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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第五章 Sin
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第七十四話 魔族の集落

 ショーコの目に信じられない光景が映った。


 崖の上から見下ろすに、複数の魔物の姿と、大きさはそれぞれ異なるが石や木の骨組みに布をかぶせて作られたテントのような住居が立ち並ぶ共同体(・・・)があったのだ。


 とても信じられないことではあるが……この地で魔物モンスターが村を形成しているのだ。


「……マジ……ですか……」


 視線を上げると、この地がドーム状の空間であることがわかった。決して広くなく、天井も低い。ショーコの故郷では地球空洞説なるものがあるが、この地下世界は箱庭のような形をしているらしい。

 低い天井の中央に光り輝く太陽のようなものが浮いている。大きさも光の強さも本物に比べて遙かに小さく、まるで地下世界を照らすミラーボールのようだ。


『「二つ目の質問、自分はドラゴンに食べられたのではと尋ねたが、それに関しては間違っていない。その話は……本人が居た方がわかりやすいだろう。ちょうど来たようだ」


「えっ」


 ビルが視線を向けた方へショーコも目を向ける。


 その視線の先には、彼女にとってのトラウマ――百メートル級の灰黒いドラゴンの姿があった。


 しかも、こちらに向かって飛翔して来ている。


「!」


 飛行するドラゴンが近づくにつれその姿がどんどん大きくなる。

 地上で丸呑みにされた時の恐怖がショーコの頭の中でフラッシュバックしそうになったその時――ドラゴンの全身が光に包まれた。


 光が収まったかと思うと、ドラゴンの姿が忽然と消失し……代わりに小さな女の子が顕現した。


「は!?」


 女の子は空中でくるりんと身体を回転させ、曲芸師のように舞いながらショーコとビルの眼前に着地した。


『「“マナ”のちゅうにゅう終わったよ! 今日のおしごとおしまい!」』


 女の子が快活に言う。

 見た目は人間の子供にそっくりだが、左右のこめかみの辺りに角が二本ずつ、計四本生えている。僅かに見えた口内には鋭い牙がチラリと覗けた。よく見ると瞳はトカゲのそれ(・・)に似て、黒目が縦長。腰の辺りには短いシッポがフリフリしている。

 なんとも……あざとい見た目の女の子だ。



『「この子が、お前達を食べたドラゴン――アンジェリア・ビビ・アークエデンだ」』


「……」



 間。



「はあ~~~~~~っ!?」


 ショーコは口をひん曲げた。


「こっ、こっ、この子が!? こんなちっこいお子ちゃまがあのデッカイドラゴンだっちゅーの!? ま、マジで!? 見た目は子供中身はドラゴンってこと!?」


『「お子ちゃまじゃない!」』


 ドラゴンの女の子がショーコのスネを蹴る。


「いてっ」


『「これはヘンシンしてるだけなの! ここじゃせまいから体を小さくしてる方が動きやすいでしょ! そんなこともわかんないのかバカナス!」』


「な、なんじゃこのナマイキなクソガキは……」


 ショーコは「な、なんじゃこのナマイキなクソガキは……」と思った。いや、頭で思うより先に口に出ちゃってた。

 どうやら彼女の外見も着ている服も本物ではなく、魔法によって擬態しているだけのようだ。


『「ちゅかなんなんだオマエ! なんで人間がエラソーにしゃべってんの!? え!? キモイんだけど! え! キッショ!」』


「な、なんじゃこのクッソナマイキなクッソガキは……」


『「三つ目の質問、君達がどうなったか……君達が先ほどまで居た〈ライコウ山〉には地上と地下世界を繋ぐ“門〈ゲート〉”がある。この子――アークエデンが地上から帰還する道中で襲われている君達を発見し、助け出したんだ。まあ、丸呑みにして、という形ではあったがな」


 ビルの説明を受け、ドラゴンの女の子――アークエデンはエッヘンとふんぞり返った。


『「かんしゃしろよ! 人間を口ん中に入れるなんてホントはヤだったんだからな! バイキンもってるかもしれないし! インフルエンザとかなるかもしれないし!」』


 あ、異世界にもインフルエンザあるんだ。ってかドラゴンもインフルエンザなるのね。

 ……いや、今はそんなことはどうでもいい。もっと大きな問題が目の前に広がっている。


「い、いやいや! 地下世界だかなんだかわかんないけど……な、なんで魔族の村なんかがあるの!? 魔族は絶滅寸前だって聞いてたんだけど……」


 ビルは物憂げに目を細めた。


『「ああ……魔族は五千年前の創世のとき以来、人間や獣人、ドワーフ、エルフら他の種族と敵対し続け、終わりのない闘争を繰り広げていた。だが十五年前、魔族以外の種族(・・・・・)が手を組み、世界規模の大戦が勃発したのは知っているな」』


