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  夜の学校、幼馴染。何も起こらない筈がなく……②


 夜の学校は少し不気味です。

 昼間の賑やかさは嘘のように消え去り、残る静寂との間に生まれた溝が心を不穏にします。


「あ、来ましたわね。まったく遅いですわよ」


 神宮寺さんが校門の前で先に待っていた。

 隣には制服ではなく、執事服を着た黒江さんが相変わらず姿勢よく立っている。


「すまんすまん、那智との勉強に少し手間取ってな」


 佐藤くんとはさっきまで一緒に勉強をしていて、時間がかなり追われてしまった。

 だから、私と佐藤くんは制服です。神宮寺さんも制服でした。


「すみません。教えるのに少し苦戦してしまい」


「いやー、今日の宿題は難しかったな。数学の文章問題は全筋肉が拒否するぞ」


「ぷくく、浩二お兄ちゃんって、本当にざこざこだよね♡ 全身筋肉スーパーマッチョ♡」


「くっ! このメスガキが!」


 佐藤くんといつものように話していると、神宮寺さんが口を開けたまま固まっていた。

 はて、何かしましたか……。

 あ、やばいです!


「那智さん?」


「い、今のはえっと、演技です! 創作劇に興味があって、役作りが抜けてませんでした!」


「あーなるほどですわ。流石です、見識がひろいのですわね」


「お馬鹿でよかったー」


 神宮寺さんがお馬鹿で助かりました。

 咄嗟に口を突いて出た嘘にひっかかって、感心したように頷いています。

 その横で黒江さんは笑いをこらえている。多分この人には、全て見透かされているのでしょう……。


「と、とにかく! 学校で待機するんですよね! 配置を聞かせてください!」


 勢いでの仕切るために少し早口で焦りながら言う。

 黒江さんが意図を察してくれたようで、一瞬で平時の顔に戻り私と佐藤くんに交互に見てから学校を指す。


「はい、お二人には二階の校長室側の階段近くで待機していてほしいのです」


「わかりました。挟み撃ちですね」


「どういうことだ?」


 佐藤くん、流石に一年もいたんですから学校の構造は覚えましょうよ。

 でもそこも可愛くて大好き。


「二階から一階に降りるには渡り廊下で校舎を移動するか、校舎内の階段を利用するしかありません。渡り廊下への通路の扉は、夜間は施錠されるので、どちらかが追いかけたら自然ともう一方と挟み込めるという事です」


「どひゃー、黒江は頭が良いな」


「これでも既に大学を出ていますので」


「ええ!?」


「冗談です」


 この人も冗談言うんですか……。

 わかりにくいからやめてほしいです。


「じゃあ私と佐藤くんは階段近くの空き教室で待機してますね。そちらももし犯人を見つけたら教えてください」


「はい。話が早くて助かります」


 にこりと黒江さんが笑った。

 そういえばこの人の笑顔しか見てない気がするけど、怒ったり泣いたりするのでしょうか。

 ……想像できません。


「では、犯人捕獲にレッツゴーですわ!」


 神宮寺さんの言葉を合図に私たちは夜の学校に侵入した。


「そういえば、扉は全部施錠されていると思いますけど、どうやって入るつもりなんです?」


「理科室の上の方の窓が夜でも鍵がかかってないのでそこから入りますわ」


「え、理科室の上の窓って人ひとり通れる横長のやつなんじゃ……」


「黒江が持ち上げてくれるから楽勝ですわ」


「佐藤くんの筋肉で通れますかね……」


「あ……」


「ご安心を、備えております」


 黒江さんが何故かローションを取りだした。



――――――――――


 

 黒江さん、神宮寺さんの二人と別れて薄気味悪い夜間の校舎の中で待機する。

 しかも普段は使われない空き教室の中、机が殆ど置かれていないので尚更何かでそうで怖いです。


「那智は、お化けとかもう大丈夫なのか?」


 隣にいる佐藤くんが心配してくれる。

 優しい好き。


「大丈夫……ではないですけど、二人なので安心できます」


「はは、そうか」


「はい」


 横に佐藤くんがいるから、今はお化けなんて怖くも何ともありません。

 恋のラブラブパワーです。

 すぐ隣にいる佐藤くんと一瞬肩がぶつかる。

 男性らしい筋肉のたくましさと佐藤くんの体温、べっとりぬめぬめの感触が布越しに皮膚に伝わった。

 そう、理由はあともう一つ。


「というか、佐藤くん。すんごいベッタベタですけど大丈夫なんですか?」


 ローションまみれの佐藤くんの方がお化けよりも怖い。

 私の言葉に佐藤くんは何故か誇らしそうに腕を組んで笑う。


「黒江が用意してくれたおかげで狭い窓枠も何とか通れたしな。問題ない、多少は気持ち悪いがこういうシチュエーションも俺は好きだぞ」


「佐藤くんって性癖の業が深すぎますよぉ……」


「メスガキにされていると思えば、むしろ、な?」


「なって何ですか!? え、私を同士だと思っているならやめてください! 違いますからね!」


 生暖かい視線を向けられても困ります。

 私は佐藤くんのためにメスガキになっただけで、私自身がメスガキではないです。メスガキは私じゃなくて、悪魔でもメスガキの演技でメスガキなだけで、メスガキのメスガキは私のメスガキで――。


