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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第一章 Bandit Rhapsody
9/90

第九話 驕る阿呆が振るう魔法

「さあ、もう安心だよフェイ。ここまでよくがんばってくれたね。後は私に任せてお昼寝でもしてて」


「しょ、ショーコさんっ、やだ、かっこいい」


 大根二人の夢の共演。わざとらしいセリフのキャッチボール。映画評論家も真っ青の茶番演技だ。

 しかし、青ざめているのはユートマンも同じだった。


「っ……なんなんだこのガキは……ただのトボけた奴にしか見えねえが……本当に“転移者”だってんならマズイぞ……」


 ギジリブ強盗団の手下達は戦々恐々とし――


「や、やべえぞ……“転移者”は魔法が使えるって聞いたことがあるぜ……」

「おやびん! 死んじゃイヤですよ~!」


 ドワーフ達は喜々嬉々としていた。


「おおー! “転移者”様の戦う勇姿をこの目で見れるとは!」

「こりゃあ女房を質に入れてでも見る価値があるぞ!」


 かつて世界を救った“最初の転移者”は無敵の強さで魔王を打ち倒したという。その伝説は、この世界で知らぬ者はいないほどだ。

 ならば、二人目の“転移者”であるショーコの強さは一体どれほどのものなのか……


 ユートマンも、手下達も、ドワーフ達も、フェイも、その場にいる誰もが“転移者”の秘めたる力に畏敬の念を抱いていた――



 ――だが、彼女は違った!



(どーすりゃいいんだコレ!)


 当の本人――ショーコは焦りまくっていた。


 異世界転移モノの主人公らしくチートスキルでドッタンバッタンやってやろうと思ったが、自分にどんな能力があるかなんて知らない。

 “最初の転移者”は魔法を扱うことができたと言うが、どーやればいいのかなんてサッパリわかんない。


 ついついノせられて大見栄切っちゃったけど、なんの策もないまま出てきてしまった。いわゆる詰み(・・)ってやつ。


(ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイマジでヤバイ。魔法ってどうすれば出るの? チートスキルってどんな風に使うの? みんなどうやって異世界無双してるの!? こ、こんなことならもっとしっかり異世界召喚系のアニメ見とけばよかった……)

 

 とはいえ、今更引き下がることはできない。周囲の期待の視線を一身に集めながら、『ドモッ、失礼シマシタッ!』と誤魔化せる状況ではない。フェイなんか子供のように瞳を輝かせて見つめている。


 ……やるしかねえ。


 中学の頃、母親がよく言っていた。「その気になれば、あなたに不可能なことなんてない」、「自分ならできると自信を持つことが大事」、「まあ人生とりあえずやってみたら案外うまくいくもんよ。気楽にいきなさい気楽に」と……


 そもそも、わざわざ異世界に召喚されるってことは何か理由があるはずだ。秘めたる魔力がズバ抜けてるとか、親が伝説の魔法使いとか、邪悪な闇の魔法使いの襲撃を生き残った伝説の子供だとか……


 そう……異世界(ここ)にいるってことは、自分はスデに“選ばれし者”なのだ……!


 急に勇気と自尊心と優越感が沸いてきた。アホだから思い込みやすいというのも時には利点だ。


 そうだ、自分を信じるんだショーコ! お前ならきっとなんだってできる! やるならやらねば!



「よ、ようし! 未舟ショーコ、一世一代の見せ場だぜぃ!」


 ショーコは足のスタンスを広げ、めいっぱいおっかない目つきでユートマンを睨み付ける。


「覚悟しろ悪党! この“転移者”であり“選ばれし者”であるショーコちゃんがすんげ~魔法でバビっとやっつけちゃうぜ!」


「っ……!」


 ユートマンは喉を鳴らした。

 ドラーフや強盗団の面々が固唾を呑んで見守る中、ショーコはゆらゆらと両手をゆらめかせ、呪文を唱え始める。


「ジュゲムジュゲムゴコウのスリキレ……テクマクマヤコンテクマクマヤコン……」


「っ……な、なんだ……一体何が始まるってんだ……!」


「天光の煌めきが黄泉の門を開く……いでよ! 神のいかずちッ! カミナリサンダーッ!」


 ショーコの魔法攻撃!


「っ!」


 ユートマンは目を瞑り、歯を食いしばった!



 ――……しかし、



「……ありゃ?」


 「……あン?」



 何も起きなかった。


 何も起こっていなかった。


 ショーコは魔法を放ったっぽいポーズを取ったまま首を傾げる。


 ユートマンは恐る恐る瞼を開いて首を傾げる。


 フェイも、強盗団の面々もドワーフ達も、キョトンとした表情で首を傾げる。



「……炎よりも血よりも紅く、等しく滅びを与えんことを! マハリクマハリタ!」


 再び呪文を唱えるショーコ。


 だが……またしても何も起こらない。


「テケレッツノパー!」


 ……再三呪文を唱えるも、やっぱり何も起こらない。

 風がヒュ~っと吹き、空しさが強調される。昔のアニメでよくある演出だ。さすが異世界。実にファンタジックである。



「…………ハハ……アハハ……な、な~んつっちゃったりして……ハハハ……」


 ショーコはカラ笑いでごまかそうとする。


 ――いや、ごまかせるわけねえ!


