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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第三章 Tales of a life
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第三十七話 少女よ、剣をとれ

「あ、あのバケモノを倒せって……あ、あたすがですかい!?」


 ショーコは耳を疑った。いや、状況を見れば当然の流れとも言える。

 四人中三人が窮地に立たされ、一人だけ無傷。戦いに参加すらしていない。仲間なら一緒に戦うべきだ。

 そんなことはわかっている。わかっているが彼女は何の能力も持たない平凡な女子高生。巨大な岩と花の化け物を相手に戦えと言われても無茶な話だ。


「わたしはぜんしんにどくがまわってからだがうごかない。しゃべるのもくろうするくらいだ」


 時々口調がおかしくなるのも毒によるものか。マイほどの強者がこうまでなるのだからよほど強力な毒なのだろう。


「頼れるのはお前だけだショーコ。立ち上がれ。剣を取れ。お前ならやれる……私は信じている」


「っ……!」


「待ちなっ……ショーコの出る幕なんざねーぜ。いづっ……アタシがあのバケモンをブチのめしてやるからよ」


 激痛による苦悶の表情を浮かべながらもクリスは啖呵を切る。


「クリスさんの言う通りです。ショーコさんの手を煩わせるまでもありません。私はまだ戦えます」


 フェイも同様だ。全身打撲で身体中が痛むはずだが、戦意は健在だった。


 霊獣の眼前に立ち、合気道の構えを取るフェイ。


「私がお相手いたします」


 ショーコは見落としていなかった。フェイが足を引きずっていることを。彼女の表情が痛みに歪むのを。


 クリスに目を向ける――砕けた右拳を抑えながら痛みを噛み殺している。


 マイに目を向ける――毒が全身に回り、伏したまま立ち上がれないでいる。


 ……ショーコはゴクリと喉を鳴らした。


 そして――



「…………わあああぁぁぁ~~~っ!」


 ――走り出した。


「!? ショーコさん……!」


「だああああああーーー!」


 雄叫びを上げながら、手放されたマイの刀に向かって全力で走る。


 だが霊獣も黙って見ているわけではない。


 アンフィスバエナは短い両脚で大きく跳躍し、まるで空から落ちてきたかのようにショーコの目の前に着地した。

 その衝撃でショーコは思わず体勢を崩して転びそうになった。


『グギエヤアアアアアアアアアアア!』


 分厚い岩の拳がショーコめがけて振り下ろされる。


「どひえええーーー!?」


「危ないっ!」


 ――ペシャンコにされる間一髪のところでフェイが頭から飛び込んで救出した。


「っ……おケガはありませんか」


「あ、ありが――」


 ショーコが礼を言う暇もなく、花の霊獣の蔓がフェイめがけて伸びる。


「っ……!」


「任せろ!」


 クリスが間に割って入った。

 身体を斜に構えて、フェイを捕らえようと延ばされた蔦を自身の左腕に巻き付かせた。

 右の拳は砕けても、彼女の闘志と馬鹿力は砕けていなかった。


「どっせえええぇぇぇええい!」


 巻き付かせた蔓を引っ張り、アンフィスバエナの巨体を丸ごとブン投げてみせる。


『ゴガァッ……!』


 霊獣の巨体が地面に叩きつけられ、轟音と凄まじい衝撃が周囲の地面を大きく揺らした。



「うっ、うおあああああーーーっ!」


 相手がダウンしている今がチャンス。ここぞとばかりにショーコは再び走り出す。


 地面に放置された刀までの距離を計算し、走る勢いのままヘッドスライディングで飛びつく――が、目測を誤り飛距離が足りなかった。

 ものすごくカッコ悪かったがショーコは這いつくばりながら前進し、ついに刀の柄を掴んだ。


「とっ、とったど~~~!」


 刀を掲げるショーコ。

 刃が炎で包まれているにも関わらず不思議と熱さは全く感じなかった。魔法製の炎だからか刀の持つ者には影響を及ぼさないのだろう。


 この炎の魔刃剣こそが霊獣を討つ鍵となる――はずだったが……


『シェアッ!』


 ――霊獣が伸ばした蔦が刀を掲げるショーコの足首を捕らえた。


「あっ」


 両足をまとめてからめ取られ、引っ張り上げられ、恐ろしい霊獣のもとへと引っぱり寄せられていく。


「どしえええ~~~~~っ!」


「ショーコさん!」


 ショーコを逆さ吊りにし、アンフィスバエナは花弁の殻を開き、あざ笑うかのように顔前で宙ぶらりんにした。


 フェイとクリスが救出に向かう。しかし、花の霊獣が無数の花びらを巻き、刃の雨として放つ。

 恐るべき切れ味のカッター攻撃を受け、フェイとクリスは防御一辺倒。その場で足止めを食い、ショーコのもとへ向かえない。


