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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第五章 Sin
80/90

第八十話 つばさをひろげて

 〜これまでのあらすじ〜


 “最初の転移者”に会う為〈神聖ヴァハデミア共和国〉に辿り着いたショーコ達一行は、かつて魔王を倒し世界を救った英雄の一人、レオナ・オードバーンからドラゴン退治を依頼される。

 共和国から支給された装備を身に纏い、ドラゴンが居るという“南方の離れ山”へ向かうショーコ達。そこでは、ドラゴンの他にも生き残っていた魔物達が狂ったように暴れており、一行に襲いかかってきた。


 紆余曲折の末、山の地下に存在する地下空間にて、ショーコは言葉を理解する魔物、ビルに助けられ、さらに討伐目標であるドラゴン、アークエデンと出会う。

 実は、魔物――魔族は凶暴で意思疎通のできないモンスターなどではなく、人間やエルフと同じく心や知性を持つ種族であり、“南方の離れ山”に住む魔物はかつて“最初の転移者”に降伏して平和条約を結び、難民としてこの地に住まうことを認可された者達だった。

 さらに、共和国――レオナは彼らが難民と知りながら非人道的な新造魔法を用い、正気を失わせ仲間同士で共食いをさせる虐殺行為を行っていたと判明する。


 真実を知ったショーコ達はアークエデンの背に乗り、一路共和国へと向かう。

 果たして、ショーコ達はレオナの大量殺戮を止め、苦しむ魔物達を救うことができるのか……

 急げショーコ! 期末テスト当日に寝坊した中三の夏のように!

 ――神聖ヴァハデミア共和国首都・オズ


 元魔王城――もとい、共和国政府本庁。


 陽も暮れ、外が暗くなった頃、十三騎士団団長であるレオナは自身の執務室にて仕事を片付けていた。

 大きなテーブルの上には様々な書物や書類で構成された塔がいくつも建ち並んでいる。が、そられは全て綺麗に整えられており、乱雑さは微塵も感じられなかった。


 執務室の扉を二度叩く音がした。レオナが「うん」と答え、扉が開く。

 漆のように黒く光る長髪の女性が入室した。ピシッとしたビジネススーツに加え、力強く鋭い目つきが厳格な印象を与える。


「話は聞きましたよオードバーン卿。どういうことですか」


 入るやいなや、黒髪の女性はレオナが座するテーブルの向いに立った。


「“南方の離れ山”に奇襲を仕掛けたそうではないですか。それもたった数人で。なぜですか」


「なぜ、とは?」


 女性の問いに、レオナは問いで返した。


「あの山の魔族は今や、新造魔法“ヤクラグ”によって数が減り、残っているのも正気を失った連中のみ。なれば全軍を率いて一気に殲滅作戦に出るべきでしょう。あのバケモノどもを確実に絶滅させる為に」


「相手は魔物だ。油断すると返り討ちに遭う。それに、生き残っている魔物は生存競争を勝ち残ったということだから、一個体の強さもかなりのもの。無駄に人員を投入して犠牲を出すよりも少数精鋭で挑むべきだと思ったのだが、どうかな? なにものにも代えがたい尊い人命を失うわけにはいかないからね」


 女性の勢いに気圧されることなく、レオナは淡々と答えた。


「っ……たしかに。無礼な物言いをお許しください」


 言い分に納得した黒髪の女性が低頭し、レオナも小さく頷いた。


「うん。貴方の魔物を倒そうという強い気持ちはわかっているよ。だからこそ貴方が主導となって新造魔法を造ったのだから」


 黒髪の女性は誇らしげに口角を上げた。


「ええ、魔族のクソッタレどもを蝕み、共食いさせる魔法……我ながら大したものを造り出したと自負しております」


 レオナは口を噤んだ。

 黒髪の女性が続ける。


「それと、“ヤクラグ”とは別の……例の魔法の件ですが、最終調整が九割ほど完了しました。明日には使用可能になるかと」


「ありがとう。でもワガママを言わせてもらうなら、今夜中に出来るかい?」


「それは可能ですが……よろしいのですか? あの魔法は……倫理的にかなり問題があるかと」


「ふふ、貴方がそれを言うとは。大丈夫、全ての責は私が負う。貴方は何も気にせず仕事に徹してくれ」


「わかりました。では、今から作業に取り掛かります」


 黒髪の女性は再び低頭し、レオナに見えない角度で口角を上げた。


 彼女こそ、凶悪な新造魔法“ヤクラグ”を造り出した魔法使い。

 神聖ヴァハデミア共和国魔法管理局局長――シルヴィア・ウォーシャン。


 カイルやヨーカ達――そして、クリスの母親である。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 共和国首都へ向かって空を翔る巨大なドラゴン――アークエデン。彼女は敵勢種族であるはずの人間とエルフを背に乗せ、両の翼を羽ばたかせていた。

