第六話 番外克滅改変―四幻代行―
四幻≠四神です
ル◯ファ好きなので四幻(竜)を使いたかったんや……
「誰だ?」
謎の侵入者に、〈魔轟神〉レストアは問う。
侵入者の気配に揺らぎが生じる。動揺した、といったところか。
『……参ったね。ようやく見つけた器だったのに、先客がいたとは』
人間の魂を器とする存在――そんな生物、いや生命体は、〈魔轟神〉といえど一種類しか知らない。
「――神、か。もう一度問う。お前は、何という名の神だ?」
侵入者――謎の神は答える。
『私は〈起幻神〉オルテリア。四大元素を司る神だ』
「〈起幻神〉? 知らん名だな……」
魔導世界ウィゼリウスの主神である〈魔轟神〉は、この世界を支える柱たる神々の名を全て知っている。
にも関わらず、〈起幻神〉オルテリアという神を全く知らない。司る権能どころか、名前すらも。
主神とは、世界と世界を支える神々を束ねる者だ。それに知られず、ひっそりと存在することは不可能と言っていい。
ならば、最初に考えられるのは、〈起幻神〉が偽りの名を騙っている可能性。
だが、この者は嘘をついていない。嘘を感知する魔法に引っかかっていないのだから、これは疑いようのない事実だ。
となると、残る可能性は一つ――。
「俺は〈魔轟神〉、この世界の主神だ」
『……! 主神の器であったか……これは失礼をした』
「いや、構わん。だが、語弊があるな。この人間は器ではない。未来において、主神になる可能性を秘めた人間、というだけだ。俺はそれを否定するため、未来から来た」
『この人間が……主神に……? それは喜ばしいことではないか』
「いいや、こいつは俺の前世――神になる前の姿だ。俺は人として生き、人として死にたかった。エゴの押し付けでしかないが、こいつには普通の生を歩んでほしい」
『……なるほど。生まれながら神である以上、一部解せぬところもあるが……そういうものか』
「ま、同情してほしいわけじゃない。ここまではただの前提知識、誤解を解きたかっただけだ。
じゃ、本題に入るが……主神たる俺はお前のことを知らない。普通ならあり得んことだが……俺が主神となる前に滅び去っていたのなら、辻褄が合う」
主神に知られず存在する方法の一つ――それは、世界の生誕時には存在し、主神が生まれる前に滅び去っている、というものだ。
主神とは、世界が進化した証だ。無数の進化と淘汰を繰り返し、やがて後世に生まれる、世界に最も適合した神。
最も新しい神である以上、主神といえども創世の時代の記憶や知識までを持つことはない。
そのため、生まれる以前に滅び去った神のことは認知していないのだ。
『……たしかに、その可能性は高い。何せ、私はもう滅びかけだ。数年……いや、最悪、数日の間に滅してもおかしくはない……』
〈起幻神〉オルテリア、四大元素を司る神。
それの滅びは、〈魔轟神〉としても見過ごせないものだ。
「お前が滅ぶのは、俺も望んでいないことだ。この器をお前に貸してやろう」
『……良いのか? それでは、貴方は弾き出されるのでは……』
「俺とレストアの魂はほぼ同質。器に収まるというより、同化しているようなものだ。俺が弾き出されることも、お前が拒絶されることもないはずだ」
『……感謝する。この恩は必ず返そう』
「必要ない。お前が滅びを免れ、生存し続けることこそが、この世界の主神の望むところだろう」
オルテリアは悪意を持っているわけでも、邪神の手の者でもない。ならば、拒絶する理由はない。
もし仮に、オルテリアが悪意を持っていたならば、レストアが同化する際に張った〈祓除守己〉に弾かれる。
それはそれで魂胆が知れるため、その時は最悪滅ぼしてしまえばいい。
この先、レストアは〈起幻神〉の代行者となるだろう。
〈時空神〉ルーメルティアの代行者となることはなくなったわけだが、あちらにはまだ器の候補が残っている。大きな問題はないはずだ。
〈起幻神〉オルテリアの神核が〈人間〉レストアの魂魄に入り込み、その力が宿る。
これでレストアは、四大元素の魔法を自在に操る力を得たはずだ。
そして、もう一つの力を得る――はずだった。
「……どうした?」
『すまない。力が足りないようだ……神獣の譲渡どころか、創出が出来ない』
「それでは対価が足りんな……」
神族が人間の魂を器にする際、三つの条件がある。それが、対価と呼ばれるものだ。
一つ目が、自身の権能を一部譲渡すること。
