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  雑魚雑魚マッチョ②


 一週間前。

 思い返せばあの日から私の人生は大きく狂い始めたのでしょう。


「おっはー、那智」


 親友の香苗が、登校中の私の肩をトンと叩く。

 バレないようにこっそり近づいていたらしく、ビックリしてつい強張ってしまった。


「わ! もう、香苗。驚かせないでください」


「悪い悪い。反応が可愛いからつい、ね」


 相変わらず異性よりは同性に好かれそうな振る舞いでニカっと笑みを浮かべている。

 ちらりと見える八重歯が彼女のチャームポイント。

 女性にしては高めの百七十センチある身長に、少し着崩れた制服の着こなしは不良のよう。しかし、彼女のそれは不良なのではなくただただ面倒くさがりでズボラなためだという事に気づいている人は少ないです。


 肩上でバッサリと整えた髪に、ツリ目なのも相まって時折男性と勘違いされることもあるそうです。実際に男性だったらかなりの美男子でしょう。それ程までに香苗の容姿は整っています。

 本人に美容の意識が薄いのが幸いしていますが、本気でお洒落に目覚めたら私より可愛くなりそう。


「まったく、香苗は……。そんな事するから女の子から告白されるんですよ」


「んあ? あー、それな。先週も三回くらいされたからビビったわ。この学校の男子は魅力なさ過ぎなんじゃないか」


「香苗に比べられたら、アイドル級のイケメンじゃないと霞んじゃいますよ」


 私は論外として、普通の女の子は好きそうな雰囲気ですもの。

 流行りの韓流系のアイドルとかにもメイク次第で全然寄せられそうですし。


「まったく、那智は相変わらず言うなー。自分の事棚に上げてよ。先週は何人だ?」


「えーっと手紙も含めると八人ですね」


「うわ、遂に一日一人以上の大台に乗りやがった! よくもまあ、そんだけ告られてなびかないもんだ」


 香苗がからかうように言ってくる。

 周りに人がいるのに、あまり大声でリアクションをとらないでほしい。

 それでなくてもスーパー美少女の私と、そこそこ目立つ容姿の香苗のセットは目立つというのに。


「当然です。学生たるもの恋愛にかまけている暇はありません。そんな事よりも私は勉強して将来のために有益な知識をつけていきたいので」


「あーへいへい。夢が無いなー」


 何故か香苗が生暖かい目で見てくる。


「何ですかその目は……。変な事は言ってませんけれど?」


「那智が言うなってこった。お、噂をすれば、おーい佐藤!」


「ふえ!?」


 香苗が後ろを見て手を振る。

 友人が多いので挨拶をするのは普通ですが、問題はその相手。

 名前を聞いた瞬間変な声が出て体に力が入ってしまった。

 体勢で全身が石になったように固まったまま、首だけギギギと動かし振り向く。


 そこには予想通り佐藤浩二くんが立っていた。

 香苗の挨拶に手を振り返してにこやかに笑っている。そのまま私たちに近づいてきた。

 うわ、すっごいカッコいい。何あの笑顔。人間国宝ですか。


「おう、香苗! 朝から元気がいいな! がっはっは!」


「あんたほどじゃないけどね。ていうか、朝から汗びっしょりだな。近づくなよ」


「筋トレ後だからな。そんな固いことを言うな」


 腕を挙げて上腕二頭筋に力を籠める佐藤くん。

 丸太のように太い腕から筋肉が浮き出て、抱かれたい腕ナンバーワンの貫録をひしひしと感じさせます。


 佐藤くんは私の家の隣に住んでいる幼馴染で、身長百八十センチ丁度。誕生日は八月九日。血液型はO型。最近はアニメにはまっていますが昔から最大の趣味は筋トレ。故に現在はボディビルダー顔負けの筋肉を身に宿し、よく家の庭で筋肉と話している光景を目にします。可愛い。生まれた時の体重は三千五百グラム。そこそこ重い方でしょう。がっはっはと笑う時に、口を大きく開けるので歯並びを観察しますが虫歯もなくホワイトニングでもしてるのかっていうほど綺麗です。かっこいい。その他にも佐藤くんは――。


「うわ、近くで見たら汗マジでやば。制服絞れるだろそれ」


「む、そうか? そんなにか?」


 私が色々と考えている内に、佐藤くんが自分の腕に鼻を近づけてクンクン匂いを嗅いでいる。

 うわあ、可愛い。クンクンしてる。

 普段絶対そんなの気にしなさそうなのに、香苗が困った顔したら迷惑かけてると思って心配になるの好きー。

 自分じゃなくて他人のために配慮できるの好きー。

 あー写真撮りたい。


「おお、那智もおはよう。挨拶が遅れてしまったな」


「ええ!? 別に全然! むしろこっちから挨拶しなくてごめんなさいというか、お手を煩わせてすみませんというか! 不束者ですがよろしくお願いします!」


「がはは、朝から那智は元気だな!」


「本っ当、幼馴染なのによくやるよ二人とも」


 佐藤くんかっこいい!

 がはは!? 私で笑ってくれたの!?

 やばいやばい、今日は最高の一日のスタートですよ!

 何で人間の目にはカメラ機能が無いのでしょうか。この光景を永久保存する義務があるというのに。

 いや、カメラが無いなら脳みそだ。

 うなれ私の大脳皮質!


「っと、今朝は少し急ぐんだった。すまんな二人とも、俺は先に行くぞ。じゃあな、遅刻するなよ!」


 佐藤くんが手を振りながら学校に駆けていく。


「わかってるって、また後でな」


「さ、佐藤くんも、道に迷わないようにね! さ、さよなら!」


 そのまま角を曲がって直ぐに姿が見えなくなる。

 運動神経抜群の佐藤くんのことだから、ここから学校までそう時間もかからずに到着するでしょう。

 ……ふう。


「さっきの話の続きですけど、私が言うなってどういうことです?」


「多重人格かお前は。さっきまでの自分の様子思い出しとけ」


「えー?」


 様子ですか。

 いたって普通だったと思いますけど。

 顎に手を当てて頭をひねるが何も違和感はない。


「別に普通では?」


「佐藤が来てる時だらけきった表情してただろ。それが好きじゃなくてなんなのさ」


「いえいえ、佐藤くんを好きなんてあり得ません。確かに幼馴染でお隣さんで、世界一のイケメンですが。考えるだけで一日潰れますし、心臓の動悸が激しくなることもありますけど……」


「ばっちり、好きじゃんか。へへ、佐藤の奴も幸せ者だな」


 好き……。

 香苗のこの反応はか、らかっているようではありません。

 もしかして本当に私は佐藤くんに好意を抱いているのでしょうか?


「幸せ者って、勝手に誤解しないでください。佐藤くんにも悪いですよ」


「何言ってんだ。那智から好意を寄せられるなんて、男だったら喜んで言い寄って来る状況だろ」


 私は可愛いですが、佐藤くんは容姿で人を見るような人ではないので関係ないでしょう。

 その辺の男性とは一線を画しているのです。


「もう、確かに佐藤くんを窓から盗撮したり、抱き枕の中に写真を大量に突っ込んで寝たり、髪の毛を採集したり、佐藤くんの洗濯物を少し借りたりしますけど、好きとかじゃないですよ?」


「よしわかった、佐藤逃げろー!」


 香苗が佐藤くんの走り去った方向に突然大声で叫ぶ。

 本当に落ち着きがない。

 友人として、卒業までにしっかりと女性らしい振る舞いを教えないといけませんね。

 その後は、どういう訳か私と少し距離を置いて歩く香苗の後ろをついていくようにして学校まで向かった。


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