「はらほろひれはれ」


「那智―! 何かふらふらしてるぞ、大丈夫か!?」


 メスガキゲシュタルト崩壊を起こしたためふらついた体を佐藤くんが受け止めてくれた。


「佐藤くん……」


「那智……」


「ねっばねばになっちゃうので放してください」


「すまん」


 うわ、少し背中に着いちゃってます。

 早く家に帰りたいです。

 佐藤くんがべちょべちょ星人じゃなければ、かなりいいシチュエーションだったのに……。


「あといつまでヌメヌメなんですか? ローションって乾いたらカピカぴになる筈ですけど」


「そうなのか? 黒江が何か混ぜたのかもしれんな。那智はローションにも詳しいんだな!」


「え? ああ、それは」


 まずい、お父さんのエロ漫画の資料で、家にローションがあるなんて言えません。

 私のイメージに関わってしまう。


「か、香苗に教えてもらって」


「ああ、香苗か。あいつなら知ってそうだな」


 ごめんなさい香苗。

 というか佐藤くんは香苗にどんなイメージを持っているんですか。あの子あれで結構うぶなんですよ。


「あの、香苗は――」


 罪悪感が爆発してしまったので、誤解を解こうと口を開きかけた時。

 佐藤くんに口元を押さえられた。


「むぐ! ぐー!」


 突然の行動に動揺する。

 佐藤くん、もしかして遂に私を襲おうと!

 あ、でも今はまだ心の準備が。

 それに学校だし、ローションまみれだし。

 まあいっか!

 脱がしてください、かもん!


「静かに、足音が聞こえた」


「へ?」


 私が自分の制服に手をかけた所、佐藤くんが小さな声ではっきりとそう言った。

 耳を澄ますと確かに階段を上がってくる音が聞こえてきます。


「あ、こっちから来たんですか」


 佐藤くんの行動に驚いたので、当の犯人へのリアクションは出てきませんでした。

 来るの早すぎますよ。

 もう少し佐藤くんと二人でいたかったのに……。


「そのようだな。階段上って廊下を歩き始めたら、追っかけ始めるぞ」


「はい」


 佐藤くんと息を殺して待っていると、足音は階段から廊下に移動してそのまま二年生の教室に向かって歩き始める。

 いま追っかけたら神宮寺さんと挟み撃ちに出来ます。


「佐藤くん」


「おう」


 二人して同時に空き教室から飛び出し、二十メートルほど先にある人影を追いかける。

 暗いせいで顔は視認できませんが、体のラインは細い方のようです。


「ぬわああああああ!」


 佐藤くんが蛮族のようなけたたましい声を上げて、走り出しました。

 私も必死にその後を追います。

 佐藤くんの声に反応して犯人は一瞬振り返った後に全力で走り出しましたが、廊下の端まで聞こえた声で神宮寺さんたちも既に飛び出してきており、黒江さんと佐藤くんで挟み撃ちを掛ける形になった。


「佐藤さん!」


「おう! おらあ!」


 佐藤くんが遂に捕まえてそのまま持ち上げる。


「にぎゃああ!」


 綺麗なバックブリーカーを掛けられた犯人は校舎中に響きそうな悲鳴を上げた。

 ていうか、今の声って……。

 私が駆け寄ると佐藤くんも技をかけてから気づいたのか青ざめた顔をしていました。

 やっぱり。


「え、ええ! 女子生徒だったんですの!?」


 私たちがやっちまったと思っている中、神宮寺さんが現実を突き付けてくる。


「そ、そうみたいですね」


「足が速かったので男性だとばかり思っていました……申し訳ございません」


「ぬおお! 大丈夫かあああ!」


 佐藤くんが肩からおろしてお姫様抱っこのまま体を左右に振る。


「し、死んでるんじゃないですの……相当きまってましたわ」


「っぐ、やはりそうか……。自首しよう」


「佐藤くん、その前に埋めましょう」


「では、シャベルを持ってまいります」


「頼む……」


 皆で佐藤くんの腕の中にいる女の子に手を合わせる。

 よく見ると可愛い子だ。私よりも少し背が低いかもしれません。

 さようなら……。


「っぷはあ! 死んでませんけど!」


 悲しむ私たちの中心で、女の子は割と元気良さそうに目覚めた。


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