 超高速飛行による凄まじい向かい風を受け、またしてもショーコは振り落とされそうに――


「どっしええぇぇぇ~~~! ――……じゃない。全然ヘーキ」


 ――なっていなかった。

 ヨーカの魔法、風圧無効ウィンドブレイカーによって風の抵抗が消されているのだ。

 彼女が空中戦で風の影響を受なかったのはこの魔法の加護が故。それも本人だけでなく周囲の人間にまで効果を及ぼせるらしい。


「それにしても……私達が地下世界にいる間にそんな大変なことがあったのですね」


 フェイは地上で何があったのか――新造魔法のこと、マイが単独でジュエルハーツを討ち取ったこと、カイルとクリスがやり合ったこと等――を聞き、驚きを隠せなかった。

 ちなみにそのカイルはというと、気絶した状態でヨーカに背負われている。あの山に放置しておくわけにもいかなかったので、まるで(ショーコの世界で言う)ランドセルのように背中合わせの形でロープで巻き付けられていた。イケメン優等生がこうなってしまってはすごくカッコわるい。


「そっちこそ大したモンじゃねーか。山の下に空間があったってのも驚きだけどよ、そこに住んでる魔物とダチになってくるなんてな」


 同様に、クリス達もショーコ達が地下世界で見聞きした出来事を伝え聞く。地上組と地下組それぞれに何があったのかをそれぞれが知ることとなった。


「その話から推察するに、このドラゴン……アークエデンと言ったな。彼女が共和国上空を飛行していたのも、あの山に住む魔物達の為に“マナ”を集めに飛んでいたのだろう」


 アークエデンとの初遭遇は、ショーコ達の飛行艇を後方から追い越してゆく形でのものだった。

 今になってわかったことだが、あの時のアークエデンは大陸の外の海で“マナ”を収集し、“南方の離れ山”へと持ち帰る道中だったのだ。

 レオナの言では、ドラゴンが何度も共和国上空を飛行していたとのことだが、それらも同様“マナ”の収集の為だろう。


「あの山を離れてはならないという条約に違反したから、レオナさんは新造魔法の使用を指示したのでしょうか」


「たとえそうだとしても、難民を虐殺するなど言語道断だ」


「……そんなことする人には見えなかったけど」


 ショーコの瞳に映ったレオナ・オードバーンという女性は決して残虐非道な行いをする人間には見えなかった。

 なにより、マイや“最初の転移者”と共に世界を救った人物が虐殺行為に手を染めるなど考え難い。


「誰かにハメられたんじゃねーのか? 魔族に恨みを持つヤツが根回しして、レオナ・オードバーンが大量殺戮をせざるを得ない状況(・・・・・・・・・)に持っていったとか」


 クリスの言にヨーカが顔色を曇らせたのをマイは見逃さなかった


「思い当たるフシがあるのか?」


「あっ……いや……」


 ヨーカは言いにくそうに口を歪めた。


「ウチのマッマかも……しれん」


 その一言に今度はクリスの顔色が曇る。


「パッパが魔物に殺されてから、マッマは魔物をやっつけることに躍起になってるんよ。新造魔法ってのを造ったのだって、もしかしたら……」


 言い切ることができずヨーカは顔を伏せた。考えたくはないだろう。自分の母親が虐殺行為を引き起こした黒幕かもしれないだなんて。


「……とにかくまずはあの山にかけられた新造魔法ってのを止めなきゃ。なんとか魔法を解く方法ってないの?」


 ショーコの問いにマイが小さく頷いた。


「新造魔法が魔法である限り、【魔導書】に詳細が記されているはずだ」


 魔導書――魔法の術式構成、詠唱文句、応用方法、魔法陣の描き方、そして弱点等が記されている書物。それぞれの魔法に少なくとも一冊ずつは存在する、非常に貴重な物品アイテムである。

 たとえ極秘に開発された新造魔法であろうと、研究開発の段階で必ず魔導書も作成される。建物を完成させる為に設計図が必要なように。


「共和国の首都にあらゆる魔導書が納められた書庫があると聞く。新造魔法の魔導書もおそらく【禁術】として蔵書されているハズだ」


「あー↑ たしかに本庁に書庫があんべや。でも禁書を読むにはエツランキョカショーを発行してもらわないとダメだったと思う。ちな、申請から発行まで二、三週間はかかるべ↓」


「えっ」


「無論そんな時間はないし、律儀に申請などしたところで却下されるだろう。押し入るぞ」


「えっ」


「ちなみに正規の手続きせずに禁書読んだら独房監禁五年はくらうよん☆」


「えっ!? ちょちょちょ! それはさすがにリスキーすぎん!? この歳で前科マエがつくのヤだよ私! クリスと同じ枠にハマりたくない!」


「へし折るぞ首を」


「ショーコの言う通り、リスクはかなり大きい。それでもやるという覚悟があるのなら手を貸してくれないか」


「私は同行します」


「当然。乗りかかった船から降りるなんてもったいねーからな」


「ウチも腹くくったけんね☆ ショーコっちはどーするん? やめとく?」


「っ……いや……他に方法がないなら、私もやるよ。ビルには助けてもらったし、私だけ安全圏に逃げるなんてできないからね。……でももしタイホされたらマイさんに脅されて無理矢理来ましたって言うからね!」


