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第五章

『過去通路』の時間を調整する。

時間軸を再設定:一年前。人物:人族の勇者。

見た目は前回と大差なかったのに、やけに慣れたように思う。これは一回しか使っていないスキルのはずだったが何回も使ったような気がする。

やはり子供の学力は大人よりも優れている。

時間を調整可能な限度まで調整するのは、その時の勇者はまだレベルも低かったからだ。

成長するには危機と立ち向かう必要がある。それは勇者の日常だった。隙を見て勇者を倒すのも朝飯前なんじゃないかと思ったけど、勇者パーティーは二人以上共に行動することが多く、なかなか隙が見せないものだ。


『鑑定』

<名前:ベレット>

<種族:人族>

<職業:勇者>

<レベル:29>

<HP:13/350 MP:8/498 SP:74/100 攻撃力:150 防御力:160>

<スキル:『剣術LV MAX』『突進強化LV2』『斬撃強化LV3』『火炎弾LV5』『氷魔法LV6』『マジックライトソードLV4』『超加速LV3』『ビッグウェーブLV1』『魔導力LV1』『ガーストLV3』『神聖なる響きLV1』『クリティカル増強LV1』『火炎耐性LV8』『水耐性LV5』『寒耐性LV2』『腐蝕耐性LV9』『斬撃耐性LV5』『闇耐性LV MAX』『アンデッド特攻LV5』『成長加速LV MAX』『HP自動回復LV2』『MP自動回復LV3』『身体増強LV4』『英雄になりしものLV MAX』『フォルトゥナの加護LV9』>

<称号:『首領殺し』『魔物虐殺者』『勇者』『博徒』>


『首領殺し』の称号を獲得したので、俺の『鑑定』スキルが一気にLV5に上がった。勇者に対して『鑑定』を使っても鑑定不能は起こらないようだ。

『成長呪い』に呪われたのに、成長の見込みがあることに嬉々とした俺である。

まあ、それはいいとして、今は任務を遂行しよう。

俺は引き続き勇者を見張る。

せめて一人行動のパタンを待つかと思い、時間を調整しながら勇者パーティーの行動を見る。

そしてちょうど3年前のとある日、勇者パーティーの一人が風邪引いて、もう一人は調子が良くないという理由で休んだ。

風邪引いたのはマリーだった。もう一人のメンバーは見ない顔の男で、記憶の中にいないことから察するに、相性が悪くチームから抜けたか、魔物と戦って死んだかの二択だろう。

その日だけ勇者は一人で森の中に入った。いつも通りの修行だったので立ち入る場所は危険度の低いエリアである。


確かに危険度は低い、しかし、あいにく、勇者と相性の悪い魔物が現れて、苦戦した。

あの頃の勇者はまだレベルが低く、一見、スキルは多く持っているが、絶対に持つべきスキルは持っていなかった。

そのスキルは『毒耐性』である。

冒険者であれば毒の危険性は言わずもがなのことだ。

どれほど硬い装備を身につけても関係ない、中毒になったらHPがじわじわ落ちていくのだ。解毒剤がなければ『毒耐性』のスキルも習得していない、その不用心さで、冒険者の生涯は終わってしまうこともある。

