたか、と言わんばかりの顔。
「スー、ドレス似合ってる。今日の髪型もメイクもいつも可愛いスーがもっと可愛いく見えるよ。今日会いに来て良かった。」
「ルル様、ありがとうございます。あの…父と母が見ておりますので…」
「この為に政務も頑張って終わらせて来たんだ。俺の事もっと褒めて欲しい…。」
「えっと…よく頑張りました…?」
ルル様は「ん。」と一言だけ言って頭撫でてと言わんばかりに頭を差し出してくる。
(あ、頭!?撫でるって…みんなの前で!?もう…どうにでもなれ!)
私はルル様の頭を撫でた。
お父様もお母様もそんな私達を見て更に衝撃を受けている。
(いや…待ってお父様達…1番混乱してるのは私です〜!)
「ずっとスーが足りなくて生きた心地しなかったよ。」
満足そうなルル様にカイお兄様は肩をポンと叩き笑顔を向ける。
「ルル、そろそろスーから離れようか…。良い加減にしないと流石に怒るぞ。」
ルル様に対していつものようにカイお兄様はタメ口で喋る。
その姿にまたお父様とお母様は衝撃を受け目が丸くなる。
「カ、カイル!殿下にその様な言葉遣いは不敬に値するぞ…!申し訳ございません殿下…!」
「いや、いい。俺がタメ口で話せとカイに命令したも同然だから。」
「いや、しかし…」
「俺が唯一許した人間のうちの1人だ。堅苦しいのは嫌いだからこの滞在期間はもっと楽に接してほしい。」
「は、はい。承知しました。殿下、では中へどうぞご案内致します。」
ルル様は私にべったりくっつき、カイお兄様はそれに対して牽制をしている。
こんな状態を両親は混乱しつつもヒヤヒヤしながら見守っていた。