「……ふ……ふふふ……ふはっはははは! 何をやるかと思ったら、ただのハッタリかよ! ビビらせやがって! いやビビってなんかいねぇけどよ俺ぁよ」


 ショーコが魔法なんか使えないとわかるやいなや、態度を一変させるユートマン。さっきまであんなにビクついてたのが嘘のように大口開けて笑い飛ばしている。


「あ、アワワのアワビ……! こ、これはちょっとしたジョークでして……や、やだなぁ何をマジになってんスか~……いひひひ……ひ……」


 ショーコは今、まさに十六年の人生に於いて最大の窮地に立たされていた。

 高校の入学試験で筆箱と間違えてテレビのリモコンを持って行ってしまった時と同じくらいの危機だ。

 もしくは小学五年生の頃に家庭科の授業でボヤ騒ぎを起こし服に引火した時くらい。


「どうせ“転移者”ってーのもハッタリだろうがよ。よくもこの俺様をデマカセでビビらせてくれたな。いやビビちゃいねぇーけどよ。とにかく、天下のギジリブ強盗団にナメたマネしやがったからにゃ、骨の二、三十本は覚悟してもらうぜ」


 ユートマンが両拳の関節を鳴らす。ポキポキという独特のサウンド白熱エキサイトを呼び寄せる、「これからあなたを痛い目に遭わせますよ」という意思表示だ。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 私ゃか弱い乙女ですよ! 女の子に暴力振るうつもりですか!? それでも男かアンタ! 故郷(くに)のお母さんが泣いてるよ! そんなんだからモテないんだよ!」


「じゃかあしい! モテないのは生まれつきだ!」


 ユートマンの超合金拳がショーコに向かって一直線に走る。


「わあーっ!」



 ――が、その時であった。



「――……ウッ!」


「――……わ?」


 ユートマンの拳がショーコの眼前に迫ったところで、突如静止した。

 そして、ユートマンの表情がぐにゃりと歪む。


「っ……ぐゥッ……! なっ……なんだ……」


 膝をついたユートマンの顔色がみるみる内にドス黒くなる。汗が噴き出し、息は大きく荒れ始めた。


「お、おやびん!?」


 部下達が頭目の様子を案ずる。


 ユートマンは腹部を押さえながら、苦悶の表情でショーコに問うた。


「……な、なんだ……てめぇ……何をしやがった……!」


「ぇ」


 ショーコはわけがわからなかった。

 当然だ。彼女は何もしていない。何もやっちゃいないのだ。

 にも関わらずユートマンが突然苦しみだしたのには理由があった。


 彼は今、絶望的な“腹痛”に襲われていた。


 突然襲ってきたその腹痛の原因は、今朝食べた、昨日の晩飯の残り物にあった。消費期限を二週間過ぎた動物肉で、あろうことか中まで火を通していなかったのだ。

 異世界産のサルモネラ菌が、彼の体内をズタズタに引き裂いているのだ。


 だが、ユートマンはそんなこととはつゆ知らず。

 自身のこの苦しみは、ショーコによる魔法攻撃だと思い込んでいた(・・・・・・・)


「い、一体……どういう魔法だこれはっ……! く、クソッ……! か、身体がいうことをきかねぇ……!」


 ユートマンは、ショーコに“魔法で何かされた”と信じて疑わなかった。


 異世界からの“転移者”が唱えた謎の呪文……その魔法は、炎を生み出すとか雷を放つだとか、そーゆー“目に見える脅威”ではなく“対象者を体内から蝕む”ものだったのだと信じ込んでいるのだ。


 しかもショーコは、三度も魔法の呪文を唱えていた。

 今は恐るべき腹痛に苦しめられているが、残る二つの魔法は一体どんな効果のものなのか……

 それも、“目に見える脅威”ではなく、“スデに効果が発動している”のではないかという懸念が彼を包み込んだ。


「ち、ちくしょう! てめぇ何をしやがった! お、俺に一体……どんな魔法をかけやがったんだ!」


 体内の臓器が抜き取られたのではないのか? 数分後に歯がボロボロと抜けていくのではないのか? 預金口座がゴッソリ抜かれたのではないのか?

 ()()()()()()()()()()()という恐怖が、ユートマンを押し潰す。


「えっ……? えっ? えっ!?」


 当のショーコは何のことだかサッパリわからない。だって何もやってないんだから。


「ち、ちくしょおおお! 腹がっ……腹がねじ切れる……! こ、この野郎……な、何を……この俺に何をしやがったんだああああああああ!」


 耐えがたい激痛。滝のような脂汗。止まらない震え。

 痛みと不安と恐怖の同時攻撃によって、ユートマンの精神は限界だった。



 ――その時。


「――っ……」


 ユートマンは背中に違和感を感じた。


 最初は“冷たい”と思った。だがそれは正しい感覚ではなかった。


 なんとなく“うるさい”と思った。何かノイズのようなものが走ったような感覚。しかしそれも正確ではない。


 そして“熱い”と感じ……言葉に出来ないような感覚に陥り……視界がボヤけてゆく。


 その理由は明確で、とても単純なもの。



 ――彼の背中にはナイフが深々と突き立てられていた。

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