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8・萌え!

 フェイトさんのいじめ問題を一応解決した放課後。

 私は佐藤くんの部屋で勉強を教えていました。


「相変わらずこんな問題も解けないんだ♡ 脳みそざっこ♡ カニみそ以下♡」


「く、英単語は今まで勉強していなかった分、どうしても覚えづらいな……」


「いい訳乙♡ 本当に情けないお兄ちゃんなんですけど~♡ もうざこって言葉も勿体ないかもね~♡ 馬の骨♡ 匹夫♡ 小物♡ 群小♡」


「雑魚ってそんなに言い換えあったんだな!」


 佐藤くんは、相変わらずメスガキ口調で勉強を教えないと、二秒も経たずに勉強をやめてしまいます。

 それでも最初に比べたら、自力で少しずつ問題を解けるようになってきています。

 その成長が嬉しくもあり悲しくもあるような、母のような気持ちを抱えているのは超絶美少女の秋月那智です。


「ていうか、この部屋今日エアコンの効き悪すぎ~♡ ざこお兄ちゃんは、エアコンもざこなんだね~♡」


「ぐ、このメスガキめ! 気が散るようなこと言うな!」


「あっれ~、誰がよそ見していいって言ったの~?」


 佐藤くんの耳元に顔を近づけて囁くように、それでいて甘えるように声を出す。


「さっさと宿題終わらせろ、ほらほら、3、2、1、ぜ~ろ♡」


「うう、宿題が終わるうう……」


 傍から見たら私が頭のおかしいサイコパスガールですが、これは雑魚雑魚マッチョの佐藤くんが言って来たことです。

 だから仕方のない事で、決して私も少しずつ楽しくなってきているとかそういうのじゃありません。


「あ、おわちゃったね~♡ ちょっと早すぎるんですけど~、ざっこ♡ ここも、ここも、間違いだらけだし♡ なっさけな~い♡」


「くそ! 俺にもっと甲斐性があれば、消し消し!」


「ちょっとぉ、(消しカス)出しすぎ♡ 白いのいっぱい出まちたね~♡」


 佐藤くんは、やればできる子なので間違いこそ未だにありますが、私がメスガキでいる限り勉強の手が止まることはありません。

 着々と学習効率も上がっています。


「これと、ここを直してと。よし! 今日のも完璧に終わったな! ありがとう那智!」


「は~い♡ ――ふう、佐藤くんもどんどん勉強が出来るようになってきましたね。凄い成長です」


「……」


 額を拭った私を、佐藤くんがまじまじと見てくる。

 そんなに済んだ素敵な視線を向けられると、照れてしまいます。

 襲ってください。ヘイかもん。


「何か、那智の切り替えの早さちょっと怖いくらいだな」


「佐藤くんがやらせてるんですよね!」


 ちらりと時計を見ると時刻は午後七時前。

 まずいです、想定よりも早く終わってしまいました。

 このままだと……。


「さ、佐藤くん。今日はもう少し勉強しませんか?」


「ん? あー、今日は用事もあるし終わりでもいいか?」


「うう、じゃ、じゃあ、メスガキしたままご飯食べさせてあげます!」


「それは変態すぎるな。流石にやばいだろ」


「え、佐藤くんに恥じらいがあったんですか……」


 驚愕の真実に目を見開く。

 佐藤くんは、不服そうに珍しく少し頬を膨らませていた。

 可愛すぎる。わからせたい。

 あ、駄目だ。思考がメスガキに近づいちゃってる。


「那智、いつも進んでメスガキしたがらないのに、今日は少し珍しいな?」


 ああもう、そういうところは気付くんですね。

 好きすぎてやばたん。


「だって、佐藤くん今日あれ見るんですよね。その、フェイトの配信」


「ああ。折角だしな」


 それに少し抵抗があるんですよ。

 佐藤くんが知ってる女の子の配信を見るなんて、何だかすごく嫌です。

 嫉妬なのはわかっていますけど、佐藤くんがどんな反応するのか気になっちゃいます。


「そうですか……。私は邪魔ものですよね……。雑魚なので帰ります」


 うう、佐藤くんの趣味は否定したくないので帰りましょう。

 私は勉強を教えて佐藤くんが進級できればそれでいいんです。

 それ以上を望むなんて、分不相応な願いですよね。


「ん? どうしたんだ那智? 一緒に見ないのか?」


「見ます! いやー、楽しみですね配信! わくわく!」


 流石佐藤くん。

 大好きです。

 私が意気揚々と頷くと、佐藤くんはスマホを操作して、配信サイトで事前に教えられていたチャンネル名を検索していく。

 暫くすると、チャンネルを見つけたようで画面を見せてくれた。


「これだな。【春雨サダメ】って名前で活動しているそうだ」


「へえー。あ、こんな顔なんですね。アニメのキャラみたいでやっぱりかわいいです」


 画面を見るとピンク髪でショートボブの猫耳ロリっ子が、笑顔を浮かべていた。 

 改めて技術の進歩に感心します。

 これが現実とリンクした動きをして喋るんですよね。凄いです。


「そういえば那智は、どれだけブイチューバ―の知識があるんだ?」


「恥ずかしながら、ほとんどないです。絵が動いて配信するっていうのは知ってますし、ニュースとかでもたまに見るのでその程度ですね」


「そうか、ならば驚くぞ! 最近は個人勢でも、凄い動きが滑らかだからな」


「個人勢?」


「企業とかに入ってなくて完全に一人で配信してることだ。やはり資金面では企業に及ばんが、自由度が強いから時折凄い個性の子がいるぞ!」


「た、楽しそうですね……。佐藤くんってメスガキ以外にも結構そういうの好きなんですね」


「ああ、まあ、一番好きなのはメスガキだが。昨日もメスガキのASMRを購入したぞ。耳元で無限に罵倒されて、それはそれは最高だった。那智も聞くか?」


「ええ、やっば」


 メスガキが絡むと佐藤くんが少しおかしくなるのは何故なんでしょう……。


「と、配信が始まるな! 一緒に見るぞ!」


 佐藤くんが机の上にスマホを横向きに置く。

 すっと椅子を立って私に座るように促してきたので、無言で座ります。

 ああ、優しい、かっこいい、だいしゅき。

 佐藤くんはそれが当然の行動のように、私の背後に立って画面を覗き込んでいました。

 近い! 顔が近いです!

