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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第四章 Backstreet Side Story
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第四十四話 存在の証明

 政府本庁行きの魔動車に乗るためターミナルに向かう四人。ショーコの世界で例えるなら都市部の大型駅だ。

 ちなみに、路上のレールを走る〈ローグリンド王国〉の物と違い、共和国の魔動車はレール無しで運行できる型らしい。


 (ターミナル)に着くと、手前の広場でなにやら人だかりが出来ていた。

 人々の目線の先には数人の男女が高台の上に立っており、群衆に向けて何かを訴えかけている。


「市民の皆さん! あなた達の暮らしは本当に平和だと言えるのでしょうか! 共和国は本当に我々の安全を守っていると言えるのでしょうか!」


 ショーコは思わず足を止めた。

「なんじゃアレ?」

「市民が政府への不満を爆発させているようですね」


 高台の男が群衆に向けて吹聴する。


「過去十年、共和国では十一人もが行方不明になっているのをご存知ですか! 一年に一人以上の割合です! 彼らはどこに消えたのか! 答えは明白! 魔物にさらわれたのです!」


「……!」


 男の訴えがショーコの耳に引っかかった。


「西の離れ山に魔族の生き残りが出没するとの目撃証言もあります! だが政府はその存在を否定している! これは由々しきことです!」


 群衆はザワつき、動揺していた。

 どうやら街の人々は先程上空を飛んでいたドラゴンの存在は認知していないが、それとは別に魔物の驚異を感じているらしい。


「そこのお嬢さん! あなたです! あなた!」


 高台の男がショーコを指さした。


「へっ? あ、あたすですかい……?」


「そうです! どうぞこちらへ! さあ恥ずかしがらずに!」


 周囲の目線がショーコに注がれる。この流れで拒むことは彼女には出来ない。

 促されるがまま人だかりの中を進み、気恥ずかしそうに高台に上がる。

 男に手招きされ、ペコペコ頭を下げながら彼の隣に並び立った。


「お嬢さん、あなたは魔物の生き残りが未だ野放しになっている現状をどう思いますか?」


「……えっと……怖いと思います」


「そうです! それが当前の意見です!」


 群衆が「おお~~~っ!」と歓声を上げた。


「魔物を見て見ぬフリする共和国政府についてどう思います?」


「えっ……と……なんとかしてほしいです」


「そう! その通り!」


 またも群衆が「おおーーーっ!」と歓声を上げる。こういうのを扇動というのだろうか。


「明日にも今日にも、魔物に攫われるのはあなたの友人かもしれません! 家族かもしれません! あなた自身かもしれません! こんな現状を許していいのですか!」


   「そうだそうだ!」

 「魔族を一掃すべきだ!」

     「国は我々を守れー!」


 群衆のボルテージが高まる。噴火寸前といった空気だ。

 魔族への恐怖心、平穏な暮らしが脅かされているという不安が人々の冷静さを失わせ、暴徒と化す寸前にまで追い込んでいるのだ。



「君達、市民の恐怖を煽るような行為はやめてもらおうか」


 熱気に水を差すような一言。一同が振り向く。


 声の主はジャケットスーツ姿のナイスミドルだった。

 彼こそ、共和国評議会議員の一人、ベネディクト・ガルシア。この地区一帯を纏めている政治家だ。

 その傍らには共和国の治安を守る衛兵部隊がズラリと並んでいる。


 国を率いる政治家が現れたことを吉と見たのか、扇動集団の男は口角を上げた。


「ちょうどいい! ベネディクト評議員、市民が魔族にさらわれている件について評議会の意見をお聞かせ願いたい!」


 わざと煽るような言い方だったが、ベネディクト評議員は顔色一つ変えず、冷静だった。


「市民が魔物に攫われたなどという事実は無い。でっちあげだ」


 「じゃあ彼らはどこに消えたと言うのですか!」

    「目撃証言だってあるんだぞ!」

  「真実を公表しろ!」


 群衆も口々に声を張る。あちこちで罵詈雑言も聞こえる。

 それでも評議員の態度は冷めたものだった。


「付近に魔物がいるのなら政府は全力で対応するとも。だが君達の言っていることは想像にすぎん。これ以上市民の不安を煽り、混乱を招くつもりなら全員この場でしょっ引いてもいいんだぞ」


 その一言を合図に、衛兵達が暴徒鎮圧用の模擬槍を構える。

 その行動は却って群衆を焚きつけた。

 一触即発の空気が辺りを包む。


 ――もはやキッカケなど些細なことで十分だった。


 群衆の一人が衛兵の肩をドンと押したのを皮切りに、両陣営が激突した。


  「なんだ貴様らぁ!」

    「やんのかコラァー!」

 「市民をナメるな! この犬野郎!」


 何十人もが入り乱れる大乱闘にもつれ込む。

 怒りと暴力の渦が大きくうねりだす。

 大の大人同士が取っ組み合い、髪をわしづかみ、殴りあう混沌の事態となった。


「わ、わっ、わ!」


「ショーコさん、こっちです」



 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「あー怖かった……もみくちゃのミンチにされるとこだったよ」


