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第三章

そして一日経ち、俺はプーとの約束を果たすべく、朝早くプーの家族が経営した武器屋に行った。

実際は鍛冶屋を兼ねたウェポン屋なので、鉄製のものが壊れた村民は、修理の依頼も出してくる。

ただし、鉄製のものはそんなに壊れやすいものではないから、そういう依頼は少なかった。

かといって、一般的なゴブリン村では、かならず鍛冶屋がある。村の警備に関わる職であれば、常に必要とされる。

武器を作る工房の形で、中にはサウナ房のような高温だった。近寄ると無駄に汗をかいてしまう。用事のない人は立ち寄らない。


「今日はけっこうの分量だね、オヤジ」

俺が武器屋に入ると、すぐさま加工台に置いてあるインゴットの量に驚いた。

加工しないインゴットはプーの親父は絶対に加工台に置かない。そのインゴットの量は近くのうちに全部完成しなければならない量だ。

でも武器というのはそんなに簡単に壊せるものでもないし、ちょっと鈍くなるだけなら磨ぐこともできる。そんなにたくさん注文するのは訳ありなんじゃないか。

「最近はどうも近辺がきな臭い雰囲気だったな」

「きな臭い?」

魔物の草原はいつも通りだと思うが、五歳のガキでは、何もわからないから仕方がない。草原には、縄張りのため、魔物たちは自分の勢力をこれ見よがしに派手に戦力を披露する。しかし、滅法に戦争を主張する馬鹿者はもちろんいるはずがない。大概の場合は挨拶程度の侵攻にすぎない。

大きな戦争をするほど、物資はそう余っていない。

そんな争いばかりすると、近くのオーク族集落のように、敗戦して他の魔物につけ込んで没落する落ち目になるだけだ。

草原の魔物たちは互いに牽制し合う立場にいる。それは暗黙のルールだった。でないとスーパー集落が生まれ、皆も辛くなるだけだ。

「人族が関係していると思うがな。ところで病気は治った?」

プーのお父さんは話題を変えて、確認するように俺をじっと見る。

「あれほど日が経ったのだから、もう快復したよ」

「それならいい。水はちゃんと飲めよ、水はなんでも治る薬だからな」

なんかお母さんっぽいことを言った気がしたが、俺はいい子だからちゃんと聞くぞ。

「うん、分かった」と俺は言った。

プーは裏口の井戸から水を汲み、よろよろと仕事場に歩いてきた。

「来てくれたんだ」

彼女はヒマワリのような笑みを見せて、桶を置く次第、俺のところへ来た。

「そんな力仕事、ぼくに任せてよ、プーちゃん」

「うん、まだ三本あるから取りに来て。すぐ乾くから」

今日、俺がいるから乾くはずがないぞ。凍結魔法を使えば水の冷却もできる。

魔法は便利だからどんどん使っちゃおう。部屋中の温度も下がらせてやろうか。エアコンをつけたみたいに涼しくなるぞ。

俺は「承知した」と言って、かわいいお嬢ちゃんの望む通りに仕事をする。

幼馴染最高だ。前世では幼馴染がないから、誰か幼馴染がいると聞いて羨ましくなるくらいだ。

プーはゴブリンの中でも清楚美麗な部類に入る女の子で、石炭を抱えて炉に投入する仕草も非常に可愛らしい。石炭を抱えて欲しくないな、服が汚れるから。後は一緒にお風呂入ろう。紳士諸君には勘違いしないでほしい。共に子供同士だし、幼馴染だから何回もやったことがあるのだ。そんなけしからぬことを考えているわけではないから。

「ふん~ふん~ふん」

俺は鼻歌を歌いながら水汲み仕事をする。それを終えて加工台へ行くと、いつもと同じように冷却の仕事をやってくれと頼まれた。

もちろん、凍結魔法を直接ぶっ放すではなく、桶の水に一定量の氷を投下することだ。

それからは武器を簡単に研磨する仕事だ。俺は子供だから、少しの手ほどきだけでもすぐに飲み込む。もっと複雑な研磨はプーの父に任せる。

それにしてもゴブリンとはいえ、そんな危険な仕事を子供にやって大丈夫だろうか。

いやいや、魔物の草原でいつ死ぬかも定かではない魔物一匹の俺は選り好みをするほど異世界は優しくない。これを認めないと草原での生活も難しい。これでも子供たちは血の争いで結構守られている立場なので、あまり贅沢は言えない。

