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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第四章 Backstreet Side Story
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第四十七話 はみだし者でなにが悪い

「はぁ~~~……」


 ショーコは憂鬱だった。


 彼女は現在、公共交通機関である魔動車内でグスタフとその八人の部下達――ビジネススーツを着込んだ強面の集団――に囲われていた。

 彼らはハイゼルンの派閥の党員達なのだが、端から見れば女子高生に恐そうな大人が群がっている異様な光景だった。周囲からの特異な視線を感じる。


「コラァ! なに見てんだ!」

「見せモンじゃねーぞ! 散れ! 散れ!」


 他の乗客達相手にスゴむ党員達。


「ちょちょちょ! ちょっとちょっと! 何ケンカ売ってるんスか! 勘弁してくださいよハズカシイ」


「だってあのヤローショーコさんのこと珍しいものでも見るみてーにチラチラ見てたんですよ」

「どうします。ヤキ入れますか」


「いや私じゃなくてあんたらを見てたんじゃないの。とにかく人を威嚇しないで、ヤキもいれなくていいから。大人しくしててくださいよ」


「ウッス、承知しやした」

「ショーコさんがそういうなら」


「……なんか不良クラスの担任になった気分だよ」


「浮かない顔だな」


 俯き加減のショーコにグスタフが声をかける。彼なりにショーコを気遣ってくれているのだろう。


「これからやべーギャングのアジトに突撃しようってのにテンション高かったらサイコパスでしょうよ……」


「市民を蝕む違法魔術を止めるためだ」


「私、魔法ってもっとメルヘンチックでロマン溢れるモンだと思ってたよ」


 ショーコも日本で育った女児。幼い頃から魔法少女モノのアニメに触れてきた。

 彼女が一、二才の頃に父親が行方不明となり、以来女手一つで育てられ、愛情を受け幸せに暮らしてはいたが経済的余裕もなかったため、マジカルステッキなどのオモチャ類をあまり買い与えてもらえなかった。その反動もあってか心のどこかで魔法使いにちょびっとだけ憧れを抱いていたのだ。

 そんな彼女からしてみれば魔法という憧れのモノが薬物の如く人々を腐らせているのはとても気が滅入る話だった。


「そもそもお前、“魔法”についてどこまで理解してるんだ?」


「……あんまり?」


 グスタフは小さくため息をついた。


「まあ……“転移者”なら仕方ないか。魔法ってのは本来、魔法使いの血を引く者か魔導師に師事して修行を積んだ者にしか扱えない。だが違法魔術であるシャブは簡単な仕組みの魔法だ。魔法陣さえあれば誰でも詠唱できちまう」


「はー……?」


 口をぽかんと開けたマヌケ面のショーコ

 グスタフが説明を付け足す。


「魔法陣は“魔法が込められた印”だ。例えば、魔法使いがこの床に魔法陣を描いて炎の魔法を溜め込む(・・・・)。あとは魔法使いじゃないヤツでもその魔法陣に触れながら呪文を唱えりゃ溜め込まれてた(・・・・・・・)魔法が発動するんだ」


「あー、飛行艇のエンジンに魔法陣が組み込まれてるってソドじいが言ってたけどそういうことだったのか。完全に理解した。うそ、なんとなくしかわかってないです」


「共和国やローグリンドのような大国なら領土全域に魔法陣を広げて、誰でも公共魔法を利用できるようにしてたりする。魔法便や魔法送なんかがそれだ」


 そういえば〈ローグリンド王国〉でフェイが電子メールみたいな魔法やテレビみたいな魔法を説明してくれていた気がする。

 勉強が苦手なショーコはその時の説明をあんまりちゃんと覚えてなかった。


「十五年前までは生活に魔法を利用するなんて発想はなかったが、今や魔法陣を用いた生活インフラは無くてはならないものになった。ゆえに魔法使いは引く手数多の人気稼業だ。各家庭の火器類も、食料保存庫の温度調節も、魔動車のエンジンだって全部魔法ありきだからな」


 ショーコの世界で例えるなら、魔法陣とは生活に欠かせない電気やガスのようなもの。そして魔法使いとは、電気やガスを生み出せる者……といったところか。


「で、だ。違法魔術のシャブラグは仕組みこそ簡素で三流魔法使いにだって魔法陣を組めちまう。そこでルガーシュタインは職にあぶれてる魔法使いを安く雇って、違法魔術の魔法陣を量産して売りさばいてるってわけだ」


「あぶれてるって……魔法使いは引く手数多の人気職業だって言ったじゃん」


「昔は“血を継がぬ者が魔法使いになるには魔導師の下で十年修行を積まねばらない”という掟があった。だが最近は短い期間の講習で魔法使い免許を交付する事業が流行っててな……短期間学んだだけで資格を得た三流魔法使いがこの国にはウジャウジャいるのさ」