 ああ、素敵! 顔の全てのパーツが芸術作品です!

 佐藤くんの、人間ルーブル美術館!


「は、始まりませんね」


「待機画面だ。直ぐに始めるぞ、お、来た来た」


 待機画面とやらがフェードアウトすると、左にコメント欄、右に大きくサダメちゃんが映っている画面になりました。

 これは見たことあります。

 確か横でリアルタイムにコメントが流れて、配信者が反応するんですよね。


『みんなー、こん春~! みんなの妹、春雨サダメだにゃ! よろしくにゃ~!』


「わ、本当に凄い滑らかに動くんですね。可愛いです」


「だろ、にしてもサダメちゃん可愛いな。妹にしたいぞ」


「ええ……」


 第一声で早くも虜になった佐藤くんは無視して、配信を見る。

 結構人気なようで、同時接続者も千人近くいます。


『今日は久しぶりの雑談枠だから、色々サダメのお話聞いてね! 最近コラボが多かったから、話がたまってるの!』


「あれ、語尾がもう変わってますよ。にゃ、じゃないんですか?」


「ふ、甘い甘いぞ那智! 博多通りもんか!」


「ええ、何言いよーと?」


「語尾はあくまでも設定! 喋りやすいのが一番だ!」


「はあ、そういうものなんですか……」


 佐藤くんの意味不明な解説はあったがコメント欄を見ても指摘されている様子は無い。

 どうやらサダメちゃんの語尾は形式的なものであり、義務ではないようです。


『今日ね今日ね! サダメ少し困りごとがあって悩んでたんだけど、それが解決したの! サダメ嬉しかったんだにゃー! まだまだ世間様も捨てたもんじゃないよね!』


 コメント欄では。

 サダメちゃん大丈夫?

 笑顔可愛い。

 思い出したように語尾付け足してて草。

 等の文面が流れていたり、心配するようなコメントもあった。


『え、あー、内容はね、今は秘密! その内皆にも発表するから楽しみにしててね~!』


「上手いな、俺たちの感謝をしながら話を逸らした。中々のやり手だ」


「え、今の私たちの話だったんですか?」


 全然わかりませんでした。

 そっか、プライベートな話を発言するときは細心の注意が必要なんですね。


『最近は新しい友達も増えて、サダメ今日は超ハッピー! テンション高すぎてうざいって? 今日だけは許してよー! ごめんちゃい! 配信の最後には、少しだけ歌っちゃうから皆頑張って残っててねー!』


「ええ、可愛い。内気なフェイトさんがこんなに喜んでるのギャップが凄いです」


「さてと、チャンネル登録はしたな。メンバーにも入っとくか」


 佐藤くんが見たことも無い速さでスマホを操作している。

 すると緑色の表示で佐藤とコメント欄に流れた。


『ん? おお! 佐藤さん、メンバーありがとう! すっごく嬉しいよー! これからよろしく!』


「おお、サダメちゃん。可愛すぎるぞ。一生推そう」


「気持ちはわかりますけど、そういうの本人に言いましょうね。一番喜んでくれそうです」


 それにしても見事な配信です。

 今日は雑談と言ってましたけど、他にどのような活動をしているのかも気になりますし、知り合いが有名人なのは少し鼻が高くなります。

 佐藤くんが熱中しすぎないように注意しながら、私も応援させてもらいましょう。


『明日は、少しお世話になった人にお礼を言いに行くんだにゃ! ん? ちょ、コミュ障とか言うなー! そうだけど、お礼くらい言いに行きますしー! ばーかばーか! めっちゃ頑張るもんねー!』


 画面の中では、サダメさん(フェイトさん)が嬉しそうに会話を続けている。

 コメント欄の雰囲気も良く、ファンにも恵まれていることがわかります。


「そういえば、帰る前に俺に好きな歌を聞いてきたな。まさか歌とはそのことだったのか!?」


「ええ、少し羨ましいです。フェイトさん活き活きしててすっごい可愛いですもんね」


「ああ! フェイトは可愛い奴だな! 最高のお礼だぞ!」


「うう、可愛いですか……」


『にゃー! 語尾忘れることからかうなー! サダメも人間だから忘れることあるの! あ、化け猫だった……。違うからー! お兄ちゃんたち今日は意地悪すぎー! 女の子に意地悪したら駄目なんだからねー!』


 サダメさんがコメントを読みつつ、自分の近況の話をして軽快なトークを続ける。凄い才能ですね。フェイトさんがこんなに話せるなんて失礼ですが、思いもしませんでした。

 それにしても、佐藤くん。

 完全にハマってますね。眼がギンギンです。

 フェイトさんが佐藤くんを好きになる可能性もゼロじゃありませんし、注意しないといけません……。


「はー、萌えええええ!」


 満足し頬を赤らめ奇声を発する佐藤くんの横で、私は小さく頬を膨らました。


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