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  メスガキリスペクト系女子高生②


「と、いうわけで香苗にメスガキの思考を教えてほしいんです」


「え、朝からそんな話する?」


 翌日、私は朝から香苗と待ち合わせして悩みを相談している。

 昨日連絡をしたら心配してくれて、今朝は家の前まで来てくれた。本当に香苗は良い友人だ。

 佐藤くんの件は伏せて、あくまでもお父さんの仕事の手伝いの家庭で気になったという風に話を作った。

 お父さんがエロ漫画家でよかったと初めて思った。


「別に私たちしかいないですしいいじゃないですか」


「ていうかそんな話なら先に言えよな。過去最大のピンチって連絡来たから、焦ったじゃないか」


「あはは、すみません。勢いで連絡したので文面を考えている余裕もありませんでした」


 香苗はため息を吐いて呆れたように目を細めた。

 確かに昨日の文章は少し誤解してもおかしくないですね。次から気を付けないといけません。


「で、なんで私に相談するのさ。あんたの親父さんの方がそういうの詳しいだろ」


 その疑問は当然。

 今回は香苗の方が適任だと思ったのは昨日お父さんと話していることと、メスガキの思考については色々と詳しそうだからだ。

 素直に尊敬しているので満面の笑みで答える。


「ほら、香苗って普段から自分以外の人間のことゴミみたいに見てるじゃないですか。それって小さくないだけで、メスガキっぽい態度だなあって思ったんですよー」


「言いたいことはそれだけか?」


「いふぁい! 香苗いふぁいれす!」


 ヘッドロックを決められ、胸に押し付けられてもがもが悶えながら香苗の腕をタップする。

 最後にぎゅっと力を込められてから解放される。

 あ、危なかった……。息が止まっていたし死ぬかと思った。


「っぷはあ、はあ、何するんですかもう!」


「こっちの台詞だろ。ったく、学校ではお嬢様みたいに振る舞ってるのに那智って素だと抜けてるよな」


「そうですかね?」


「ああ。純粋な毒舌は質が悪い。と、そろそろ学校向かうか」


 香苗が歩き出したので私も横並びに続く。


「それで、香苗。教えてくださいよ」


「サイコパスか」


「いいじゃないですか。香苗くらいしかこんな相談できる友達もいないんですよ」


「はあ、アドバイスねえ。メスガキが最近ASMRとかで流行ってる理由かあ……」


「そうですけど、あれ? 私そこまで言いましたっけ?」


「……言ってた。それで! その理由だけどな!」


 何故か急に声を大きくして香苗が話し出す。

 周りに人がいないからいいけれど、あまり大声で話す内容じゃないから落ち着いてほしい。

 恥ずかしさとかないんでしょうか……。


「何かわかりますか! ぜひ教えてください!」


「そうだなー、メスガキっていうのはただ人を馬鹿にする訳じゃない。那智はまずこの辺を勘違いしているだろ?」


「え? 殴りたくなるようなクソガキじゃないんですか?」


 少なくとも昨日漫画や佐藤くんの持っていた音声を聞いた限りではそんな印象しかない。

 それ以外に何か暗喩されていることがあるとでもいうのだろうか。

 やっぱり香苗を頼ったのは正解だった。


「確かにメスガキは殴りたい。それは私も否定しない。でもそれはメスガキの表面しか那智が見ていないからだ」


「はあ」


「ピンと来てないな。人間発言した気持ちがそのまま本性じゃない場合もあるだろ。那智も学校でよくやってるじゃんか」


「……あ。確かに」


 学校では今の香苗にしているような態度で過ごす事なんてまず出来ない。

 それこそ猫を被っていると言われても否定はできない。

 周りに良い評価を受けたい欲が人一倍強いから、むしろ何でも相談できる友達が一人でもいる現状が奇跡だと思っている。

 私が驚いて目を丸くしていると、香苗がびしっと指をさしてきた。


「メスガキもシンプルに性格悪いだけじゃない。那智みたいに相手に本性を隠して意地悪を言っちゃうだけの場合もある。その場合、メスガキの雑魚は大好きの裏返しになるんだ!」


「な、何ですってー!?」


 雑魚が好きの裏返し?

