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  夜の学校、幼馴染。何も起こらない筈がなく……③


「うう、しくしく。出会って直ぐにあんなことするなんて……」


 夜の学校の薄暗い教室の中で、窓から差し込む月明かりの下、小学生のような背丈の少女が座り込んで泣いている。

 原因は佐藤くんが出合い頭に喰らわせたバックブリーカー。

 思い出してもあれは痛そうでした。


「本当にすまんな。まさか、女子だとは思わなかった……」


「私ももう少し優しく追いかけるべきでした。申し訳ございません」


 栗色の髪に特徴的なツインテールの少女は、黒江さんと佐藤くんの謝罪にぷいっと顔を背けた。


「し、知らない。男のくせに、女の子に全力でプロレス技掛けるなんて最低! 何かヌメヌメしてましたし!」


 最後のは黒江さんのせいですね。


「っぐ! 本当に悪かった」


 佐藤くんは技をかけて以降、バツの悪そうに顔をしかめている。

 私も一応責任がるので、これ以上佐藤くんがいたたまれない感じになるようでしたら謝りましょう。


「それで、あなたはこんな夜中に学校で何をしていたんですの?」


 私たちが申し訳なさそうにする中で、神宮寺さんが本題を切り出した。

 聞いた瞬間に、それまで私たちを責めていた少女はびくりと肩を震わせました。

 これは、結構黒っぽいです。


「え、そ、それは……」


 わかりやすく口籠ってしまいました。


「私たちは最近学校で起きている事件の犯人探しにきています」


 敢えて先にそう口にした。立場を教えるためです。

 思った通り少女は顔を引きつらせました。


「えっと、忘れ物を取りにきました」


「二年生の教室にですか? あなたのような人は同級生にいなかったと思いますけど」


「あら、驚きですわ。二年生でもないのに、何の用事なんでしょうか」


 神宮寺さんも意図を察してくれたようで、一緒に詰めてくれる。

 少女は今にも泣きそうな顔をしていますが、悪いことをしているのは確実なので遠慮はしません。


「あ、ふえ、あの、その」


「流石に可愛そうじゃないか?」


「佐藤くんは黙っててください」


 それに、佐藤くんが悪者かのように先ほど責めていたこの子には、少しだけ怒っています。


「お、おう……」


 普段と違う私の剣幕に押されて、佐藤くんは黙り込む。

 重苦しい静寂の中、少女は生まれたての小鹿のように震えている。


「そ、その、事件って、ノートがなくなっている話ですよね……」


「はい。私はその標的で、神宮寺さんは容疑者です」


「え、それって」


「あなたのせいで、私が疑われているという事ですわ」


 神宮寺さんがこのタイミングで、はっきりと少女が犯人だと決める。

 それを聞いて怯えていた少女は、血の気が引いたように真っ青な顔になった。

 神宮寺さん、意外にも口が上手です。相手が一番嫌がるタイミングで、責めましたね。


「え、そんな、だって、そんなこと言われてない」


「あなたねえ……!」


「お嬢様、少し落ち着いてください」


 一歩前に出た神宮寺さんを、黒江さんが制した。

 代わりに少女に近づいてしゃがみ、視線を合わせてから優しく微笑んでいる。

 この状況でその笑顔は反則でしょう。


「あなたも、少し訳ありのようですね。よろしければお話を聞かせていただけませんか?」


「あう、うう」


 少女は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 でもそれは助け舟を優しく出されたことに対する感謝からでしょう。

