⑧ 童貞な父親
母になる
睦月に白を吐息をしながら、辺りの公園を散策した
梅の花がその時を迎えようとして、先走りした幾つかの蕾が役目を終え白の花弁を開かせていた
満開前の白い花びらを見ていたら、久しぶりに頬が綻んだ
シャヤが妊娠した、
東京に来たことが間違いだった
いや、渋谷を許した判断が落点だった
東京に来てシャヤに手を引かれるままに、渋谷に降り立った
この街に染まる未来に暗雲が澱み漂っていることを察知したから、シャヤを遠ざけようとしたのに、
なるたけ早く移動したんだ
小岩や錦糸町のあたりに落ち着きを見出していたというのに、
なのに、どうして
渋谷の方が稼げるからなんていって
結局、こんなことになっちまったじゃないか。
なにゆえ拙者を受け入れてくれまいか
・・・・
渋谷に憧れた
東京に来たならば渋谷で光躍することが私を満たす事象だと考えた
一度渋谷に降り立って夢に日和った
公園でリャリャと居場所を模索していたら聳え立つ木々の土が泥に見えてきてこの街に酔っていることを感じた
リャリャの提言もあって江戸川区や江東区を回る
そのうち墨田区に錦糸町という街を知った
小岩や錦糸町を居場所と定めて、数十万の持ち合わせからマン喫や安ホテルに宿泊する
金が尽きる前に稼ぎに出ただけだし、東京にも慣れてきた11月にはあの街で仕事した
その男は相場を遥かに超える額と引換に、専属になるような交渉を持ち出した
私はリャリャの発情を許さなかった
・・・・
シャヤはある男に飼われるような生活を始めた
週に2、3回は東から西の街に出て、アイツと会っていたようだった
金を稼いでくるから強くは言えなかった
・・・・
妊娠が分かればアイツは連絡が取れなくなった
なってみて初めて後悔した
渋谷ではなくてリャリャに踏み込ませなかったことだ
汚れていく私にとってリャリャは唯一の純粋だった
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拙者は断を決した
・・
私は堕胎しようと思っている
・
僕は
童貞の父親になる
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