権能を譲渡されることで、その者は異能ともいえる力を扱えるようになる。そうすることで、周囲からは畏怖や畏敬という念を向けられ、それらは信仰心として宿った神族に回収される。
二つ目が、自身の権能を象徴する獣――神獣を譲渡すること。
これは、神の器となった人間を守護する役割を与えられた存在だ。そのため、人間と比べ強大な力を持っており、これもまた周囲から畏怖され、それが信仰心へと変換される。
また、現代では神獣のことを幻獣と呼び、それを使役する人間は〈幻獣使〉と呼ばれる。つまり、〈幻獣使〉と呼ばれる人間は皆、神の器として選ばれた存在なのである。
三つ目が、上記二つの能力の使い方を器に教え込むこと。
そうすることで、器となった人間は自由に能力を行使することが出来るようになる。
能力を自由に扱えるということは、衆目に晒される機会が増えるということであり、それは信仰者を増やすことにつながる。
この三つの条件を満たすことで、神族は人間と〈神魔代行契約〉を結ぶことができ、そこで初めて人間に宿ることができる。
そのため、二つ目の条件を満たせないオルテリアは、このままではレストアの魂に宿られず、滅びを待つしかなくなってしまう。
当然、それは避けなければならない。
「……なら、神獣は俺が創造するとしよう。少し時間は必要だが、お前から権能を読み取り、神獣を作る。それをお前の縁者とすることで、契約条件は満たせるだろう」
『私が創出しなければ、それは私の神獣とはならないだろう……』
「俺を誰だと思ってる? 〈魔轟神〉ならば、この世界の魔法の全てを扱える。無論、神の権能も魔法として落とし込めるし、魔力の波長すら他者のものに変容できる。お前を真似てしまえば、どちらが創造主であるか、神獣には判断できんよ」
『……本当に、そんなことが?』
この世界の魔法は、誰が発動したものであるか、全て見分けることができる。
では、どこで見分けているかというと、魔力波――魔力の波長――である。
魔力波は個人ごとに決まっており、これを変えることはできない。
完全に不可能なわけではないが、一時的かつリスクが非常に大きい。また、他者の魔力波を真似るという意味では不可能と言ってよく、完全な模倣ができた者は誰一人として存在しない。
しかし、〈魔轟神〉だけは例外で、自由自在に魔力波を変容させることが可能だ。
その権能を行使することで、他者の魔法を乗っ取ったり、あるいはブーストをかけたり、といったことができるようになる。
また、その応用で、他の神の権能の模倣までもが可能となったりと、主神に相応しい権能となっている。
そのため、魔力波変容の権能を行使することにより、〈起幻神〉の神獣を創造することも当然可能だ。
神獣創造後、神獣と〈起幻神〉が縁を結べば、それは〈起幻神〉の従獣となり、自然と〈魔轟神〉との縁が切れる。
そうすれば、オルテリアがほとんど力を使わずとも神獣の譲渡が可能なる。二つ目の条件を満たせるというわけだ。
「さて……お前の権能を読み取る。希望する獣はあるか?」
オルテリアは少し考えるように、時間をおいてから答える。
『……今の時代で、四大元素を象徴する獣であれば何でもいい』
「そうか。各属性に一体ずつか? それとも、全ての複合か?」
『四大元素とは、それぞれが独立しつつも、全てが組み合わさり初めて真価を発揮するもの。それを象徴するように、各属性に一体ずつ。そして、それぞれを融合出来るようにしてほしい』
「なるほど、わかった。少し待ってくれ」
レストアは目を瞑り集中する。
〈起幻神〉オルテリアの神核から権能を読み取り、それを象徴する神獣を創造していく。
小一時間ほどかけ、レストアはオルテリアの神獣を創り上げた。
「……よし、できた。あとはこいつらが俺を主と認識する前に、お前が縁を結べば完了だ」
『ありがとう。横から掻っ攫うようで悪いが、そうさせてもらおう……』
オルテリアは自分の魔力でレストアの術式に干渉し、その主導権を奪う。そして、創り出された神獣たちの主として、主従契約を結んだ。
これで、オルテリアは自分の従獣を得たことになる。
『主神殿、なんとお礼を申してよいやら……』
「それは完全に滅びを免れてからにしてくれ。俺はまだ、延命措置を可能にしただけに過ぎん」
『そうか。では、しばしの眠りにつくとしよう……〈神魔代行契約〉』
そういってオルテリアは、レストアの魂魄に契約魔法をかける。睡眠中であるため抵抗はなく、すんなりと契約は成立した。
