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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第四章 Backstreet Side Story
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第四十三話 神聖ヴァハデミア共和国

 ショーコは絶句した。

 文字通り言葉が出なかった。


 首から尻尾まで――この世界で大きさを示す正確な単位はわからないが――百メートル以上はあり、翼は太陽を隠すほど。分厚い四肢は飛行艇を握り潰さんほど大きい。


 紅い瞳がギョロリとこちらを向く。

 ショーコとドラゴンの目と目が合う。


「っ…………ぁ……ぁぁ……」


 強大すぎる存在を目の当たりにし、ショーコは腰が抜けてへたりこむ。


「取り舵! 距離を取れ!」


 マイの指示に従い、フェイが操縦桿を傾ける。


『……』


 大慌ての飛行艇内とは対照的に、ドラゴンはまるで足下を這う蟻を見るかのように(ふね)を見つめる。

 が、すぐに視線を外し、何事もなかったかのようにそのまま飛び去って行った。



「……なんとか事なきを得ましたね」


 事の顛末は、アドリヴァーレ号が飛行していたところを後方からドラゴンが追い抜いていった形だ。

 幸いにも接触せずに済んだものの、風圧であれだけの衝撃。ぶつかっていたなら甚大な被害が出ていただろう。


 魔族の中でも最強の種、“ドラゴン”……人類など足下にも及ばない強大無比な生物。地震や台風と同じく、人間にはどうすることもできない災害のようなもの。

 “最初の転移者”の一行ですら相手にするのは避ける、恐るべき存在だ。

 もし相手がやる気(・・・)だったなら、どうなっていたことか……


「さすがに驚きましたね。まだあれほど大きな飛竜が生き残っていたとは」


「あんなデケェの、国の一つや二つ易々と灰にできるぞ。無視されてラッキーだったぜ……」


「……大丈夫か? ショーコ。立てるか?」


 マイが手を差し伸べるも、ショーコは力無くへたり込んだままだった。

 唇は小刻みに震え、顔は青ざめている。

 無理もない。小さな蟻が巨大なゾウに踏みつぶされる寸前だったのだ。気絶しなかっただけ大したもの。


 だが……この恐怖体験は彼女の“この世界を好きになってきた”という淡い気持ちを粉々に粉砕したのだった。



「うわあァ~~~ん! やっぱり元の世界に帰る~~~! こんな世界もうイヤだぁ~~~!」



 ――……


 近くの湖に飛行艇を停泊させ、四人は共和国首都オズへと足を踏み入れた。


 共和国は“最初の転移者”が中心となって建国したというが、その首都だけあってショーコの世界の建築や文化に倣っている部分が多いようだ。

 四角いビルや建物がいくつも建ち並ぶ、どこか昔の……二十世紀初頭のニューヨークを思わせる街並み。ショーコからすれば約百年前の世界観だ。


 多種多様な人々が行き交うせわしない都市。肌の色も目の色も様々。人間だけでなく獣人もドワーフもエルフも、あらゆる種族が混在している。


 バラエティに富んでいるのは住人だけではない。軒を連ねる建物も千差万別だ。

 食べ物屋に服屋に武器屋に魔道具屋……会社や銀行まで。一階が傭兵案内所で二階が保険屋のテナントなんてビルも。

 『一ヶ月であなたも魔法使いに!』と広告を打つ短期魔導教室なるものまである。


 共和国の首都は、ファンタジー異世界と二十世紀の地球がゴチャゴチャに混ざり合ったような不思議で奇妙でキテレツな街並みだった。



「はやくはやく! さっさと“最初の転移者”んトコ連れてって! 一刻一秒でもこのデンジャラスワールドからオサラババイバイしなくっちゃ!」


 まるで遊園地に来た子供が親をアトラクションへ急かすように催促するショーコ。だがその心理はワクワクではなくコワゴワだ。


「よー、その前に腹ごしらえしよーぜ。腹減って仕方ねーよ」


「食っとる場合かーっ! むしろわしらがオオトカゲに食われる心配せーい!」


「落ち着けショーコ。そう慌てる必要はない」


「なしてそげなこと言えるべさ! ドラゴンと言やー火ぃー吹くのが相場ってもんよ! この街もすぐにでも火の海にされちゃうっぺな!」


 パニック気味にハチャメチャな物言いになるショーコを、マイは冷静に諭そうとする。


「あのドラゴンがその気ならとっくにやっているハズだ。むしろあれは地上の共和国から目を逸らしている様子だった。害意は無いと見ていい。それにもし共和国を襲ってきたら、私の仲間……“最初の転移者”達が黙ってるわけないからな。ここはある意味どこよりも安全だよ」