 十五年前……“最初の転移者”が魔族の王を倒したという戦いのことだとショーコは察した。


『「あの戦において魔族のほとんどは死滅した。我らが王(・・・・)も倒れ、永い争いは幕を閉じた……我々生き残った魔族は、世界に点在する地下世界に落ち延び、細々と暮らしているのだ」』


 どうやら地下世界と言っても地上と同じく地続き(・・・)に広がっているわけでなく、世界各地に数か所、地面の下にドーム状の空間が点在しているらしい。ウサギやモグラの巣穴のようなイメージだろうか。



 ――その時、


「だぁっ!」


『「――っ……!」』


 突如、ビルの側頭部に痛烈な一撃が打ち込まれた。


 その攻撃の主は、先ほどまで意識を失っていたエルフ――


「フェイ!」


「ショーコさん! 離れて!」


 まだ万全ではないものの、フェイはショーコを庇うように決死の表情で魔物と対峙した。


『「っ……」』


 突然横っ面に蹴りを入れられたビルだったが、ヌ~っとゆっくり姿勢を直す。

 アークエデンに関しては何が起こっているのか未だ飲み込めていない様子で、ビルとフェイを交互に見やるばかり。


「すみませんショーコさん。私が気を失っている間にこんな事態に……ケガはありませんか?」


 徒手空券の構えを取りながらショーコに背を向けて言うフェイ。

 当然といえば当然だが彼女は誤解している。ショーコが悪魔のような姿をした魔物のすぐ目の前にいたのだから、急いで助けに入ったのだ。


「ま、待ってフェイ! この人は悪い人じゃないんだよ! いや人じゃないけど」


『「……未船ショーコ、彼女をしずめてくれないか。できることなら君達と争いたくはない」』


「ほ、ほら! ビルもああ言ってるし、とりあえず落ち着いて! ボロボロだったフェイを介抱してくれたんだよ。魔物だけどちゃんと話し合えば悪い人じゃないってわかるから! いや人じゃないけども!」


「何を言っているのですかショーコさん……!」


 フェイは戦闘態勢を維持したまま言った。


「言葉など通じるわけがありません! 先ほどからコイツは、他の魔物同様に唸っているだけではありませんか!」


「…………え?」



 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 山の中腹にて、怪鳥の魔物の無残な姿を前にしたクリス達を不穏な空気が包み込んでいた。


「……どういうことだよマイ。『魔族が共食いなんてありえない』って、なんでそんなこと言い切れるんだ? あんた、何か知ってんのか?」


「……」



 ――その時、


『KKYYYIIIIAAAAAAA!』


 突然聞こえた魔物の声。三人が振り返った先に、カマキリとクワガタを掛け合わせたような昆虫型の魔物の姿。悲鳴に似た声を発しながらこちらに迫ってくる。

 クリスは拳を構え、マイとカイルはそれぞれ武器に手を当てた。


 しかし、次の瞬間――魔物の胸から槍の刃が飛び出した。


『KKYYYッ……!』


 魔物の動きがガタつく。ギギギ……と痙攣した後、うつ伏せに倒れた。

 背中から突き刺された槍の柄が天に向かって屹立している、かと思いきや、槍の持ち主が突然その場に出現した。


「っぱぁ~~~……はあっ……はあっ……ち、ちかれたビー……」


 全身傷だらけの鎧で武装した騎士。兜が開変し、その下から疲弊したヨーカが顔を見せた。


「ヨーカ!」


 クリスの呼び声に反応し、ヨーカが視線を向ける。


「あっ、カイ兄にクリ姉にマイパイセンの年増三人衆」


「頭蓋砕くぞコラ」


 魔物の背から槍を引き抜き、クリス達のもとへ駆け寄ろうとするヨーカ。だがよほど疲れていたのか足がもつれる。カイルは転びそうになった妹を抱き留めた。


「よく無事だったねヨーカ。流石は自慢の妹だ」


「……うへへへ、もっとホメちょくれ。ウチはホメられて伸びる子やけんね。あー……にしてもガチで疲れたわ……疲労困憊コンパニオンガール……」


「ショーコとフェイはどうした?」


 マイの問いに、ヨーカは「フッ……」って感じの得意げな顔で返す。


「それなんやけどね、実はね、なんかね、四、五人くらい魔物が集まってきたもんだからね、ウチが囮になるけん逃げんしゃい! ってやって逃がしたんすわ。カッコいいべ? で、今最後の一体をキルしたとこすわ」