 素直になれないから恥ずかしくて意地悪をしてしまう。

 そんなの。

 そんなの……。


「え、嘘、そう考えたら……可愛く見えてきました!」


「ふ、一皮むけたな」


 香苗が人差し指で鼻をこすって誇らしげにしている。

 不思議だ。ただ生意気でムカつくだけの台詞の数々が実は好きの裏返しだと考えたら、途端に可愛く思える。


「ま、そうじゃないメスガキ物もあるが、私はそっちの方が好きだぞ。――って話を! この前ネットで見た!」


「はえー、流石香苗です。アンテナの張り方が尋常じゃないですね」


 香苗の性格を見込んで聞いた事だったが、思っていた以上に納得のいく意見を貰えた。

 それに何でか少し共感できる部分がある。

 本心を隠して、好きなのにどうしても気持ちを相手に言えない気持ちは痛い程よくわかる。

 私が佐藤くんを昔から好きなのに、未だに告白も何も出来ていない現状が少し被るような気がした。


「でも本当にいい話を聞けました。香苗に聞いてよかったです」


「へへ、よせやい。何もでねーぞ」


「早速実践してみます」


「待て、お前は何をしようとしている?」


 がっしりとその場で肩を掴まれる。

 やっばい、興奮して失言した。

 佐藤くんも隠していた事なので、バレないようにしないと。


「何でもないでやんす! 今朝も良い天気ですわ! 早く学校に行くとするでごわす!」


「動揺してキャラぶれてっぞ。まあ、詮索はしないけどまた馬鹿なことに巻き込まれてるんだな」


 香苗がそれ以上話すことは無くすたすたと歩いていく。

 気を遣われましたね。

 その方がありがたいので今は素直に感謝しておこう。

 不良っぽい見た目だけど心優しい友達に感謝。

 でも口でいうわけにはいかないから、態度で示そう。


「ありがとうございます。合掌だけしときますね」


「どういう思考回路してるんだ……」


「がっはっは! 那智、朝から礼拝とは精が出るな!」


「ひゃうう! 佐藤くん!?」


 気づけば私たちの後方に佐藤くんがいた。

 いつものように歯を見せて豪快に笑っている。

 かっこよすぎる。


「おっす佐藤。朝からテンション高いな」


「おう! 昨日は那智に勉強を教えてもらって普段よりも出来たからな。俺は今勉強へのやる気に満ち溢れている」


「赤点野郎が言う事かよ。ま、上手くいってるっぽいなら良かった」


 一瞬香苗がこっちを向く。

 しかしすぐに佐藤くんに向き直った。

 というか、二人仲良さげでは? 


「あ、那智。昨日の話はどうなってる……?」


 佐藤くんが香苗に聞こえないように小声で話しかけて来た。

 一瞬意識が吹き飛びそうになったが耐えて反応する。


「え、ええ。良い感じです。早速今日の放課後に実行するので待っててください」


「おお、そうか。わかった、本当に何から何まですまんな」


「いえいえ、佐藤くんが困っているのなら何でも手伝います」


「本当にいいやつだな。今度何でも言うこと聞くぞ」


「ふふ。ありがとうございます」


 どこで式を挙げましょうかね。

 何でも、といったので海外も候補に入れましょう。


「ああ、なるほど。ってマジか、意外だな……」


 香苗が私たちの様子を見て驚いたように一歩引いた。

 そんなにお似合いに見えましたかね……、えへへ。


「……佐藤にそんな趣味が。うわー、全然わからなかった」


 一人でぶつぶつ言い始めて頭を抱えている香苗に、私も佐藤くんも頭の上に疑問符を浮かべた。

 兎にも角にも佐藤くんの成績を改善するためには一日も惜しい。

 まだ色々とメスガキについて聞きたいことはあるけれど、流石にバレる可能性もあるし私がどうにかしないといけない問題だ。

 残りの時間で気持ちを作って、どんな台詞を言うのか考えて、と。

 うん。間に合いそうです。

 今日の放課後、早速実践に移しましょう。


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