 私と神宮寺さんのせいで、かなり怯えていましたし。

 これは、完璧に堕ちますね……。


「はい、わかりました。その、話します、理由を……」


 少女はそう言って、頷いた。

 まだどこか怯えているのは、その理由とやらに関係する事なのでしょう。

 見た感じ気弱そうなので率先してこんなことをするような人には見えませんが、何でここまで多くの人に迷惑をかけたのでしょうか。


「おーい! 誰かいるのか!?」


 突然廊下から声が聞こえる。

 いけません、少し騒ぎすぎました。

 こんな時間まで残っている先生にも驚きですが、それよりも私たちが学校に侵入したことがバレるのはもっとまずいです。


「この声は、車田先生でしょう。最近はノートの事件もあったので、遅くまで学校に残って見回りをすることもあるそうです。真面目な方ですね」


「ちょ、黒江! 言ってる場合!? やばばばば!」


「お嬢様は突発的な事態に弱いのです」


 むしろ黒江さんが落ち着きすぎている気がします。

 二階からなので私や佐藤くんは飛び降りれば大丈夫な気もしますが、犯人の少女と神宮寺さんは無理でしょう。


「イチかバチかみんなで一斉に走り出すか?」


「あ、その」


 少女が申し訳なさそうに手を挙げる。


「さっきので腰を痛めちゃって、走るのは、無理です……」


「やっばいですわ! 終わりですわー!」


 かなり悪い状況ですね……。

 折角話してくれると決心した動機も聞いていないのに、いまこの子が先生に連れて行かれるのは困ります。

 先生の足音は近づいています。いつまでも悩んでいたらもっと状況は悪化するでしょう。

 ……仕方ありません。


「私が忘れ物を取りに来たと言って引き付けますので、皆さんは逃げてください」


「那智、本気か? 車田先生の説教は結構きついぞ」


 佐藤くんが心配してくれますが、私が泥をかぶるだけでいいのなら構いません。


「大丈夫ですよ。反対方向を向かせるので、こっそり逃げてくださいね」


「ええ、それは悪いですわ。言い出しっぺの私が囮になります」


「疑われているのに、神宮寺さんが見つかったらまずいじゃないですか。私に任せてください」


 神宮寺さんが黙ってしまう。

 少し意地悪な言い方でしたけど、後で謝るので許してください。


「なるほど。神宮寺や黒江はまずいのだな。なら俺が行こう」


「いや、佐藤くんがそこまでする必要は無いですよ」


 胸をドンと叩いた佐藤くん。

 ですが私は一度決めたことを曲げたくないので、ひくわけにはいきません。


「那智は頑固だからな! まあ俺に任せておけ!」


 佐藤くんが教室のカーテンをはがして、身体を包む。


「それに、俺にはそいつが悪い奴には見えん。困っている顔をしているのなら、ここで助けたいと思うのが当然だ。だろ、那智」


「うう、佐藤くん、こんな時ばかり口が上手くなるんですから」


「がはは、お前も那智を頼れば問題ないからな。よく頑張った、偉いぞ」


「え?」


 少女が驚いたように目を丸くする。

 佐藤くんは人を見る目において誰よりも優れています。だから優しいし、他人のために何でも出来るのです。そんな佐藤くんがここまで太鼓判を押すのなら、今回の事件は単純に犯人が悪いというわけではないのかもしれません。

 佐藤くんはニカっと少女に微笑み、頭をぽんと優しく一回叩いた。

 その行動が予想外で一瞬黙ってしまうと、そのまま勢いよく飛び出してしまいました。


「那智が諦めるには先に行動するのが一番だしな! 肉体労働は俺に任せろ!」


「ちょ、待ってくださ――」


 止める間もなく佐藤くんは先生の方向に走っていった。

 カーテンをまとったのは顔を隠すためでしょう。


「ぬわあああああああ! 呪うぞおおおおお!」


「な、ひいい! 何だ何だ!?」


 大きな黒カーテン男に追われて、先生はたまらず逃げていく。

 暗闇なのでカーテンとも気づいていないでしょう。 


「何だお前! 夜の学校で何をしている!」


「ぶおおおおおおおお!」


「ひい!」


 エヴァンゲリオンみたいな咆哮を上げるカーテンマンの剣幕に、車田先生も人外の何かだと思って走って下の階に逃げてしまいました。


「はは、佐藤様。なかなか味のある人物ですね」


「本当に素敵な方ですわ。黒江、その子を担いで逃げますわよ」


「あうう、すみません」


 佐藤くんが作ってくれた今の時間を無駄には出来ません。

 学校から一番近いのは、神宮寺さんの屋敷でなく私の家ですね。

 佐藤くんも家なら合流場所としてわかりやすいでしょうし、片付けもしているのでお父さんのエログッズはリビングにはありません。


「それでは私の家に向かいましょう。あなたもそれでいいですか?」


「はい。お願いします」


 少女は黒江さんの肩に担がれたまま、こくりと頷いた。

 佐藤くんとお父さんに連絡を送っておきましょう。

 直ぐにお父さんから既読が付き、快く承諾してくれました。


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