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ミステリー・ボーイズ【改】  作者: GAYA
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4 調査結果は異状なし?

 加美村学園から歩いて三分のマンション七階。

 角部屋の3LDK。

 ここが、カズ、勝春、大志の根城ねじろになっていた。


 広いリビングには、テレビ、ソファ、テーブルしかない。

 舞台のセットみたいなリビングは、まるで生活感が無かった。


 スーパーで買ってきた惣菜で夕食を済ませ、今日一日の調査結果を報告しあう。


 まずは勝春が、優雅に足を組み直しながら首を振る。

「こっちは全然ダメだネ。校内で何十人も声かけてみたけど全く手がかり無し。ていうか、誰も柔道部に興味無いんじゃないかナ?」


「同じく」と、大志がノートパソコンの画面を閉じながら呟いた。


 大志は「ふぅ」と、大きく息を吐き出すと頭を掻きながら言った。

「俺は噂の方から調べてみたが、柔道部の話題なんて、ひとつも無かったぞ」


 彼等が思う以上に、柔道部は存在感が薄いようだ。


 勝春がボヤく。

「でもサ。マスターがオレ達に任務を与えたってことは、どこかでは噂になってるはずだよネ?」


 勝春の言葉にカズが頷く。

「そうだね。少なくともその噂はクライアントの耳には入っている。だとしたら生徒よりも先生とか父母とかOBのコミュニティを洗った方がいいかも」


 大志が舌打ちする。

「チッ、じゃあ、その線でいってみりゃいいんだろ」

 そう言いながら大志は身体がなまって仕方が無いといった風に『ゴキッゴキッ』と首を回した。


 続いてカズの報告だ。

 ボクが調べたところによると、柔道部の練習は朝練が七時から八時。で、午後が放課後から夜の八時まで。日曜以外は毎日びっちり練習してるらしい」


 そこまでは、運動部の良くある日常だ。


 カズが続ける。

「夏休みも、お盆を除いては夕方の四時から八時の時間割で毎日やってたみたいなんだ。だから普通に考えたら、とてもバイトする暇なんて無いと思うんだけど……」


 それを聞いて勝春が眉を顰める。

「ウエェ、そういう青春もあるんだナァ」


「いや。俺はリスペクトするぜ。同じ格闘家として」

 大志は本気でそう言っている。


 カズが苦笑しながら報告を続ける。

「まあ、それはおいといて。で、今日も適当な部員を選んで尾行してみたんだけど真っ直ぐ家に帰っちゃったんだよね」


 勝春も別な部員を尾行したという。

「こっちも同じだヨ! オレ、でっかい二人組を尾行してみたんだけどサ。途中で牛丼三杯ずつ食って帰っただけだったヨ」


 大志は腕組みしながら難しい顔で言う。

「俺が尾行した奴は、本屋で『ハレンチな本』を立ち読みして帰っただけだ」


 カズは口元に拳をあてて唸った。

「うーん。昨日、尾行した連中もそうなんだよね。とてもバイトに出かけるような時間的余裕はない。だとすると……」


 考え込むカズの様子を見て勝春が、ふっと笑った。

 それにつられて大志も笑顔でカズを見守る。

 二人ともカズの洞察力と推理力を心から信頼しているのだ。


 しばらくしてカズが顔を上げた。

「一応、仮説はたてた。ボクの推理が正しければ、あさってには解決できると思う」


 やったね、といった風に勝春と大志が互いの顔を見て微笑む。


 カズが言う。

「それで勝春と大志にお願いしたいことがあるんだけど……」


 自信に満ちたカズの顔つきを見て二人は確信した。

 後はカズに言われた通りの事をやっておけば、この事件は間違いなく片付くはずだ。


    *   *   *


 朝の六時半。

 菊乃にとって、こんな時間に学校へ行くなんて初めての事だった。


 前の日の夜遅く、カズから連絡があって確かめたい事があるから七時前に学校に来てくれと頼まれたのだ。


 菊乃は眠い目をこすりながら駅から学校に向う。

(やっぱ朝の一時間は大きいよぅ)


 駅から学校に向かう人はほとんど居ない。

 逆に駅に向かう人は少なくない。


(カズ君、こんな時間に呼び出して何がしたいんだろ?)


 そんな疑問を持ちつつ菊乃は誰も居ない校門の前までやって来た。

 すると校門の前では既にカズが待っていた。


「おはよう。藤野さん。悪かったね、こんなに早く」

「まあ……ね。あれ。カズ君はいつ来たの?」


「ああ。ボクは歩いて来たから」

「歩いて? え、どこ住んでんの?」


「すぐそこだから。ほら。あそこに見える茶色いマンション」


 カズが指差した方向を見て菊乃が驚く。

「ウソ? 超近いじゃん。なんかズルくない? アタシなんて五時起きだよ。朝ゴハンだって食べてないし」


「だと思ってコンビニで買っておいたよ。パンとおにぎり、どっちがいい?」

 そう言ってカズはコンビニの袋を差し出して、にっこり笑った。


 校内に入って校舎の外階段に座り、二人並んで朝食をとった。

 この位置からなら校門を見渡せる。


「ね、カズ君。何か分かったの?」

「まあ、ね」


「ふうん。じゃあ教えてよ」

「いや。まだ仮説の段階だから」


「ああ、そう。やっぱ教えてくんないんだ。けど、ま、いっか」

 菊乃は諦めて、おにぎりにかぶりつく。


 昨日の潜入捜査でも、カズは何も語らなかった。

 でも、何か手掛かりは得ていたフシがある。


(カズ君に任せておけばいいよね……)


 七時近くになって各部の『朝練組』が、パラパラと登校してきた。


 運動系の人は、通学鞄の他に、膨らんだスポーツバッグを持っているのですぐ分かる。


 そんな中で、鞄だけの大男が混じっている。


 菊乃が大男の体格を見て気付く。

「ね、あれって柔道部じゃない? 鞄しか持ってないけど」


 カズは大男を注視しながら頷く。

「だね。他の荷物を持ってないところを見ると柔道着は部室に置いたままなんじゃないかな」


 菊乃が目を剥く。

「えぇ!? 昨日あんなに汗かいてたのに? 汚いなぁ」


「あんまり洗わないんじゃないかな。乾きにくそうな生地だから」


「なんか臭そう……てか、確実に臭いと思う!」


 色んな部の人達が次々と登校して来る。


 そんな様子をぼんやり眺めていると急にカズが身を乗り出した。

「やっぱり!」


 何のことだろうと思って菊乃も目を凝らす。

「やっぱりって、何が?」


 別に興奮するほど変わったものは見当たらない。


 強いて言えば、制服姿に混じって白い服、よく見ると柔道着を来たまま、のっしのっしと歩いてくる手ぶらの大男が目に入る程度だ。


「カズ君?」


「思った通りだ。後は証拠か……」

 カズは何かを確信しているみたいだ。


 だが、菊乃はまったくチンプンカンプンだった。

 昨日の見学といい、今朝の観察といい、何だか仲間外れにされているようでちょっと悲しい。


(なんか全然、面白くないんですけど……)


 謎解きに協力するといいながらも、菊乃も美穂子もまったく役に立てていないような気がしてならなかった。


 結局、この日は一日、何事も無く終わってしまった。

 菊乃と美穂子が柔道部の調査に誘われることも無かった。


 しかし、菊乃の知らないところでミステリー・ボーイズは水面下で準備を着々と進めていたのである。


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