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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第四章 Backstreet Side Story
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第五十話 魔法vs物理

 ショーコの瞳に映るのは、炎の大津波。

 視界全体が覆われるほどの凄まじい火炎。


 あ、やばい。これ終わった。


 そう思った瞬間――


「!」


 ――マイが刀を抜いた。


 一刀の下に業火の大渦は斬り裂かれ、ショーコは難を逃れた。


「――……あ、ありがとう……マイさん」


「私の……ヒック、仲間に危害を加えることは……ぅぁ……許さん」


 やってることと言ってることはカッコイイんだけどへべれけなもんだからカッコつかない。


「許さん……か。よくも言う」


「自分達以外はどうでもいいとは、勝手なヤツらめ!」

「貴様等の自己満足で抑圧される我々の身も知らずに!」


 ブリスが顔をしかめ、他の魔法使い達も続く。その声には強い感情が込められていた。


「わけわかんねーんだよ! 離れたとこから飛び道具使ってんじゃねー! ケンカ売るなら拳でこんかい!」


「なぜわざわざ近づく必要が? 貴様等に反撃の余地を与える必要などない」


 クリスの言い分に対するブリスの返しはもっともだ。

 戦いの場において魔法使いは後衛で戦うのがセオリー。逆にクリス達は前衛で敵に近づいて戦うタイプ。

 ブリス逹魔法使いからすれば距離をとって戦うのは至極当然の話だ。


「だったらそこで大人しくしてろ! 上まで行ってブチのめしちゃる!」


「迂闊に動かない方が身のためだぞ。貴様等は“結界”の中にいる。半径十歩以上その場から離れれば、瞬く間に氷の彫像と化すぞ」


「なに!? けつかいい!?」


 どうやらまんまと罠に嵌ってしまったらしい。

 敵に近づこうとしてもこの場から逃げようとしても、冷気に触れて凍結してしまう。先程フェイの右腕が凍り始めたのもそのためだ。

 つまり彼女達は現在、冷気の台風の目(・・・・)の中に居るようなものだ。


「せいぜい足掻け」


 ブリスが仲間の魔法使い達に目線を配る。

 ブリスとアンナ以外の十人の魔法使いが手をかざし、呪文を唱え始めた。


 彼らの眼前に黄色い魔法陣が浮かび上がり、光を放つ。

 ショーコ達の足下の地面にも同様に――しかし遙かに大きい――黄色い光を放つ魔法陣が浮かんだ。

 辺りがグラグラと揺れ始め、石畳がめくり上がり、グニャグニャと歪んで一点に集まってゆく。


 石畳と煉瓦が集まって生まれたのは、魔法の獣――岩石魔獣(ロックタイタス)


 〈月影の森〉で戦った人型の岩石人形(ゴーレム)とは違い、異常に巨大な上半身と極端に小さな下半身、肥大化した顎と、怪物じみた姿だ。

 ゴーレムが精霊によって命を与えられた下位精霊(アニマ)であったのに対し、タイタスは魔法で作られた擬似的な魔獣である。


『ゴグワアアアアアア!』


 タイタスがうなり声を上げる。


 ――が。


『ゴグ……!? グワ……! グガガッ……!』


 この裏通りにその巨体はいささか窮屈らしく、左右の建物にみっちりとハマってしまい、身動きがとれない状態となってしまった。


「え、なにコレ」

「挟まっちゃったみたいですね」


『グガガガガガ……!』


 タイタスは身体を小刻みに前後させ、グググっと少しずつズラして抜け出そうとする。


「わ、ものすごくカッコ悪い動き」

「まあでもああやって抜け出すしかないですもんね」


 なんとかズリ抜け、タイタスは身体を斜に構えることに成功した。


『グオッ……グガアアアアア!』


 横向きになった腕を振りかぶり、ショーコ逹をぺしゃんこにしようとする。


「わーフェイ! いつもみたいにびゅーんヒョイってブン投げちゃってよ!」


「そうしたいのは山々ですが……これではどうにも」


 フェイが右腕を見せる。まるで業務用冷蔵庫から取り出したばかりのように青白く変色し、霜が付いていた。


「わっ、大丈夫ソレ。めっちゃ色ヤバイよ。暖めなきゃ。はぁ~」


 凍った右腕にハァ~っと吐息をかけるショーコ。アホだけど根は優しい。


『グゴアアアアアアアア!』


「ってヤベェ! わしぇ~~~!」



「任せろ」


 ――クリスが両腕を交差してタイタスの攻撃を受け止めた。


 足下に衝撃が伝わり、地面に亀裂が入る。

 だが、クリスは両の足でしっかと地に立ち、ショーコ達を守った。


「あ、ありがとクリス……!」


「ブチかましてやるぜっ」


 タイタスの腕を払いのけ、クリスが拳を握りしめる。


 ドワーフの名工ギルタブから譲り受けた、世界最硬の金属アダマント製の黄金の籠手(ガントレット)――平時は手首周りを覆うブレスレット形態だが、戦闘時にはその形を変える。

 まるでロボットアニメの物理法則を無視した変形合体のように音を立てて展開してゆく。手の甲と肘までを金色の装甲が覆う。さらには指の一本一本までを包み込み、両腕の肘から先が金色の装甲で完全武装された。


