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5・お嬢様VSメスガキ

 もはや恒例となった佐藤くんとの下校。

 好きな人と一緒に帰れるこの時間は私にとって何よりも幸福感を感じる時間です。


「那智、見てくれ! 今日は僧帽筋の調子がよくてな。肩が軽いぞ」


「流石です! 僧帽筋が威嚇してる!」


「ふん!」


「きゃー! 筋肉が歌ってるよー!」


 佐藤くんが少し服をはだけて背中を見せたまま、筋肉に力を籠める。

 私はいつものように掛け声をしてそれを褒めた。

 あの筋肉に挟まれたいです。


「……お二人はいつもこんなことをしていますの?」


 そんな佐藤くんとの憩いの時間に横入りしてきたのは、残念お嬢様の神宮寺さん。

 何でここに居るんでしょうか。


「はっは! 神宮寺は俺が家に招待した。是非お近づきになりたいしな!」


「この神宮寺京子が訪問するのです! 庶民なりの最大限の歓迎を期待していますわ!」


「同級生の家に行くのは楽しみ! と、仰っています」


「黒江さんはそういう役割なんですね」


 顔では薄っすら笑みを浮かべるが内心かなり焦っている。

 私が佐藤くんの家に最近通い始めたのは、勉強を教えるという大義名分があったからだ。

 だというのに神宮寺さんは出会って初日でここまで佐藤くんに接近している。

 佐藤くんが筋肉と同じくらい二次元的な趣味があるのは理解していたつもりでも、現実のお嬢様にここまで興味を持つとは思わなかった。

 これは、神宮寺さんへの警戒度を強める必要があります……。


「というか、神宮寺さんは本当に来るんですか?」


 正直邪魔です。

 佐藤くんと二人っきりの時間に干渉してほしくない。


「当然ですわ。それにあなた、私が一回断られた程度で諦めると思いまして! 絶対に協力してもらいますわよ!」


「お嬢様は、思い通りにならないと火がつくタイプなのです」


「えー、面倒くさい……」


 負けん気が強いのは良いことだけれど、頷いたら確実に今後付きまとわれそうだから嫌だ。

 神宮寺さんと佐藤くんが変に仲良くなっても困ります。


「あ、そうですわ。佐藤浩二! あなたも私のやることに協力なさい!」


「ん? 犯罪は嫌だぞ?」


「人助けですわ!」


「了解した」


「うそーん」


 早い。

 佐藤くん決断が早いです。

 そんな所もカッコいい。


「ちょ、佐藤くん! 話も聞かずに乗ったらだめですよ!」


「それもそうだが、神宮寺は困っているのだろう? ならば助けるさ。知ってるやつが困っていたら手を貸すのは当たり前だ」


 きゅーん。

 かっこよすぎます佐藤くん。

 抱いて。


「そ、そうですけど。それじゃあ、私が悪者みたいです」


「実際あんなタイミングで断れる時点で結構人間性終わってますわよ」


「お嬢様、事実でも言いすぎです」


「黒江さんのが一番傷つきます……」


 まずい、三対一の状況だ。

 頼みの綱の佐藤くんも話しの詳細は知らないなりに状況把握しようと、私たちを交互に見まわしていた。


「だって、佐藤くんに勉強教えないといけませんし、神宮寺さんに協力したら放課後潰れるじゃないですか」


 ぼそりと本音を呟く。

 とても意地の悪い事を言っているのはわかっています。

 これだとまるで佐藤くんが悪者のような言い方です。


「がっはっは! そんなことか。それなら俺は気にしないぞ。赤点をとらなければ良いだけだから、毎日付きっ切りで教える必要はないしな。神宮寺の困りごとを解決する方を優先していいぞ」


「ええ、イケメンすぎます。抱かれたい」


「ん?」


「あら」


「おやおや」


 あ……。

 声に出ちゃってました!?

 まずいです、何とか誤魔化さないと!


「抱かれたいよ! その上腕二頭筋に!」


「ふん!」


「ナイスバルク!」


 ふー、危なかったです。

 佐藤くんに変態と思われるところでした。

 筋肉の話題に触れた瞬間に、佐藤くんはポージングをとりさっきの私の失言を忘れてくれました。


「あら、あららららら!」


 問題は筋肉が通用しないこっちのお嬢様。

 既に頬を少し赤くして、からかう気満々の顔をしている。


「そういうことでしたのね! んまー、破廉恥ガール!」


「な、何を言ってるんですか!? 勘違いしないでください!」


 ニマニマ笑いながら神宮寺さんが顔を近づけてくる。

 幸い佐藤くんには聞こえないような小声で話してくれた。


「それでは、利用させていただきますわ」


「え。それって……」


 神宮寺さんが私の肩に顔を近づけてきて、息を吹きかけるように話してきた。


「思い人の佐藤浩二さんは私の味方ですわよ。そんな状況で、これ以上反対するのはメリットがありませんわ」


「うぐ」


 痛いところを突いてくる。

 元々協力しなかったのは、佐藤くんとの勉強会が潰されることを恐れてのことだったけれど、協力しないで佐藤くんに万が一マイナスイメージを持たれてしまったらそれどころじゃない。

 もはや私に選択肢はありませんか……。


「はあ、わかりましたよ。協力して直ぐに犯人を見つけた方が逆に楽になりそうです」


 言い終わると同時に大きく息を吐く。

 この人と佐藤くんを近づけるのは不本意ですけれど、私のイメージを下げたくないので協力するしかないでしょう。


「そろそろ俺の家だ。いったい何の話があるのかは知らんが、細かい話は中で聞かしてくれ」


「では、お茶でもお入れましょう」


 佐藤くんが嬉しそうに前を歩く。その後を黒江さんが続いた。

 神宮寺さんが家に来ることがそんなに嬉しいなんて、本当に大ピンチです。

 私もメスガキじゃなくてこっち路線を目指した方がよかったんでしょうか。


「何ですの? 頬を膨らまして、可愛いですわ」


 キョトンと首を傾げた神宮寺さんと目が合う。

 どこか自信ありげな顔をしているのが少し癪に触ります。

 佐藤くんも黒江さんもいませんし、少し意地悪しちゃいましょう。


「神宮寺さん、少しこっちに」


「はいはい」


 さっき神宮寺さんにされたように、今度は私が耳元に顔を近づける。


「あまり図に乗ったら怒るよ、ざーこ♡」


「ひぐ!」


 神宮寺さんが耳を押さえて私から離れる。

 これで少しはお灸が据えたでしょう。

 この手のタイプは調子に乗られると何をされるかわからないので、早めに脅しておくのが吉です。

 私もそのまま佐藤くんたちに続く。

 一人残された神宮寺さんは少しの間呆けた顔をしていたけれど、次第に現実に帰ってきてわなわなと震えていた。


「最高ですわ!」


「……え」


「着いたぞ! 何か分からんが作戦会議だ!」


 佐藤くんの大声で一瞬聞こえた謎の台詞はかき消された。


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