レストアの魂魄に〈起幻神〉オルテリアの神核が入り込み、彼女の権能が彼に譲渡されていく。
そうして〈人間〉レストアは、〈起幻神〉オルテリアの代行者として仕立て上げられた。
「眠りにつく前に一ついいか、オルテリア?」
力の温存のため眠ろうとするオルテリアを、レストアは呼び止める。
『……なんだね?』
「ようやく見つけた器と言っていたが、〈起幻神〉の器となり得る条件はなんだ?」
神族は、人間相手ならば誰でも器にできるわけではない。
特に、神格が上位の神であればあるほどそれは顕著で、器たる人間が百年どころか千年に一人しか生まれない、なんていうこともザラだという。
オルテリアの状態からして、レストアの一代だけでは、完全な復活は到底不可能だろう。
そのため〈魔轟神〉レストアは、器となりそうな人間をあらかじめ選別しておこうと思ったのだ。
『私の器になる条件か。ただ単に、四大元素全ての魔法に資質を持つだけでいいのだ。……それが、可能であるかはさて置いてね』
「それなら、レストアも器にはなれないはずだ。もともとの資質は氷と、副産物の風。最後に、水を目覚めさせたはず。四大元素全てに資質は無かったはずだが?」
『……? 異なことを。その身体には、四大元素全ての資質が宿っている。主神――〈魔轟神〉と仰ったか。そのような御方が、資質を見紛うはずが無いと思うが?』
「なんだと……?」
レストアは慌てて己に神眼を向ける。
(氷、風……これは覚醒済みの資質だ、正史と同じ――!?)
思わず、自分の神眼を疑う。
覚醒済みの資質の他に、未覚醒の資質があった。だが、その内容が驚愕するものだったのである。
なんと、〈人間〉レストアは、四大元素の魔法属性どころか、〈自然系〉の魔法属性ほぼ全てに資質を持っていたのだ。
ただ、あくまでも未覚醒の資質。この中から、あとどれか一つの属性しか、覚醒させることができない。それが人間の脳に許された、能力の限界であった。
「……驚いた。まさか、これだけの魔法資質を持っているとは自覚がなかった」
『むしろ、主神に至る未来を持つ者なら、そのくらいでなければならないだろうがね。もっとも、神族が力を貸さねば、その才能のほとんどが埋もれてしまうだろうが』
「人間は最大でも、三つの魔法属性までしか扱えないからな……。まさか人間時代の自分が、これほどの宝の持ち腐れだったとは、夢にも思わなかった」
『だが、私が宿ることで、この者は四大元素全ての魔法を扱えるようになる』
この世界の生物の脳には、魔法を扱うための特殊な演算領域があり、その限界は種族や個体差によって変わってくる。
しかし、神族が宿ることで、その限界を超えることができるようになる。
原理としては、もともとの魔法演算領域に、外付けで神族の魔法――というよりも権能――演算領域が付与され、演算能力が拡張される。
そうすることで、本来の演算能力の限界を超えた魔法行使を行えるようになるのだ。
「……っと、驚きの事実を知って、本題から脱線しちまったな。じゃあ、覚醒するかはともかく、四大元素全てに資質を持ってれば、そいつはお前の器になり得る、ってことだな?」
『そうなる。……ただ、そんな人間が、どれほどの期間で、どれほどの人数生まれるかはわからない……』
「ま、そこは何とかなることを信じるしかないさ。お前の力が少しでも復活すれば、この世界に〈起幻神〉の権能が今より強く働く。そうすれば、その力に中てられて、四大元素に資質を持つ人間が生まれやすくなるかもしれん」
『そうなることを願うしかないね……』
「とりあえず、条件はわかった。引き留めて悪かったな。あとは、ゆっくり眠っててくれ」
『ああ。あとは、全てを委ねよう……』
そうして、〈起幻神〉オルテリアは眠りについた。
〈人間〉レストアは、四大元素全ての属性を操る術を身に着けた。これは、良い意味での誤算だった。
人間時代、〈魔轟神〉レストアは四大元素の可能性に気がつき、その魔法研究を始めた。
しかし、当時の魔法適性は火・水・氷・雷・風の五属性。残りの四大元素である、地属性には適性を持たなかったのだ。
そのため、魔法研究は難航した。
途中で、〈自然系〉の属性全てを宿した魔剣から特定の属性を抽出する、という技術を会得したりもした。
だが、それらの面倒を無しに、この人間は魔法研究を行える。それは、大きなアドバンテージになるだろう。
〈魔轟神〉レストアは俄然、〈人間〉レストアの行く末が楽しみになっていた。