「……フハッ」


 マイは吹きだした。

 先ほどまで表情を強張らせていた彼女が笑ったことで、フェイとクリスもつられて小さく笑った。


「そうと決まれば急がないとだね。ビビ、もっとトバしてちょうだい」


 ショーコに急かされたビビことアンジェリア・ビビ・アークエデンは不機嫌そうに片眉を釣り上げた。


『「は? なに? 人間ていどがわたしに命令するつもり? は? キッショ。は? ころすぞ」』


「く、くちわりぃ~……」


 見た目は凶悪なドラゴンだが、中身はクソがつくほど生意気なアークエデン。彼女に協力を促すには正攻法ではダメだと、ショーコは別角度から攻めることにした。


「あー、いくら天下のドラゴン様でもけっこう時間かかるんだなあ。まあバイクで丸一日かかる距離だし、しゃーないしゃーない。乗っけてもらってる手前ワガママは言いませんよあたしゃ。気長にじっくりお待ちしております」


 アークエデンが、今度はより大きく眉を引き上げた。


『「は? お前、は? 誰にモノ言って、は? わたしが人間のチンケな乗り物より遅いと思ってんの? ふざけ、は? ふざけてんの? バカ、お前バカ。ナメんな」』


 アークエデンの加速度が一気に上がった。

 その飛行速度は魔動二輪車バイクよりもずっと上。雲を斬り、風を追い抜いて一直線に翔ける。


「ウヒョーッ☆ 流石は魔族の中でも最強種の一つに数えられるアークドラゴン。これなら半日程で共和国に着くべや♪」


「ショーコさん、我々一同を代表して是非とも感謝の言葉をお伝えください」


「えー、私がぁ? ……私しかいないかあ」


『「なんだ? おい、人の背中の上で何ゆってんの? あ、もしかしてわるくちか? わたしのわるくちゆってんのか!?」』


「みんながビビすごいねーだって。乗せてくれてありがとだってさ」


『「…………は? ……あ……そう…………そっか……ふーん。人間とエルフなんて下等生物と思ってたけどわたしのすごさはりかいできるんだ。ふーん……そっかぁ……」』


「くち悪ぃ~」


「にしても、ショーコが魔族語翻訳できるなんて未だに信じらんねーよな。魔物と喋ってるとこ見た時ゃそりゃー驚いただろうフェ――」


 クリスは口を止めた。昨晩フェイと口論になったまま、魔物の襲撃やらなんやらで結局まだ和解できていないことを思い出したのだ。


 クリスは我ながら自分の態度はめちゃくちゃ悪かったと猛省していた。落ち度で言うと八割方こっちが悪い。

 正直こーゆーのは苦手なのだが、自分の非を認めてスジ(・・)を通さなければならない。


「……あー……フェイ」


 フェイが振り向き、目が合う。一瞬たじろいだものの、クリスは覚悟を飲み込んだ。


「……その…………悪かったな。謝るよ。すまん」


「え? なにがですか?」


「えっ」


「えっ?」


 え。


 キョトンとするフェイに、クリスはアゼンとした。


「いや……その……親がどうとかの話で怒鳴ったじゃん、アタシ」


「あ、いえ、あれは私がデリカシーの無い発言をしてしまったからですよね? 謝るのは私の方です。申し訳ありませんでした」


「いやいやいや! ここで謝られるとこっちも立つ瀬がないから! 素直に謝罪を受け入れろよ!」


「何をおっしゃいます。謝るべきは私です」


「てめっ! ハナシ聞ーてんのか! アタシが悪かったっつってんだろ!」


「私です」


「アタシだ!」


「やいの」


「ヤイノ!」


「ちょちょちょちょ! 二人とも何をやいのやいの言い合ってるのさ! 和解の場で第二ラウンド始めるんじゃないよ! 素直に仲直りでいいじゃん。ほら、ね」


 ショーコに窘められたクリスはバツの悪そうな表情を浮かべる。

 対するフェイは「その手があったか」と言いたげな様子。


「チッ、仕方ねー。……じゃあ、どっちにも落ち度があったってことでいいな」


「ですね。今後はお互い、相手に配慮するよう気を付けましょう。まあガサツなクリスさんにはあまり期待できませんが」


「てめっ、喧嘩売ってんのかコラ」


「ふふ、冗談ですよ」


「へっ、バーカ」


 小さく笑う人間とエルフ。

 生まれが違えど、主義主張が違えど、対立を止めて共に笑い合うことができる……異種族同士の二人がそれを証明する様に、ショーコは目頭が熱くなった。


「ショーコさん、どうして泣いてるんですか? お腹でも痛いんですか?」


「ほっとけ。どーせその辺の虫でも食ったんだろ」


 情緒もへったくれもなくてさらに泣いた。

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