「この短時間で五体も? すごいじゃないかヨーカ」


 兄に支えられながら、ヨーカの表情がぐにゃりと緩んだ。


「うえへへへへ、そうっしょそうっしょ? ウチがんばったげな☆ なんせそん中にはあの(・・)ジュエルハーツが…………あっ!」


 ヨーカが何かを思い出したように声を上げる。そして、その表情がみるみる青ざめてゆく。


「…………や、やってない(・・・・・)……ジュエルハーツを倒してない!」


 マイの顔色が変わった。


「なに? どういうことだ」


「う、ウチ……戦うのに必死で……いつの間にか一体いなくなってるのに気づかなかった……それも、あの(・・)ジュエルハーツなんよ!」


「なに……!?」


 クリスがサングラスを装着し、周囲を見回した。


「おい! あっちにミョーに濃い“マナ”が見えっぞ! それも二つ!」


「……行くぞ」


 マイを先頭に、四人はクリスが示す方向へと急いだ。



 ――そこには目を覆いたくなるような凄惨な光景が待っていた。


「!」


「……マジかよ」



『――――』


『GGRRrrrrr……GGNNNMMMMM……』


 ジュエルハーツが、ガノトフの亡骸を貪り食っていた。


 魔物の肉を喰らう度に宝石のような陽光を反射してキラキラと輝いている。ともすれば美しくも感じれるが、あまりにも惨たらしい光景だ。


「……ジュエルハーツ……」


「うっ……グロすぎ……↓ 十八歳以下は見ちゃダメなやつ……」


 フェイとの激闘によって瀕死と言える傷を負っていたガノトフを、同族を喰う。弱っている獲物を容赦なく仕留める弱肉強食の世界。そこには慈悲も情けもなかった。


『GGRRRrrrrr……』


 ジュエルハーツがこちらに目を向ける。ダイヤモンドのような顔面がガノトフの血と肉で赤く染まっていた。


「やはり“名有り”とはいえ所詮魔族……野蛮なバケモノにすぎないか。皆さん、力を合わせてヤツを――」


「私が介錯する」


 カイルを遮るようにマイが前に出た。

 マイはジュエルハーツを見つめ、語り掛ける。


「……私がわかるか?」


『GGAAAAAAAAAAAAAAA!』


「……わかるわけがないよな。私の言うことなんか」


 マイが鞘からゆっくりと刀を抜く。刀身が白く透き通り、ドライアイスのように白い“気”が立ちこめていた。

 刀に魔法を付与する“魔刃剣”……マイは刃に氷の魔法を纏わせたのだ。


「魔刃剣――氷牙(ひょうが)


『GGAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 ジュエルハーツが拳を振るう。マイは躱し、地面が穿たれる。

 砕けた岩地の足場を的確に踏み、刀を振るった。


 宝石ジュエルの身体に刃が弾かれる――

 ――だが、ただ弾かれただけではなかった。


 刃が触れた箇所が凍り付いていた。氷の魔法を帯びた斬撃がジュエルハーツの身体を凍結させたのだ。


 手首を返し、反対側を斬り付ける。刀が弾かれると共に敵の身体の一部を氷に変えた。

 横からの剣撃、斜め下からの剣撃、斜め上からの剣撃……連続の斬り返しでジュエルハーツの輝く身体をどんどん凍り付かせてゆく。


『ッ……! ……GA……GGAA……! ……――』


 何十もの氷の刃を受け、ジュエルハーツの全身は氷に覆われた。


 マイは刀を鞘に収め、一歩下がった。


「……」


 しかし、まだ終わっていない。


 ジュエルハーツが全身に力を込める。身体に纏わり付いた氷がピキピキと音を立てて亀裂を刻み、そして――


『GGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 ――打ち破った。


 “名有り”の魔物を押さえ込むことはたとえマイであろうと容易ではない。


 だが、マイの狙いは相手を氷漬けにして倒すことではなかった。


 ただ時間が欲しかっただけだ。


 瞳を閉じ、精神を集中させる時間が。


 鞘から刀を抜き、上段に構え、そして――



「安らかに、強敵ともよ」



 ――一閃。



『ッ――――      』



 渾身の一刀の下、ジュエルハーツの肩口から腰までを斬り落とした。


 それは魔刃剣ではなかった。

 一切の魔法を付与していない、の刃での一撃。



 何者にも砕けない魔物を斬り捨てたマイは、静かに刀を鞘に納めた。

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