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幸せの運び屋

作者: 翡翠蝶

感想をぜひお願いします。今後参考にさせていただきます。

あるところに、ヤマヒトという少年がいました。彼はいつも何か面白いことはないかと街中をうろついて、いたずらをして、皆を困らせていました。しかし、イタズラをした人には必ずお詫びをします。壊れた屋根を直したり、怪我をした子どもに手当てをしてやったり、要らないものを引き取ったり。時には悪人から町を守るなど、たくさんの善行もしていました。


「ヤマヒトのイタズラは幸せを呼ぶんだ」


 町の大人たちは口々にそう言います。


 ある日の朝、仕入れのためこの町に訪れた商人は、ヤマヒトに帽子を隠されてしまいました。いたく気に入っていた帽子だったので商人は怒り、連れていた我が子を置いて走りだし、ヤマヒトを引っ捕らえてしまいました。そこで商人はふと、町人の言葉を思いだしました。


「まさか、こんな悪ガキごときが幸せを呼ぶものか」


 結局、商人はヤマヒトを自警団に突き出して取り戻した帽子を被り、さっさと次の町へと出発してしまいました。


 日が一番高く昇ったころ、金稼ぎのためこの町に訪れた道化師夫婦は、大事な仕事道具をヤマヒトに隠されてしまいました。金を稼ぐ手段が奪われてはたまらないので道化師夫婦は怒り、連れていた我が子を置いて走りだし、ヤマヒトを引っ捕らえてしまいました。そこで道化師夫婦はふと、町人の言葉を思いだしました。


「まさか、こんな悪ガキごときが幸せを呼ぶものか」


 結局、道化師夫婦はヤマヒトを自警団に突き出して取り戻した仕事道具を持ち、さっさとサーカスのテントの中に消えていってしまいました。


 日が山に腰かけた頃、声を失くした子どもを連れた旅人がこの町に訪れると、我が子に笑顔を与えてくれた大切な人形をヤマヒトに隠されてしまいました。我が子の笑顔を二度と失いたくない、と連れていた我が子を置いて旅人は泣き叫び、半狂乱になりながらヤマヒトを追いました。


「待って待って、待ってくれ。それだけは、それだけは」


 しかし、ヤマヒトは捕まりませんでした。日は沈み月が昇る頃、旅人は泣く泣く諦めて次の町へ向けて出発しようとしました。


「おいおい、大事なもの忘れてるぞ」


 驚いた旅人が振り返ると、そこにはヤマヒトと三人の子どもがいました。その内の一人は紛れもなく、旅人が何より大切にしてきた我が子でした。慌てて駆け寄って抱き締めたとき、ようやく我が子が酷く痩せ細っていることに気がつきました。旅人は涙を流して言いました。


「嗚呼、いつから一番大切なものを忘れていたのだろう。こんなにも近くにあったというのに」


 幸せを運び込まれた旅の親子は手を取り合い、笑顔で故郷へと帰っていきました。いつの間にか声を取り戻した愛しい子に手を引かれ、親子仲良く歩いていくことでしょう。


「さあ、行こうか。」


 親子の背中が見えなくなるまで見送ったら、ヤマヒトは隠したものを連れて夜明けの町へと戻っていきます。こうして、今日もヤマヒトは二人の幸せを運んでいくのでした。

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