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  雑魚雑魚マッチョ③

 始業時間の十分ほど前に学校に到着する。

 大体このくらいの時間に到着するようにしているのは、早く学校に着きすぎると色々と話しかけられることが多くて面倒くさいから。


 私が可愛くて仕方ないのはわかりますが、そもそも人とそんなに関わりたくない性格なので朝から大勢の人に挨拶されると本当に気が滅入ります。

 見知った顔なら平気ですが、面識も無いような人から一方的に話しかけられることもあるので早く登校しても何の徳もありません。


 香苗とは席が遠いので休み時間や授業中は香苗バリアーが使えず普通に他の生徒と会話しないといけないので割と困ります。

 他の生徒と仲が悪いわけではないのですが、私の交友関係が狭く深くなので広く他人と関わるのは苦手なのです。


「おはよう那智」


「あ、おはようございます」


 左前の席からわざわざ振り向いて来たのは、岩上くん。

 サッカー部のエースで次期キャプテン候補だ。

 容姿も普通に良く、特に女子生徒からの人気は高い。

 本人は男女問わず仲良くするタイプなので、一言で表すと学校の人気者。

 まあ、私は苦手ですが。


「那智、今日も可愛いな」


「ふふ、ありがとうございます。岩上君も今朝から部活に精が出ますね」


「お、見てたのか? まあ大会も近いしな。今度の土曜日に大きな大会があるんだよ。後で場所送っとくな」


 いや、送るな。


「あーごめんなさい。その日は叔母の家に用事があって、難しいかもしれません」


「そっかー。那智が来てくれたらもっとやる気出るのにな。こりゃ決勝まで進むしかないか」


「ふふ。現地には行けませんけど応援してますよ」


「おう。絶対に勝ち進んでやるよ」


 きっつ。というか何故に呼び捨て。そんなに仲良くないのに。

 あー。この人の全ての人間は俺のことを好きだろムーブは本当に無理だ。嫌われない努力というものを考えたことが無さそう。

 生理的に受け付けない。

 私は人の顔色を伺って必死に努力しているのに。

 あんまり話しかけられると他の女子から理不尽に恨みを買ってしまうので、その点もかなり無理です。


「ええ、応援していますよ」


 面倒くさいので愛想笑いだけ浮かべて、そそくさと鞄を開く。

 会話は終わりだとアピールしたつもりだ。


「そうだ、那智って今日の放課後とか空いてないか? 部活がないから一緒にマックでも行かない?」


 何故そうなるんですか……。

 あーどうしよう、今日はやけに食い下がって来る。


「あーっと、今日ですか……?」


「おう。何? もしかして用事あった?」


 まずいクラスの視線が集まっている。

 ここで下手な嘘を吐けば私の評判に関わってしまう。

 かといって興味のない岩上くんと出掛けるような真似は出来ない。変に勘違いされると困りますし。


「ん? ったくしょうがねー」


 香苗が状況を察してフォローに入ろうと席を立つ。

 その瞬間。教室の戸が勢いよく開かれた。


「ぐおおおおお! まずいぞおおおお!」


 大声をあげて入って来たのは佐藤くん。

 その尋常ではない様子に私も含めて全員の注目が集まる。


「ど、どうしたんですか佐藤くん」


 私は助けを求めるつもりで率先して佐藤くんに話しかけた。


「っむ? むむ! むむむむ!」


 私を見た瞬間に佐藤くんがこちらまで駆け寄って来る。

 そして、私の手を握った。

 ふわあ、大きな手。

 しゅごい……。


「え……、ふえええええ!?」


 一瞬の間をおいて今の状況に脳みそが追い付く。

 佐藤くんが私に触れてる!

 筋肉質でごつい手が私を包んでます!

 なにこれ!? 幸せすぎて頭がおかしくなりそうです!

 周りも佐藤くんの突然の行動にざわざわと騒がしくなる。


「那智ぃ! いいところにいてくれた! 頼みがあるんだ!」


「は、はい! えっと、指輪はどこに買いに行きましょうか!?」


 結婚するなら、式場も決めないといけませんね。


「指輪? 何を言ってるんだ。実は俺、今朝職員室に呼び出されてな。この前の中間テストの結果を教えられていたんだ」


「え? は、はあ」


 プロポーズじゃなかったんですね……。


「一年の時から勉強は学年最下位だったが、どうやら本格的にまずいらしくてな。期末テストも全教科赤点だと、本気で留年の可能性があると釘を刺された」


「え、ええ! 留年!? 佐藤くんそれはまずいですよ!」


 昔から勉強は本当に苦手だった佐藤くん。まあそこも可愛いのですけれど。

 まさか先生からそのような忠告を受けるほど悪いとは思っていませんでした。

 私の手を握る力がさらに強くなる。


「それでだなお願いがある。那智は成績が良いから、俺に勉強を教えてくれないか?」


「え、ああ、ええと……よ、喜んで」


 断るつもりもありませんが佐藤くんの情熱的な視線に完全に心を奪われ、半ば放心状態で頷きました。


「おお! 本当にありがたいぞー!」


「あ、いえいえ。佐藤くんのためになるのなら、何でもしましゅ。放課後だけとかじゃなくて、お、お休みの日でもお手伝いします」


 喜んでる佐藤くんも可愛いよー!

 抱きしめたい!


「っておいおい! 俺との予定はどうするんだ!? 先に声かけてたのはこっちだろ?」


 ん? 

 あー、そういえば岩上くんいましたか。

 面倒くさい。

 佐藤くんと私の世界に入って来るなんて本当に空気の読めない虫ですね。


「すみません。佐藤くんの方がかなり急を要する事態なので……。流石に留年なんてことになったら嫌ですし」


「悪い翔太! だが那智の力を借りないとどうにもならなそうでな……」


 そういえば翔太って名前でしたね。名字しか覚えてませんでした。

 佐藤くんが申し訳なさそうにしていますが、その小動物のような顔が大きく筋肉質な姿と反比例していて滅茶苦茶庇護欲を駆り立たせます。

 あーーーーーーー!

 可愛いいいいいいい!


「え、ま、まあ、お前に悪気が無いのはわかるしな……。そうだな、また今度出掛けようぜ那智」


 お前は黙れ。

 ほくそ笑むな。


「ありがとう二人とも! 俺は嬉しいぞー!」


「うふふ、佐藤くんったら」


 私も嬉しいいいいいい!


「あんたらよく仲良いよな。マジで不思議だわ」


 香苗が呆れたように目を細めていましたが、今はそんなこと気にならない。

 佐藤くんにお勉強を教える。

 つまり家に(合法的に)入る。

  ↓

 仲良くなる。

  ↓

 結婚!

 なるほど、私の人生明るい。

 完璧なライフサイクルです。

 今日の放課後から早速取り掛かろう。

 いまからドキドキが止まりませんね、これは。

 気づいたら私は高揚感と少しの気恥ずかしさが混ざった不思議な気持ちになりながら、頬を緩ませていた。


「でへ、でへへへへ」


 怪しい笑い声に自分では気づくことが出来ず、香苗に指摘されるまで続いていたそうだ。


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