あんたはあんた
もうね、自分を偽ることがね、めんどくさくなっちゃったのね。きっとあんたはわかってくれるって信じてるけど、まぁあんたも他人だから、もう期待しないことにするわ。
あんたと出会ったのはいつだったっけね、確か保育園だったかね。あんたと出会えて私は最高に幸せだったって思ってるんだよ、これは本当なんだよ。
いつも1人で教室の角で遊んでたんよな、私もあんたも。そいでふつーに友達になったよね。スミにいる同士なかよくなるっているのが世の中の掟だからねぇ。
私はたぶんすんごく大人しい子だったね、きっと。あの頃は誰かと話すのがこわくてこわくて、ままがいないとやっていけない甘えんぼさんだったから、あんたからしたらそんな私がにくかったんじゃないかねぇって今は思うんだよ。
あんたもいつも1人だったから、あんたも私と同じだと思ったんさ。
人がこわくてこわくて仕方なかったんじゃないかってね。
だから、あんたから話しかけてもらった時はほんとに嬉しかったんだよ。
話したきっかけってなんだったっけね。たしか私が落し物したとかそんなんだったっけねぇ。とにかくあんたと話せたことが嬉しくて家に帰ってままにすぐ報告したんさ。そしたらままとっても嬉しそうによかったねぇっていうからあんたと友達にならなきゃいけない気がしてきてさ、翌日は私から話しかけたんだったよね。
私たちがする話と言えば好きな絵本とか好きな色とか、あとかっこいいと思うクラスメイトとか、そんな陰気なもんばかりだったね。おぼえてる?
私はけんくんが好きだったなぁ、あんたはたつくんだっけ?
保育園卒業しても住んでる地域が近かったからってあんたと同じ小学校入れて私はとても嬉しかったんさ。でも、あんた変わっちまったよね。悪さするようなグループのやつらと絡むようになったよね。先生にいじわるしたり忘れ物するみたいな。
あの時はなんでだろうってずっと思ってたけど相変わらず仲良くしてくれたし悪さするグループにいるっつったってあんたの無口はあんまり変わらなかったから、あんまり気にしないようにしてたんだ。
私はあんたが強い人だと思ってたんだよ、だって先生の前にずんずかと歩いていって
「教科書忘れました」
だなんて言っちゃうから。私は本当におどろいたよ。
でもね、私が1番おどろいたのは中学に入ってからかなぁ。あんた、学校来なくなったんだよね。何してるんだろうって思ってさ、でも尋ねる勇気もなかったからそのままにしちゃってたんだよね。
私ね、帰り道で1回あんたのこと見かけたことあったんだ。あんた、金髪のねーちゃんにーちゃんと絡んでタバコ吸ってたでしょ。そいでガハガハ笑ってたよね。
私、あんたとにてるって思ってた。
けど、そんなことはなかったんだね。あんたは人がこわいこわいの人じゃなくて、人がすきすきの人だった。しかも、表面だけの。
ちょっと寂しかったなあ。
けどね、その後かな、私あんたがあんたのお母さんに殴られるところも見ちゃったんだよ。ぐーぜん、あんたの家の前を通りかかったとき。
それでね、あ、あんたと私ってまじで違う生き物だったんだ、って思ったんだよ。ままにあまえて生きてる私と他人にあまえるしかないあんた。しかも、あんた、あまえ方知らないんだから。もう、違うよ。わたしとあんたは全然違うよ。
そいでね、なんか、私にできることないかなって思ったんだよね。なんにも思いつかなかったから、とりあえず連絡取ってお久しぶりに遊ぼうって誘ったんだよね。そしたら嬉しいことにあんたおっけいしてくれた。
こんなに違う人ともまだ遊んでくれるんだって思ったよ。
あんたと遊んでほんとうに楽しかったなあ。クレープ食べたね。楽しかった。あんたのかわいい鼻にクリームついちゃってさ、私が拭いてあげたんだよね。うん。楽しかった。色んなお話したよね。けど、やっぱり話が合わないんだ。
あんた、コスメブランドの話ばっかりするようになっちゃってさ、昔みたいに本の話はしないんだって。怪しい方法で稼いだお金で買うんだって。
わたしはナメられたくなくて話合わせてたなぁ。
その後からね私がんばったんだ。あんたの気持ち理解するために一生懸命コスメ集めてお洋服買って、高校デビューってやつしてみたの。それはそれは上手くいったわよ。お友達とティックトックとるような超一軍だわよ。
楽しかったわよ。
けどね、あんたの気持ちはわからなかった。私にはディオールのリップの良さも、シャネルの服の着心地のよさもわからなかった。
ねぇ、わたしもう疲れちゃったんだ。自分いつわるのって大変だね。興味無い話ばっかり。だからね、率直に聞くね。
あんたがほんとうに欲しいものってなんなの?