それに、初段階の研磨の仕事はそう危険ではない。

もちろん俺とプーはまだ子供だったことは確かだ。子供の俺たちに長時間の労働はいけない。三時間の手伝いをした後、「外で遊んでくれ」とおいとまを与えた。

「お風呂~お風呂~」

俺は先頭に行って、簡易の風呂場に足を踏み入れる。

「ケアル、なんかおっさんみたい」

プーは俺の行動を見て言う。

しまった。痴漢に思われちゃう。鍛冶屋は暑すぎて、ようやく出してくれて嬉しかった。プーと一緒にお風呂だし、つい浮かれてしまう。

「そ、そうかな」

俺は苦笑いをしていう。

プーは俺の反応を見て、素直に笑った。

「まあ、いつも通りだね。そういえば、午後の予定はある?」

「そうね。スキルの練習くらいかな」

スキルを使って村の未来を見る。一ヶ月後の村はどうなるのか、俺は確かめたい。

「ぼくは、スキルを使って未来を変えってくる」とか告げると混乱させるだけだ。ここは口を濁して曖昧に「スキルの練習」を答える。



ということで、午後四時頃、俺は再び山の森へ入り、村を観察する。

鍛冶屋の仕事でMPは一定の消耗があったが、あれなら、三時間くらいあれば回復できる。

だから今のMPは満タンだった。

未来視や過去通路が消耗するMPが高い、満タンにしないと使用するたび心もとなくなる。

『未来視』発動。一ヶ月後のゴブリン村を見る。

今回は大丈夫だろう。前回は滅ぼされた村を見てしまったせいで、今も内心は不安が募る。

近くのオーク族の集落からの攻撃によりゴブリン村は滅んだ。でも、今のオーク族は戦争をする余裕はない。グレーターオークは俺の魔法に喰らって倒されて、オーク族の精兵はほとんど処分された。

黄金色の光が目に宿し、精神力を集中させ、ゴブリン村の一ヶ月後の未来を見る。

「なっ」

なんだこれ!

ゴブリン村は滅んだぞ。

俺の目に映るのは、前回とあまり変わらない光景だった。

残酷しすぎて状況を理解するにはしばらく時間が必要になる。

まるで地獄絵図の目前のゴブリン村は、阿鼻叫喚する村人の目の前、自分の家族が殺された死体、隣の人が殺された死体があった。自分ももうすぐ殺される。どうしようもなく走る、逃げる。

しくしくと泣いた子供や、田んぼでさまよってなすすべもなくぼっとする老人の姿が目に入った。

その中に、強気を見せる女の子がいて、彼女は両手を広げ、通せんぼをしていた。

頼む、あいつだけは、プーだけは殺さないでくれ。俺はあいつの死体を見たくない。

プーは、家族の経営している鍛冶屋を守っている。

あんなちっこい身体では何も守れないのに逃げも隠れもせず、自分の意志で敵の前に立ちはだかる。

「お前の方こそが守られる側だろうが」

俺は手を震えて歯を噛み締めた。

プーの父の死体は視認できた。刀で心臓を貫かれて何もできないまま死んでしまった。

だからプーを守れる人はいない。

「帰れ――」

怒りが込み上げ、プーは泣きながら言い放つ。

「おうちにはお前らのことを歓迎していない」


俺は反対側の魔物を見る。

あれは牛頭の魔物だった。頭の上に角が生えて、顔が鼻の方へ尖らせる特徴を持っていて、間違いなくミノタウロスである。

ゲームはもう何年もやっていないけど、それほど有名なモンスターは一度くらい聞いたことがあるはずだ。

「ふむ、お前、戦うのか」

ミノタウロスはプーを一瞥すると、蔑むような口調で言う。

その声は青年男の声を0.5倍速にして再生したように低かった。モンスターって、やはりそういう声が定型だった。

俺はミノタウロスの持っている武器を見る。

グレーターオークほどではないが、その鉄棒の武器、もとい釘の生えた金属製バットは、現役の力士でも持ち上げられないほど大きかった。

軽く振るうだけでプーの頭がホームランの野球みたいに場外まで飛んでいくじゃないか。

「戦うなら、敬意を払って受けて立とう」

そう言いと、ミノタウロスはバットを頭上にかざす。夕方の光がミノタウロスの背後から差してきた。プーはそのでかい灰色の影に飲まれて、死を覚悟した彼女は目を大きく見開いた。