「ぐっ……くそっ!」



『……貴様ノヨウナ弱虫ガ“転移者”トハ、オ笑イ草ダナ。所詮ハ人間……身ノ程ヲ知レ』


 両足を縛って逆さまに吊し上げたショーコを頭上に持ち上げ、霊獣が大口を開けて待ち構える。

 まるでさくらんぼを食らうかの如く、アンフィスバエナは彼女を丸ごと飲み込む気だ。


「う、うそ!? うそうそうそ! もしかして私を食べちゃうつもり!? やめて! 絶対後悔するから! 胃袋の中から噛みつくからね!」


 花弁の中に隠された凶悪な顔の、大きく裂かれたような口が目一杯開く。

 それは人間一人を丸飲みにするには十分すぎるほど大きな口だった。


「ギャー! ダメダメダメ! 絶対お腹壊すよ!? 喉に詰まるから! とにかくやめてえぇー!」


『グバァアアアア……!』


「わあーーーーー!」



 ――その時だった。


 ショーコはパニックになるあまり、握っていた炎の刀を手放してしまった。



「あっ」


『エッ』



 その剣先はアンフィスバエナの額にサクっと突き刺さった。


『何ィ!? ウギャアアアアアアアアア!』


 瞬く間に炎が燃え広がる。


 花の霊獣――上部の身体――は植物なので当然だが、のたうち回るあまり炎が飛び火し、岩の霊獣――下部の身体――に伸びた蔓にも引火。その炎は全身にまで及んだ。


『キイイィィィコエエエエエエエエエ!』


 叫び声を上げながら業火に悶える霊獣。捕えられていたショーコが放り投げられた。

 フェイにキャッチされて事なきを得たショーコは、目の前で火だるまになる霊獣を呆然と眺めることしかできなかった。


『グ……ズ……ギャアアアアアァァァァァァァム!』


 断末魔の叫びと共に、花の霊獣は灰になり、岩の霊獣は地に崩れ落ちた。


 フェイもクリスも、勿論ショーコも、目の前の惨状にただただ目を丸くするだけだった。


 霊獣を焼き尽くす炎は徐々に小さくなっていき――鎮火した。


 残ったのは灰の山と焼け焦げた石コロだけだった。



「……か……勝っちゃった……のかな?」


 呆然とするショーコ。


 ポカンとしたまま現実を飲み込めないでいると、フェイが諸手を挙げて絶賛した。


「さっすがショーコさん! 敵に近づくためにあえて捕まったのですね! 見事な作戦勝ち! いよっ! 大英雄! 無敵の“転移者”っ!」


 やることなすこと全部肯定する、フェイは生粋のショーコフォロワーだ。


「あ、あははは……まあね。私ってば“転移者”ですからね。ちょっとビビったけど楽勝だったッスね~。あははは……はは……」


 強がるショーコ。これまでの人生で一番危険な目にあったがゆえか、まだちょっと冷静になれない。強がる声も震えていた。


 それを察したのか、クリスはショーコの頭に左手を置いて髪をわしゃわしゃした。


「がんばったな。まっ、根性は認めてやるよ。お疲れちゃん」


「お、おお……クリスが褒めてくれるなんて……でへへ、なんかテレちゃうな」


 ショーコの身体の震えが止まった。クリスになだめられてようやく安堵を実感したようだ。


 三人が勝利の余韻に浸っているのを横目に、マイは霊獣の焼け跡の地面に突き刺さっている刀を抜き、一度振るってから鞘に収めた。

 小さく笑ってから、マイはショーコの肩に手を置く。 


「ショーコ、よくやったな」


「あ、うん。ありが……」


 ん……? マイは立ち上がることもできないほど毒に蝕まれていたはずでは……


「マイさんもう平気なの? 身体が動かなかったんじゃ……」


「あれは嘘だ」


「えっ」


 えっ。


「お前がどれほどのものか試させてもらったんだ。わざと刀を手放して、お前を焚きつけたというわけだ。すまなかったな」


 本来アンフィスバエナの毒は、屈強な戦史であろうと服の上から浴びただけで立ち上がれなくなるくらい強力なのだが、マイは平気だったらしい。人間として強すぎる。

 彼女はショーコの勇気を試すため、霊獣の毒を浴びた際ここぞとばかりに棒演技を開始したのだった。


「ギリギリまで助けに行くかどうかずっと葛藤していたが、結果的に大成功というわけだ。だが私の毒に苦しむ演技もなかなかのものだったろう?」


「…………こ……こっ……このやどーっ!」


 ショーコはマイに飛びかかった。


「わっ」


「人がどんな思いしたと思ってんだー! この大根役者がー! コンニャロコンニャロ!」


 ショーコはマイにかぶりつきながら彼女の頭をポカポカ叩いた。


「すまんすまん」


 軽々しく謝りながらもマイの表情は和やかなものだった。



「なあフェイ、アタシら頑張り損だっておもわねーか?」


「ですね。マイさんには後で何か奢ってもらいましょう」

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