それに解毒剤を持っていて絶対安全だと、それは馬鹿の考えしかない。長時間毒気の中にいれば、解毒剤を使っても無駄である。

解毒剤の作用は瞬時の解毒、けど、いつも毒の中にいると、解毒したってまた毒が体内に溜まってしまう。

その原因で、長時間獲物を毒の中に入らせる魔物は厄介だ。

特に結晶マタンゴという魔物は、よくたむろにして毒で獲物を攻撃する。

気がつけば急に何十匹の結晶マタンゴが現れ、脱出するには半時間もかけてしまう。

自ずと攻撃性の毒を発散し、辺り一面に何秒まもない時間内に毒区域に変わる。

勇者はそのように結晶マタンゴの群れに遭遇して、殺されかけた。

MPはほとんど残っていない。MPがないと魔法は使えない。勇者は剣術のスキルを所持していて、これからは剣で魔物と戦うしかない。

結晶マタンゴは毒のスキルを持っている上に、集団で現れる魔物である。

勇者は毒で地味にHPが減っていく。

結晶マタンゴはキノコの魔物、移動速度は遅いが、HPはそこそこある。一撃で倒せる相手ではないので、毒に侵食されずに倒すのは至難の業である。

群れで寄せてくると、一匹一匹倒すしかない。

それにしても、HPが毒に侵食されているのに、勇者はまだ余裕綽々の態度を取り、結晶マタンゴを一匹ずつ剣で倒していく。

自分はかならず勝つと信じて戦っている。

すべては計算内だと、そういう顔をしていた。

HPがゼロになる前に結晶マタンゴを全滅し、そしてHP回復ポーションを飲んで回復する。そういう算段だろう。

さすがは歴戦の勇者、自身に不利な時でも冷静に対応できるそうだ。

しかし、第三者の俺がここにいることを勇者は知らない。彼とマタンゴとの戦いを俺はじっくりと見て、そして悪者のように笑う。

勇者ベレットよ、君にとって俺はただの魔物かもしれない。けど、俺は仲間の死と自分の死に恐怖をした。俺は家族がいる。幼馴染のプーもずっとそばにいる。彼らは大切な人で、何があっても彼らのことを守ってあげたい。

敵となったあなたは、残念ながら倒すしかない。悪く思わないでくれ、元々お前のやったことだから、呪いたいなら自分を呪え。

種族は人間だったらお前と友達になれるかもしれない。如何せん俺はゴブリンだ。

ではやろうか。

『凍結魔法』を発動。



勇者のHPは8。僅かなHPしか残っていないのに、最後の結晶マタンゴを勇者は斬りかかろうとした。

彼は戦いを求めた。もちろんこの戦いに勝つだろう。

俺が邪魔に入らないならそうなるだろうね。

俺はことの成り行きを見守る。

勇者は俺の魔法に足が凍結され、動けなくなった。結晶マタンゴを前にして彼は不思議そうな顔になって、倒れ伏した。

自分の両足を見ると何やら氷に凍結されたようですぐさま防御の体制を取る。

いい判断か悪い判断か分からないが、魔法に攻撃された俺なら同じ行動を取るに違いない。

魔法に攻撃されるので、近くに術者はいるはずだ。攻撃してくるなら、一発じゃ足りない。五発も十発も魔法をぶん投げてくるのもおかしくない。

よりによってこんな時に予想外の敵がくるとはね。

毒に侵された上、両足もくっついてしまって行動のできない今、彼はますます厳しい状況だと覚り、余裕がなくなった。

死に迫った彼は次第に緊張な面持ちとなり、慌てふためいて、なんとかして結晶マタンゴから離れようとした。

氷を溶かすなら『火炎弾』を使えばいい。けど、氷を溶かすほどのMPを持っているなら、こんなことになれずに済んだのだが、まったく不用心しすぎた。勇者は結晶マタンゴを憎悪の目で睨めつける。

結晶マタンゴといえば毒のスキルを持つ魔物である。それは共通の認知だ。しかし結晶マタンゴの持つスキルは毒だけではない。

結晶マタンゴはチャンスを見逃さんと敵に向かって突進する。

「そんな、馬鹿な。くそ雑魚に殺されてたまるか!」

勇者は目を大きく見開き、今際の際に声を上げた。

でも、ぐにゃぐにゃしてかわいい結晶マタンゴに、俺はそいつを抱きしめておうちに持ち帰りたい気分だ。

勇者を殺すのになんだその鈍さ。遅すぎるぞ。所詮キノコか、移動できるだけで奇跡みたいなもんだ。

結晶マタンゴはあきらめずにひた走る。二メートルもない距離なのに走っていく。

まあ、どれほど遅かろうと毒だけでも勇者は死ぬ。こうして結晶マタンゴに行動させることは余興の一つに過ぎない。

結晶マタンゴは石につまずいてよろけた。

おっと? なかなか面白いものを見せたね。結晶マタンゴは思わず加速して頭が勇者の頭とぶつかりあった。どう見ても偶然の体当たりだが、攻撃の判定になったぽい。

『結晶マタンゴはベレットに攻撃した。ベレットは8ダメージを喰らった。ベレットは倒された』

ログが俺の視界の隅っこで流れこんできた。

勇者は痛みに白目になった。そんなに痛いとは見えないけど、どうやらHPが0になった時はこういう感じみたい。

俺は視界を結晶マタンゴにドアップして頭を見る。

なんだこれ。

いや、これは痛そうだ。

その頭、もとい、傘部分をうかがうと、なんとまあ、それはクリスタルでできている石のようなものだった。石ほどの硬さなのは間違いない。これと直撃したら、痛すぎて白目になるのも道理だ。