 指の腹(・・・)は蛇腹構造になっており、グッと握りしめることもできる。

 装甲が互いに干渉しないよう設計されており、全く不自由さを感じない。手首を回すも指をニギニギするも問題なく可能だ。

 一体どういう仕組みなのか。この籠手の製作にも魔法が使われているのかもしれない。


 クリスはタイタスに接近し、懐に入る。

 黄金の装甲を纏った右腕を引き、溜め込んだ力を一気にブッ放す。



「だっしゃあー!」


『ッッッ!――』



 ――凄まじい破壊音。


 タイタスの石作りの身体が、まるで液体窒素で凍らせたところをショットガンで撃ち抜いたかのように爆発四散した。

 石と煉瓦の塊を粉砕する馬鹿力もさることながら、その威力を対象に伝え、かつ自身を保護する頑丈な籠手を装備してこその芸当だ。



「……す、すぎょい……なんちゅうパワー……」


 唖然とするショーコ。

 驚いていたのはクリス本人も同様だった。


「……マジか。こりゃすげーわ。拳に全く反動がこねー……ハハ、あのオッサン、大したモンをよこしてくれたぜ!」


 〈月影の森〉ではゴーレムや霊獣(アンフィスバエナ)のような硬い相手に拳が通用せず苦い思いをしたが、もはやその弱点は心配無用だ。


「な……なんなんだあいつは……」

「ありえない……十人分の魔法陣で生み出した岩石魔獣だぞ」

「……私達なんかの魔法じゃこの程度ってことなの……?」


 タイタスを生み出した魔法使い達が戦慄する。彼らが力を合わせた成果が、たった一人の人間に打ち砕かれたのだ。動揺するのも当然だろう。


「すごいですねクリスさん。馬鹿力だとは思ってましたがこれほどの破壊力とは。今後あなたとは喧嘩しないように気をつけないと」


「ワーッハハハ! もっと褒めるがいい! 見たかクリスちゃんのパワー! 覚悟しろ黒ベタ髪のウジウジ魔法使い! 次はテメーにこの恐るべきパゥワァーをお見舞いしてやるぜ!」


 名指しされるブリス。彼の黒装束の裾をアンナが怯えた様子で掴んだ。


「お、お兄様……」


「……大丈夫だアン。お前は何も心配しなくていい」


 不安がる妹をよそに、ブリスは冷静な態度を変えなかった。


「貴様等はそうやって力ずくで何もかも押し通してきたのだろう。だが、我々はもう黙っていない。報いを受けさせる」


「やれるもんならやってみろ! てめーらのチンケな魔法なんかブチ抜けてやるぜこのクリスちゃんのプゥアゥワァーで!」


「ならば望み通り我が憤怒の炎で――」



「ちょちょちょちょ~~~っと待ったぁ!」


 言い合いする二人の間にショーコが割って入った。


「とりあえず一旦落ち着こっ! クリスも売り言葉に買い言葉で返さないで。なんか誤解されてるっぽいし、ちょっと話し合おう! ねっ!」


「まーたショーコの甘々アマチャンが始まった」


 燃え上がってたとこに冷や水をぶっかけられたクリスは不機嫌そう。


「ブリスさん……だっけ。一体あなた逹は何に怒ってるんですか?」


「……」


「非常にごめんなさいなんだけど、私達があなた達に何をしたのか全然わからないんです。悪いことをしたのなら謝ります。だからなんで怒ってるのか教えてください。理由もわからずただ謝っても意味ないし、お互い納得できないでしょ」


 ブリスは沈黙した。

 アンナをはじめ、他の魔法使い達も口を閉ざす。


 どうやら落ち着いてくれたようだ。話し合いで解決できるかも、と思ったが――


 ――何が気に障ったのか、ブリスの顔が怒りに歪んだ。


「…………それが問題なのだ。誰かを苦しめている自覚が無いことが。自分の価値観を世間に押しつけることで、抑圧される者がいることを考えもしないことが」


「えっ」


 ブリスが手をかざす。彼の頭上に複数の炎が出現した。

 かざした手を翻すと炎が形を変え、矢の形となった。


「もううんざりなんだ」


 無数の炎の矢が地上へ降り注がれる。


「わー! 火に油だったー!」


 フェイが咄嗟にショーコに飛びかかり、矢の直撃を躱した。

 無数の炎の矢が石畳の地面に突き刺さる。ものすごい貫通力だ。


「大丈夫ですかショーコさん」


「……う、うん。ありがとフェイ」


「相手は魔法使いとしてかなりの腕前のようです。魔法で生み出した炎を凝縮させ、任意に形を形成させるのは容易ではありません。才能と努力の賜物でしょう。ですが――」


 先ほど魔法によって凍結しかけていたフェイの右手、そして顔の右半分が矢の熱で溶けていた。敵の攻撃を利用したのだ。フェイは賢いのだ。


「これであの方々の鼻っ柱をへし折ってさしあげられます。さあ、ケツをブッ飛ばしてやりましょう」


「フェイってたまに言動が野蛮になるよね」


 攻撃のつもりが敵に利を与えてしまったことで、ブリスはわずかに口を歪めた。しかし、すぐに冷徹な目で地上のショーコ達を見降ろす。


「フン、それがどうした。貴様等は依然、結界の中だ。我々は“上”を取っている」


 三度(みたび)掌をショーコ達に向ける。赤い魔法陣が浮かび上がる。


「見下ろされる者の思いを知れ。地べたを舐めろ。その思い上がった傲慢な正義感を悔いながら――」



「おっと、そこまでだロン毛の兄ぃーちゃん」


 ――ブリスの言は遮られた。


 背後から喉元に刃を突きつけられたからだ。


 ギザギザした刃の短刀を彼の首に突きつけたのは、共和国評議員のハイゼルンだった。


「その長ったらしい演説を最後まで聞いてから拍手を送ってやろうかと思ったが、あいにく俺は忙しい身でな。お前のくだらねぇ怪文に時間を割くのも惜しいんだ。とにかく、ウチの事務所を燃やしてくれた礼はしねぇとな」

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