異世界に来て得たのは癒し(物理)でした
「喪女とは…今まで男性とお付き合いしたことのないくたびれた大人の女性…的な意味合いの言葉です…」
めちゃくちゃ恥ずかしい自己紹介をすると、王子様は予想外にも素晴らしい笑顔を向けてくれた。
なに?この反応…。
逆にいじめでは?
「素晴らしい!やはりあなたこそが聖女様…っ!!」
予想外すぎる言葉に、目を丸くする。
漫画のような展開だ…。
あれか?清き乙女(笑)こそが世界の穢れを祓えるのか?
「いや、あの、そんなキラキラした目で見られても私にそんな力ありませんので」
精一杯、否定の声を上げるが、王子様は首を横に振った。
「ご説明させて頂きたいのですが、まずは場所を移動しましょう」
そういわれ、改めて室内を確認する。
洋風の、少し広いが物がほんどない一室だった。
立ち上がる王子様につられて私も立ち上がると、王子様はまたなんとも言えないキラキラとした表情をしていた。
そしてその手は私に差し出されていたので、恐らくだがエスコート?しようとしてくれていたのだろう。
残念ながら、私は今まで誰かに立たせてもらった記憶がない。
小さいころは親に手を引かれたりはしただろうが、物心ついてからは一切ない。
行き場を失っている手を見つめていると、すっと引っ込められた。
「聖女様に気安く触れてはいけませんよね…。申し訳ありません」
そういってはにかむ王子様は、やはり天然記念物級の愛らしさであった。
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王子の案内に素直に着いていくと、豪華な部屋にたどり着いた。
ずらりと並んだメイドさんたちに一斉に一礼され、とても壮観だ。
私はメイドさんたちに引き渡され、みるみるうちに服を剥かれた。
ちょ、男の前で!!と焦ったが、王子はすでに室外に出ていってくれていたらしい。
気遣いもプロ級かよ…。
こんな二次元にしかいないようなイケメン初めて見たわ…。
あれよあれよと体を洗われ、湯船につけられる。
ふわりと香る薔薇の香が、鼻につく。
これは、なんというか…。
ひさしく感じていなかった癒しというものではないだろうか……。
凝り固まった体が解れる心地に、ついうとうとしてしまう。
湯船につかっているというのに、メイドさんたちのマッサージの手も止まらない。
金を払ってもこんな素晴らしい体験は、現代日本じゃそうそう体験できなかっただろう。
あまりの気持ちよさに、私は思わず夢の世界へと旅立ってしまった。
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目を開けると、立派すぎる彫刻が施された天井が目に入る。
え、まって異世界夢じゃなかった。
えー、うそー…。
こんな世界でどうやって生きろっていうのよ…。
いや、現実世界に未練なんてないけど……、ないこともないか…?
家族のことは心配だ。
こんな私でも、あの歳まで育ててくれた恩ある人たちだもの。
職場は…、1人減って迷惑かけるなぁ…。
常にギリギリの人数で回してたし、新人は育たないし…うっ…申し訳なさで胃がキリキリしてきた……。
自己嫌悪に陥っていると、ふと、視界の端で黄色い何かが動いた気配がした。
起き上がって確認すれば、なんてことはない。
王子様だ…。
私の寝ていたベッドを枕に、寝ているようだ。
寝落ちしてしまったばっかりに、彼にも迷惑をかけてしまったらしい。
そもそも、私はこの世界についてなんの説明も聞かされていないのだが。
分かったことといえば、ここが異世界で聖女がいる世界ってことだけだ。
情報量少なすぎるだろ…。
異世界に転生して、入浴を介助されて、綺麗なネグリジェ着せられておねんねしてただけだ。
なにこの恥ずかしすぎる状況…。
羞恥心で2度死ねる。
「ん……。お目覚めですか?聖女様…」
私の動く気配を察知したのか、王子様が目を覚ました。
寝起きの顔面もお美しいな、クソ…。
「えっと、はい。すみません、なにも聞かずに寝てしまって…」
先程までの罪悪感を思い出し、謝罪すると、王子様はふにゃりと微笑んだ。
かわいいかよっ!!!!
「いえいえ、お疲れのようでしたし、仕方ありませんよ」
2.5次元は興味なかったけど、こんなイケメンがいるならもっと見ておけばよかったと検討違いな思考がよこぎる。
この思考のまとまらなさ、アレだな。
目の前のイケメンが非現実的すぎて脳が全力で現実逃避をしているんだわ。
自分の考えに納得が行き過ぎて、うんうんと1人頷く。
「お疲れでなければ、この世界についてのご説明をさせて頂きたいのですが…」
完全に1人の世界に入り込んでいた私を呼び戻す声が聞こえ、なんとか思考を目の前に集中させる。
「あ、はい。私も知りたいところですのでよろしくお願いします」
そう伝えると、王子様はまたもやメイドを召喚し、あれよあれよとお着替えさせていただいた。
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「この世界は、マルイキュウ=タイと呼ばれる星に存在しています。このマルイには3つの国が存在しています。まずこの国は根強い聖女信仰が残るセイナル国といいます。他には、魔女が実権を握っているマホウ国、魔王が納める魔国があります。均衡は保っていますし、貿易もしていますが、あまり仲がよくありせん」
王子様は地図を広げて、丁寧に指をさしながら教えてくれる。
丸い球体に聖なる国に魔法国に魔国ね。
ダジャレかよ、と突っ込みたいところだけど、覚えやすいのは素直に感謝しかない。
「自己紹介がまだでしたね。私はセイナル国第一王子のエミリオ・セイナルと申します。よろしければ、聖女様のお名前をお聞きしても?」
わかっていたけど、本当に王子様じゃん…。
しかも名前もキラキラしてるし…。
「えっと、私は…真理、です」
親にもらった大切な名前が恥ずかしいわけではないが、人に名前を名乗るのがはずかしいという…。
「マリー?素敵なお名前ですね」
そんな羞恥心も吹き飛ばしてくるイケメン対応に、思わず顔に熱が集まる。
なお、周りから見れば顔色一つ変わっていないことだろう。
私は焦っていても周りに気付かれないタイプだから。
もうこれからマリーでいいな。
うん、私はマリー…。
「次は、聖女様にまつわる伝承をお教えしますね」
とりあえず聞くだけきいて、そのあと情報と状況を整理しよう…。