「っ……でもでもっ!」


「街の方々は全く騒いでいませんね」


 フェイが周囲を見て言う。誰もがせわしなく歩き回ってはいるが、上空をドラゴンが飛行していなことなど知る由もないといった様子だ。


「恐らくドラゴン自身が認識阻害の魔法をかけていたのだろう。地上からは存在を認知できないが、同じ高度を飛行していた我々だけが気付いたというところだな」


「あ、アッチに食堂があるぜ。とりあえずなんか食べよーぜ! ホレ、ショーコも。なっ」


「……う~……」


 クリスに肩を抱かれ、ショーコは半ば無理矢理食堂へと連れ込まれた。



 四人が入店したのは金属板の外装が特徴的なレストラン。ショーコがこれまで見てきた異世界食堂とは外見も内装もまるで違った。

 店内には横に広く長いカウンターが構えられており、複数の丸椅子が設けられている。窓際にはテーブル席もあるが混雑する時間帯なのか全て埋まっている。

 天井では換気用のプロペラが回り続け、店内には音楽が――おそらく魔法によって――BGMとして流れている。


 ショーコはアメリカの古い時代を描いた映画やドラマによく出てくる“ダイナー”を思い起こした。


「ご注文は?」


 四人がカウンター席に座ると同時に店員が尋ねる。口ひげを生やしたちょっと強面のオッサンだ。


「オススメがあれば四人分頂けますか?」


「あいよ」

 店員が店の奥に引っ込んだ。


「お待ち」

 出てきた。


「早っ」

 ショーコは思ったことすぐ言っちゃうタイプ。


「共和国の忙しい人達には早く出てきてすぐに食べ終われるお店が需要あるそうですよ」


 出された料理はおよそファンタジー異世界には似つかわしくないものだった。

 平なパンの上にレタスを敷き、分厚いベーコン――あまりに分厚いので肉塊と呼ぶべきかもしれない――を数枚重ね、チーズを二枚分被せた上に甘辛いソースをたっぷりかけ、最後にパンで蓋をするように挟んだ料理。

 ショーコの世界で言うハンバーガーをより雑把(ざっぱ)にしたようなものだ。


「異世界でこんなジャンクフード出されるなんて思いもしなかったよ」


 これも“最初の転移者”の影響なのだろうかと思いながら、ショーコは共和国バーガーにかぶりつく。

 脂の荒波が口内に広がった。肉汁が溢れ、皿にポタポタとしたたる。濃いめのソースをレタスがいい具合に中和し、チーズが舌の上で踊る。口の中が幸福感と背徳感で満たされた。


「う、うまいっ! コレステロールのバミューダトライアングルや~~~!」


 あまりのハイカロリーに思わずわけわかんないことを叫ぶショーコ。異世界肉の味か、異世界チーズと異世界ソースの味か、とにかく脂っこくもジャンキーな美味さだった。


「たしかに美味いな。オヤジ、同じのあと三つくれ」


「私も二つ追加してください。あ、ついでにトマト挟んでもらえます? 目玉焼きなんかも挟んじゃったりして。チーズとベーコンも倍にしてください」


「胃袋が部活終わりの中学生だね君達!」


 クリスとフェイのフードファイターっぷりにショーコは戦慄するほかなかった。


「あ、私はオレンジジュースをくれ」


「マイさんは舌が幼稚園児だね!」


 フェイ達の追加分もすぐさま提供された。美味い早いカロリー高いの三拍子揃った店と言える。


「しかしまあ異世界の大都市でファストフードがハバ利かせてるってのもミョーな話だよね。っていうか街並みもお店も食べ物も私の世界にそっくりなんだけど、やっぱり“最初の転移者”が建国したからなのかな?」


「そういうことだ。魔王が倒された後、“最初の転移者”が中心となって西ヴォーガ大陸に存在した全ての国々……二十六の国家を〈神聖ヴァハデミア共和国〉として編成したんだ」


「大陸の色んな国が一つにまとまったのが共和国なんだね。ってことは“最初の転移者”が共和国の王様ってこと?」


「いや、共和国は民主主義だ。選挙で選ばれた五十二人の評議員が行政を司っている。“最初の転移者”を含む私の仲間達も評議員の一員だ」


「はえ~、よくわかんないけどまあいいや」


 ショーコには政治はわからぬ。だが難しそうな話をスルーすべきかどうか判断する能力は人一倍敏感であった。

 アホは置いといて、クリスがマイに一つの疑問を提唱する。


「じゃーよ、本当はマイも共和国でヒョーギイーンやってるハズじゃないのか? なんでアタシらと一緒にズッコケ道中やってんの?」


「共和国の創設には関わったが……政治は苦手でな。そういう難しいことはアイツらに任せて、私は離れたんだ」


「なるほどな。わかるよ。アタシもむつかしー話はニガテだからな。悪い奴殴って金もらって飯食うだけで精一杯だよな」


「私も社会科の成績良くなかったからわかるよ。国語も数学も理科も良くなかったけど」


 クリスとショーコはアホなのだ。


「つまり、“最初の転移者”をはじめとしたマイさんの仲間の方々、そして選挙で選ばれた方々が“評議会”として共和国を運営しているということですね」


「そうだ。そしてこれから政府本庁に行く。ショーコ、思い残すことはないか?」


「へ? なんで? なにその修学旅行の最終日みたいな質問」


「“最初の転移者”は共和国政府本庁に居る。ヤツに会って元の世界に帰る……それがこの旅の目的だろう。つまり……この世界ともお別れというわけだ」


「……!」


 ついさっきまで早く元の世界に帰りた~いと嘆いていたのに、美味しいモノ食べたら忘れてしまっていたらしい。

 そう、ショーコはアホなのだ。

 ある意味幸せ者とも言えるが。



 四人は共和国バーガーを平らげると店を後にし、最後の目的地へ向かう。


 ――“最初の転移者”が待つ、共和国政府本庁へ。

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