萌え!②
「香苗、私はブイチューバーになれるでしょうか?」
「朝一から何言ってるんだお前は……」
登校中に香苗から白々しい目で見られてしまう。
それもこれも、昨日の佐藤くんのせいです。
でも佐藤くんが二次元を好きだという事は秘密なので、私一人だけ悶々としないといけないんですよね……。
「えっと、昨日テレビで特集を見まして。結構人気じゃないですか。なので私もなれるかなー、と思いまして」
「うーん、那智がもし配信するんならお前は顔出した方がいいだろ。顔は良いんだしよ」
顔は、という表現に引っかかりますが、いくら私が超絶美少女でも佐藤くんの眼中になかったら意味が無いんです。
「そういうものですかね……」
「お前って時々変な事で悩むよな。頭いいんじゃないのかよ」
「それはそれ、これはこれですよ」
二人して雑談しながら登校する。
校門前で、突然背後から声を掛けられた。
「あ、あの、秋月先輩!」
振り返ると、私よりも少し小柄なツインテールの一年生が立っていた。
ここ二日くらいで急激に仲良くなったので、何だか歯がゆい気分です。
「ん、フェイト。おはようございます」
「はい! おはようございます!」
私が反応するとぱあっと目を輝かせて笑顔を浮かべる。
いや、可愛い。
何でこんなに小動物みたいなんでしょうか。抱きしめたい。
「お、那智の新しい友達か。おはよう、私は香苗」
「あ、おはようございます! えっと、加藤先輩ですよね!」
「お、知ってるのか? どこかで会ったっけ?」
「いえ、加藤先輩も有名人なので。凄くかっこいい女性の先輩だし、一年生の間で憧れてる人も多いんですよ」
え、ちょっと待ってほしいです。
「そ、そうなのか? はは、何か照れるな」
「香苗、ちょっと」
照れている香苗の肩に手を置く。
いま衝撃の事実が分かりましたよ。
「香苗って、加藤って名字なんですか?」
「今更何言ってるんだ?」
「てっきり、ボーちゃんみたいな感じで詳しい名前無いのかと思いました……」
「泣くぞおい」
いえいえ、これは衝撃です。
ちょうど佐藤くんもグラウンドを兎飛びしているので聞いてみましょう。
「佐藤くーん」
「お、なんだ那智。今筋トレ中で時間はとれんぞ」
「加藤って名字の友達いますか?」
「ん。聞き覚えないぞ」
「マジかよおい」
香苗ががっくりと項垂れる。
ちょっとかわいそうなので、これからはしっかりと覚えておきましょう。
「あ、それだけです。頑張ってくださいね」
「うむ! じゃあな!」
ひやー、佐藤くんが手を振りながら去っていきます。
可愛い。歯が綺麗。兎飛びの跳躍力凄い。
「あ、私なにかまずいことしちゃいましたか?」
「いや、フェイトは悪くねえよ。むしろ良い子だな。よく那智と知り合ったもんだ」
「先輩にはお世話になったので」
「ふふ、言い方気をつけましょうね」
香苗は不思議そうに首を傾げていますが、私がフェイトと知り合った話をするつもりはないです。
フェイトにとっても気持ちのいい話じゃないでしょうし。
「ふーん……、相変わらず首突っ込んでんのか」
香苗が何か言っていますが聞こえません。
「にしても那智、お前最近色々と交友関係増えたな。フェイトは可愛いからいいけど、あのお嬢様とか面倒そうだぞ」
「もう、香苗は見た目で判断していますね。神宮寺さんはあれでしっかりしているので、心配するほど変じゃありませんよ」
フェイトの件でも神宮寺さんに巻き込まれてしまったとはいえ、色々と頑張ってくれたのは事実ですし。
香苗はまだそこまで仲良くないですものね。
「あ、秋月先輩。よければ今日の放課後に少し会ってくれませんか? 神宮寺先輩も呼んでるんですけど」
「あー、放課後ですか。大丈夫ですよ、でも夜には用事があるので少し急ぐかもです」
佐藤くんとの勉強会ですけど。
フェイトとは仲良くしたいし、遅くなることを連絡しておきましょう。
こうしているとまるで夫婦みたいですね。
ふふ、夫婦ですか。
あー、結婚したいなー。
取り敢えず連絡を佐藤くんに送って。
あれ? 佐藤くんから連絡来てますね。
――すまん那智。今日の放課後は用事があるから無しで頼む。
佐藤くんに用事ですか、まあ私もなのでちょうど良かったです。逆に運命感じちゃいますね。
「えへへ、大丈夫です、嬉しい」
「く!」
「どうした那智!?」
膝を着いてその場に蹲る私に香苗が心配して近づいてくる。
「これが、萌えですか。少し、理解しました」
「朝から元気だな」
そのまま香苗に置いていかれた。
酷い。
――――――――――
教室に入ると、何故か当たり前のように神宮寺さんがいた。
クラス違うのに、凄い馴染みようです。
「あ、那智さんおはようございます。お待ちしておりましたわ」
綺麗な所作でお嬢様らしく挨拶してくる。
やっぱり育ちは良いんですよね。
何で少しだけ残念な部分があるのでしょうか……。
「おはようございます。用事、ですか……?」
「はい。那智さんに少しお聞きしたいことがあって」
「いいですよ、私が力になれることなら。神宮寺さんとは仲良くしたいので、浅慮せず聞いてください」
神宮寺さんは安心したようにほっと胸を撫でおろした。
そして、周りには聞かれたくないのか私の耳元に顔を近づけてくる。その頬は少しだけ赤く染まっていた。
可愛いところあるじゃないですか。
まったく、そこまでして聞きたい悩みなんていったい何が――。
「その、佐藤様と放課後デートすることになりまして……。好みを聞かせてくれませんか?」
「は?」
よし、絶交しよう。