逃げるんだ、プー!

くそっ! あそこにいれば、プーを確実に守れるはずなのに、どうしてこんな……

あ、あれ、馬鹿か俺。なんでそんなに真面目なんだ。

俺は深呼吸して自分を落ち着かせる。全くもって虚構の未来に緊張して青ざめた。虚構ではないが、未来は自分の魔法で変えられるんだし、虚構だと言ってもいい。

俺は未来視の画面を閉じた。プーの死んでいる場面は見たくもない。それに、状況はすでに把握済みだ。何も最後まで見届ける必要はない。そんなことをするほど俺の腹が太くない。怒りは抑えたが、無性に爆発したくてしょうがない。

事件はオーク族の侵攻から数日後に起きたことなので、二つの事件に関連性がないのはとても想像しがたい。

元々ミノタウロスという種族は、生まれた時からすでに常人を超える怪力を持っていて、二歳未満のミノタウロスは、身体がすでに一人前の戦士ほど成長している。

けど、彼らは弱小な魔物を虐めたり奪ったりはしない。主義というか、教義というか、彼らはそういうものがあった。それはルールであり、古から代々伝わってきたしきたりである。弱小いじめが発覚されたら、それを汚点として「無骨者」の烙印に押され、一生同族の人に嗤われる。

それゆえゴブリンなんぞ彼らにとっては鼻も引っ掛けないちっぽけな存在だった。

ゴブリンの物資を奪わないのは、誇りのためではなく、尊厳のためだった。

ミノタウロスは誇りなどない。

彼らは自分が王族の尊き血筋を引く者だったことは知っている。だが、そのもう一面、彼らは牛の血を半分引いている。だから化け物だった。

他人に揶揄されるのは御免蒙る。尊厳を主張するやり方として、自分の気高さを他人に見せつけるのである。

とはいえ、ミノタウロスの身体能力はオークよりはるか強い。

普通であればミノタウロス三匹だけでも、ゴブリン村を滅ぼすのには十分なほどだ。

性能面では桁が違いすぎて、真正面に戦って勝てる相手ではない。

ゴブリンの上位種ホブゴブリンのさらに上位種の大鬼族なら勝てる

大鬼族は人間の外貌をしていた知恵のある強力な魔物だった。

この世界では、人間の姿をしている魔物は弱いはずがない。一騎当千の大鬼族がいれば、ミノタウロスを倒すなど造作ない。

だが、あいにく、こんな小さな村ではそれほどの強者はいない。ないものを乞うても出てくるはずがない。

客観的に考えれば、ミノタウロスと戦うのを避ける方が正解である。

ミノタウロスは一ヶ月後村に襲撃を仕掛けてくるのは確定事項だ。何はともあれ、今現在できることはただ一つ、その原因を突き止めるしかない。

ゴブリン村に何が気に食わなかったのか、それとも魔物の草原に何があったのかは分からない。

分からないけど、俺には『世界情報』のチートスキルを持っている。

そのスキルを使えば、未来であれ過去であれ、すべての情報をあぶり出すことができる。

まさしくチートスキル。

使うたびに頭が痛い副作用があるけど問題ない、手詰まりになった時どんどん使っちゃおう。

今夜は寝覚めが悪くなるそうだ。

俺の家族、いつも傍にいる幼馴染、優しくしてくれた村の大人たち、彼らの顔を思い出すと、自分のやるべきこと、信じるべきことはすでに決まっている。

村を助けるんだ。彼らに死んでほしくない。

俺は『世界情報』を発動する。




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