結晶マタンゴは立ち上がり、足元に倒れていた勇者を純粋な目つきで見据える。

あれは人間の死体、肉の塊だ。

本当に死んでいるのか。俺は再三確認する。

勇者と言っても生命のあるもの。生き物であれば死ぬこともある。生前は勇者であろうとも死ぬ時はやけにあっさりという感じだった。

勝つこそが正義、たとえ勝者は魔物であっても同じだ。

元々魔物という称は人間が勝手に決めつけたもの、人間と同じ生き物である以上、その存在も許されるべきではないか。

『過去通路』のスキルを終了させる。目の前の画面が空中に収束し消えた。

これで一段落。疲れたので家に戻ろう。


山の入り口に差しかかった時、結晶マタンゴのステータスを鑑定していないことに気づいた。

低級な魔物とはいえ、勇者を最後の一撃で仕留めたのは結晶マタンゴだ。

勇者を倒したことはかなり珍しいイベントではなかろうか。稀有の実績が解除されるかもしれない。称号やらどれほどレベルが上がれるやら、様々な情報が手に入れられる。そう考えると事前に確認すればよかった。

それは仕方がない。

しかし、歴史が変わったとしても、俺は並列世界の変動規則外に置かされているようだ。世界がどのような変化をもたらしたのかは記憶にはまったくなかった。

だけど、前の世界線の記憶はちゃんと持っている。

こちらの方こそが肝心な記憶だから、この先もそうでありたい。

規則外の存在だと自知したのは、俺が『過去通路』でグレーターオークを倒した記憶があると、倒して獲得した『首領殺し』の称号を持っている二件が原因だった。

ほら、ステータスを見れば分かる。

「ステータスオープン」


<名前:ケアル>

<種族:ゴブリン>

<レベル:3>

<HP:39/39 MP:0/257 SP:91/100 攻撃力:3 防御力:3>

<スキル:『凍結魔法LV3』『鑑定LV2』『過去通路LV2』『未来視LV3』『世界情報LV1』『魔導力LV2』『火炎耐性LV3』『成長呪い』『成長加速LV1』>

<称号:『÷ډļ‹E؉À‹ÔÈèµ』『勇者殺し』>

『勇者殺し』:勇者を殺した者に与える称号。称号により、スキル『成長加速』を獲得した。

『÷ډļ‹E؉À‹ÔÈèµ』:鑑定不能。無効の称号だと推測する。


「?!」

あれ、さっきまであったはずの『首領殺し』の称号が訳の分からない文字になったぞ。

パソコンのバグった文字の羅列をじっと見ると、なんだかいやな予感がする。

ステータスを上がる効果があるはずの称号がなくなり、ステータスが元に戻った。

でもその称号を獲得した時の記憶がある。しっかり覚えていて忘れていない。

『凍結魔法』でグレーターオークの身動きを封じ、首領を間接に殺した。

オーク族の侵攻はもとより勇者のせいであり、勇者が一年前にいなくなったことを事実にさせたので、オーク族の侵攻も理由がなくなったじゃないか。

つまるところ、グレーターオークは生きている。オークの集落もいまだに繁盛のままだった。

俺にはその記憶がある。過去を変えたのに記憶が保留されている。それは解せないのだ。

可能性として考えられるのは、スキルは世界線から他の世界線へと遷移することができない、けど記憶は例外だった。人の意識は物質面の範疇から抜けたのではないかと。

不可解なことばかり増える一方、『過去通路』の恐ろしさも増していく。


不穏な空気が渦巻いて、まばたきするたび、周囲の景色が切り替わりを繰り返していた。


『世界線の変動が不可避領域に達しました。

――時空の不対等原則により他の並列世界に移動します。

――抵抗すると時空の法則が破壊されます。ご注意ください。』


ログではなく、視界がすべて文字に埋め尽くされた。

これはどういうこと?

目を閉じて、視界が真っ暗になっていても文字が表示される。むしろやけに目立つことになった。

なんの仕組みだよ、この物理現象。

俺は怖く感じて、しばらく待つことにした。


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