 パニックと化した駅前広場から脱し、政府本庁行の魔動車の中で胸を撫でおろすショーコ。

 社内はまるっきりショーコの世界の電車とそっくりで、フェイと窓際の席に並んで座り、クリスとマイが立って乗車している形だ。


「人ってのは臆病だからな。魔族の最後の一体がいなくなるまで安心出来ないだろーさ」


「行方不明の方々は本当に魔物に攫われたのでしょうか」


「可能性は低い。真相はどうあれ、行き場の無い怒りを政府にぶつけるしかないんだろう」


「でも本当に魔物の仕業かもしれないよ。あの人達が言ってたように共和国は近くに魔族がいるのわかってて隠してるんじゃないのかな」


「……お前はどう思うショーコ。もし魔物の生き残りがいるとしたらどうするべきか」


「わかんないけど、安心はできないなあ。おっかなくてぐっすり眠れないよ」


「……そうか」



 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 政府本庁前駅にて、四人は降車した。


 元魔王城――四方を塔が囲み、中央には一際背の高い建造物が堂々と屹立していた。

 外壁は真っ白に塗装されており、魔王の根城だった印象を強引に塗りつぶしたようにも感じられる。


 正面玄関の巨大な門は開きっぱなしだった。ショーコは「虫とか入ってくんじゃねーのかな」と思ったがどうやら結界が張られているらしく、虫や鳥などの侵入を拒むだけでなく建物内の温度を快適に保っているようだ。


 マイを先頭に広いエントランスを進む。ショーコ達の他にも訪問している市民が複数確認できた。

 壁際には軽装の鎧を着込んだ衛兵が立っている。警備員のようなものだろう。


「神聖ヴァハデミア共和国政府本庁へようこそ。ご用件をお伺いします。いかがなさいましたか?」


 受付窓口の女性がハツラツに出迎えてくれた。

 ここはマイの出番だ。ショーコ達は傍観する。


「“転移者”に会いたい。すまんが呼んできてくれないか」


「はい。えーっと……事前申請された方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 受付の女性が指を回すと宙に文面が出現した。魔法によるディスプレイらしい。そこには来客予定一覧が表示されている。


「申請はしていない。私だと言えばわかると思うんだが」


「えっ……と……そうですね……」


 受付の女性がリストをスライドさせる。こういった時のマニュアルを探しているのだろう。


「マイだ。マイ・ウエストウッド。“最初の転移者”の連れ合いだ」


「……何か身分を証明できるものはありますか?」


「いや、ない」


「えっ」


「え?」


「……えっとぉ……身分証明が出来ないとお通しするわけにはいきませんので……」


「えっ」


「えっ?」


「ダメなのか?」


「まあ……はい、申し訳ありませんが」


「……いや、待ってくれ。私だと言えば大丈夫なはずだ。マイ・ウエストウッドが会いたがってると伝えてくれ」


「すみませんがそういうわけには……」


 あれ? なんか雲行きが怪しくなってきた。

 クリスが不信そうな目でマイを見つめる。


「……マ~イ~?」


「い、いやいやいや! アイツらを呼んでくれ! アリアはいないのか? レオナでもいい! とにかく私だとわかれば――」


 壁際の警備兵達がざわつき始める。通話魔法で連絡を取り合いながら少しずつこちらに近づいてくる。

 さすがのショーコもなんかヤバイかもって察した。


「ちょいとマイさんや、なんだかよろしくない空気になってきやしたぞ」


「待ってくれ。私はマイ・ウエストウッドだ。聞いたことないか? これでも一応世界を救った一人なんだが。えっ、ホントに知らない?」


「何か問題でも?」


 警備兵の一人が背後からマイに話しかけた。

 マズイと思ったのか、マイに代わってクリスが割って入った。


「いやぁ~~~なんでもないなんでもない。ちょっと行き違いがあっただけだよ。なあ受付のおねーさん? 問題なんてないよな?」


 が、警備兵はクリスを見て首を傾げた。


「ん……? 君、どこかで見たことあるような……」


「へ?」


「あっ! お前は二年前、ローグリンドに視察に行った評議員をブン殴ったヤツ! たしか名前はクリス・ピッドブラッド!」


「……」



 ――クリスは走り出した。


「逃げろッ! みんな逃げろ逃げろ! 逃げろーーーっ!」


「へっ? えっ!? えええええーーーっ!?」


 警備兵をかき分けて駆け抜けるクリスに戸惑いながらも、ショーコも慌てて走り出す。


「コラッ! お前達! 逃げるなー!」


 四人はとんずらした。必死にとんずらした。とにかくひたすらとんずらするしかなかった。

 彼女達にはもはや恥も外聞もないのだった。



 ――……


「あービックリした。まさかこんなトコまでクリスちゃんの顔が知れてるとは。有名人はツライぜ」


「もう、クリスさんのせいですよ」


「ところで、どんな気分だいマイさんよ? 得意げに顔パスキメようとして門前払いくらった気分は」


「だいぶちょっと落ち込む」


「しかし困りましたね。ここまで来て“最初の転移者”様に会えないなんて」


「よし、んなら裏から忍び込もう」


「まーたクリスさんが無茶なこと言い出しました」


「マイだって悔しいだろ? 世界を救った英雄殿があんな扱い受けたんだ。ギャフンと言わせてやろーぜ」


「ちょっと待ってくれ。まだ気持ち持ち直せてない」


「めっちゃへこんでるなー」


「忍び込むなんて反対です。ショーコさんはどう思いますか?」


 ……


「……あれ?」


 ……



「……あの、皆さん、ショーコさんはどこですか?」

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