アラサー喪女、異世界に転生します
どこにでもいるアラサー喪女でも、異世界に行けば報われるのでしょうか…?
「あ~~つかれたぁ~~」
独り言を呟く。
もちろん、返してくれる人はいない。
とぼとぼときらびやかなネオンが光る町を歩く。
毎日毎日、やりがいのない仕事に追われ、疲れはてて帰宅するを繰り返している。
そんな私に出会いなんてあるはずもない。
今では立派な喪女である。
私の名前は綾近 真理。
つい先日、29歳の誕生日を迎えたばかりの、どこにでもいるラスト20代だ。
看護師という立派な職業についたものの、医者の介助、患者の介護に対応、さらには患者家族への対応と、日々減ることのない業務量に辟易していた。
カルテを書く時間が確保されているわけもなく、パソコンの前に座ればナースコールに呼び出される日々…。
終業時間がすぎてからが、やっと腰を落ち着ける時間なのだが、当然手当ては出ない。
休日は家に籠って趣味に癒してもらうため、出会いなんてものがあるはずもない。
イケメンの研修医なんてものは都市伝説だ…。
「はぁ……」
ため息しかでない。
来年で30歳…。男は童貞のまま30歳で魔法使いになれるなら、女はなにになるのだろうか…。
賢者?いや、ないな。
聖女?…いや、もっとない。
どっかで誰か拾ってくれないだろうか。
これがラノベの世界なら、人生に辟易した人間は異世界に召喚されるが、現実では起こるわけがない。
一度でいいから、イケメンに愛される乙女ゲーの世界で生きてみたいなぁ…。
そんな無意味な思考をぐだぐだと繰り返していると、複数のブレーキ音と叫び声が聞こえてきた。
暴走トラックだ…。
トラックの姿が見えた時点で、逃げることができないと悟った私は、目を閉じて衝撃に備えた。
(願わくは、次こそは異性に愛される人生を送れますように…)
そこで、私の意識は途絶えた。
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目を開けると、そこはザ・異世界だった。
え?え?まじで?
ほんとに異世界転生しちゃった!?
ドキドキしながら自分の身なりを見ると、ずんっと気分が落ち込んだ。
よく見慣れた格好だ。
くそダサいとわかっているのにやめられない、楽なTシャツに綿パン。
そしてほどよくついた贅肉。
神様は美女にはしてくれなかったらしい。
落ち込んだところで、どうにもならないことは捨て置こう。
現状を知るために、私はキョロキョロと周りを見る。
なろう系によくある中世ヨーロッパ風のお城っぽいお部屋だ。
けれど、周りには誰もいなかった。
え、召喚されたとかじゃない感じ?もしかして不法侵入?
嫌な汗がたらりと背中を伝う。
どうしよう……。
本気でテンパっていると、バタンっと大きな音を立てて扉が開かれた。
そこから出てきたのは、いかにも王子様な風貌の若い男の子。
金髪碧眼に、きらびやかな衣装を纏っていた。
そのイケメンは私の前までくると、跪いた。
「あなたが、聖女様でしょうか?」
見た目に引けをとらない凛とした声に、思わずゲームをしているような感覚になる。
この乙女ゲーどこで売ってますか?買います。
真顔で拝んでいると、そっとその手を握られる。
あまりない感覚に、頭の中が真っ白になる。
え?…え?なに?この手?てか聖女様?
「い、いいえ!私はただの喪女です!!」
とんでもない発言をした私を見て、王子はきょとんと首を傾げた。
私は自分にドン引きだっていうのに、優しい世界だ…。
「モジョとは、なんでしょう?勉強不足でお恥ずかしいです…」
そう言ってはにかむ王子様は天然記念物だった。
ここからタイプ別のイケメンとの出会いがある予定です