 ショーコは街で見かけた、『一ヶ月であなたも魔法使いに!』と謳った広告を思い出した。短期間で魔法使いになれる養成所だ。


「ゆ、夢無ぇ~……魔法使いって免許制だったんだ……もしかして呪文を噛んだら違反キップ切られるとか?」


「もちろんだ。五年間無失敗だったら金色免許に昇格できる。魔法協会公式ショップで杖とローブとトンガリ帽子が二十パーセント割引になるそうだ」


「魔法使いに夢見る少女達のすすり泣く声が聞こえる」


「で、だ。魔法使い人口が増えたせいで雇われる“枠”はすぐ埋まっちまう。結果、職に就けず余った魔法使いが出てくるってわけだ」


「魔法使いの就職氷河期ってわけか……」


 この異世界での……いや、この街での魔法使いを取り巻く現状はなんとも世知辛いものだった。

 魔法使いになれてもなかなか職に就けず、悪徳業者に雇われるしか無い。違法だとわかっていても他に生きる術が無いのだ。


 もしかしたらこの街で違法魔術が出回っているのも、共和国という社会そのものが原因の一端なのかもしれない。



 ――とある停留所でショーコ達は魔動車を降りた。


 グスタフを先頭に党員達がショーコの周囲をガードするようにゾロゾロと行軍する。

 党員達の歩く姿はお世辞にも行儀の良いものではなく、“肩で風を切って歩く”を地で行くスタイルだ。

 ショーコは小学生の頃に国語の授業で読んだ、群れの中で一匹だけ色が違う魚のお話を思い出していた。


「……あのさ、みなさん政治家の派閥の人なんスよね? なのになんでこう……なんていうか……ガラが悪いんスか?」


 精一杯言葉を選んで尋ねるショーコ。


「俺らは育ちが良くないからな。路地裏育ちの素行不良なロクデナシばかりだ。ハイゼルンは俺らのようなはみ出し者を拾って面倒を見てくれてるんだ。更正させるために仕事も与えてな。まったく、あのオッサンには頭があがらねぇよ」



 五分程歩くと、ルガーシュタインの事務所に辿り着いた。

 外観はハイゼルンの事務所と同じく小綺麗な建物だ。とても中でギャングみたいな連中が違法魔術を精製しているとは思えない。


「……ねえ、外から石で窓ガラス割るとかじゃダメなの? どうしても中に入らなきゃダメ?」


「ダメだ。俺達が事務所に突入する口実が必要なんだからな」


「あうう……」


「作戦をおさらいするぞ。まずショーコ、お前が事務所に乗り込んで中で適当に暴れる。机をひっくり返すなり花瓶を割るなりなんでもいい。そこへ俺達が突入する。お前という不審者を取り押さえるって名目でな」


「人をダシに使いおって……」


「で、だ。お前は適当に逃げ続けてればいい。俺達は捕まえようとする演技をしながらガサ入れするってわけだ」


「追いかけっこしながら証拠探しって無茶じゃないスかね……」


「言っておくが事務所内にはヤツの部下が百人程いる。絶対に捕まるなよ」


「はぇあ!? 百人!? 悪いギャングが百人も!?」


「ルガーシュタイン派閥は過激派だからな。捕まったら無事じゃすまない。違法魔術の証拠を押さえたらとっとととんずらするぞ。いいな」


「ままままま待って待って! 百人相手にこっちは八人ぽっちで乗り込むってこと!? そんなの聞ーてませんでしたが!?」


「戦うつもりはない。証拠をおさえたらすぐトンズラする。ルガーシュタイン派閥は武闘派ばかりで有名だしな」


「だいじょーぶですよショーコさん! 俺らがついてるんで!」

「泥船に乗ったつもりでいてくださいよ!」

「当たって砕けろっす!」


 党員達もショーコを諭そうとするが、言葉のチョイスが的外れだ。異世界では意味が違うのだろうか。


「心配するな。お前のことは必ず守る。奴らに指一本触れさせやしない」


 イケメンに言われたらキュンとくるベタなセリフだがショーコには全然キュンとこなかった。状況が状況だもんね。


「無理無理無理! 百人おってもだいじょーぶなんて言われてハイそうですかと納得できますかいな! あたしゃ実家に帰らせていただきます!」


「ここまで来てゴネるんじゃねぇ。男なら腹ァ決めろ」


「年中無休二十四時間体制で女の子やらせてもらってますよ!」


 ルガーシュタイン評議員の事務所前でモメにモメるショーコ達。

 血生臭い界隈で生きてきたグスタフ達と違い、一般ピーポーでビビリなショーコにとって覚悟をキメるのはそう簡単なことではないのだ。


「とにかく土壇場で投げ出すんじゃねぇ。お前がやらなきゃ誰が――」


 ――そこでグスタフが口を止めた。

 ルガーシュタインの事務所の正面扉がブチ壊されているのが目に入ったからだ。


「……?」



 ――事務所内は惨劇と化していた。


 何十人もの強面の男性がそこら中に転がっていた。掠れた呻き声があちこちから聞こえてくる。

 ルガーシュタイン派閥の党員達が、何者かによって全滅させられていたのだ。


「なんだこりゃ……ひでぇ有様だ」

「こいつらは素人じゃねぇ。腕に覚えのあるヤツばかりだってのに」

「それをこれだけの数ブチのめすなんて、やったやつはタダモンじゃねぇぞ」


「飲み会でもやってたのかな」


 ショーコが冗談を言うが誰もクスリともしなかった。


「……まさか、共和国評議員を襲うような輩がいるってのか。一体どこのバカがこんなことを……」


 グスタフが足早に階段へ向かい、二階へと上がる。

 ショーコも急ぎ足で後を追う。


「っ……!」


 奥の部屋の惨状を目にし、戦慄するグスタフ。

 その後から顔を出すショーコ。



「あ!」



「あ」


「あ?」


「あっ」



 そこには、共和国評議員であるルガーシュタインをボコボコにしているフェイ、クリス、マイの姿があった。

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