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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第三章 Tales of a life
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第三十三話 異世界スペシャル! 未舟ショーコ探検隊

「そ、それってもしや……精霊契約イベント!?」


 ショーコはちょっとワクワクしていた。RPGでもよくあるやつ、召喚魔法で精霊を呼べるようになったりする重要イベントだ。


「“精霊”は自然の化身。我々は古来より自然と共に生き、自然の恩恵を受けて暮らしてきた。この森で作物が育つのも井戸の水が汲めるのも全て“風の精霊”のおかげだ。だが数年前からどういうわけか風が止み、水は少しずつ清らかさを失い、作物の育ちが悪くなってきた。今はまだ持ちこたえているが……いずれまずいことになる」


 どうやら“風の精霊”と呼ばれてはいるが、風だけでなくこの地域一帯の全ての自然を司っているらしい。


「里の奥地……〈月影の森〉に行き、“風の精霊”と話をつけてほしい。我々に大地の恵みを与えてほしいと。昔のように……」


「でもそれって長老さんが行った方がいいんじゃないスか?」


 レグルスは不甲斐なさそうに視線を下げた。


「……何度も会いに行った。だが“風の精霊”は姿すら見せてくれない。昔はよく言葉を交わしたものだがな……」


「なんか嫌われるようなことでもしたんじゃねーの」


「だが君なら……“新たな転移者”ならば精霊も顔を出すかもしれない。一縷の望みに賭けたいのだ。もし“風の精霊”と話をつけることができたなら、君達の頼みにも応えよう」


 ショーコ達は顔を見合わせる。「どうする?」ってな具合で。

 クリスがレグルスに二、三質問を投げる。


「なあオッサン、作物の育ちが悪くて困ってるんだな?」

「ああ」


「で、精霊と話したいけど相手にされないと」

「そうだ」


「ショーコが精霊と話をつけたらアンタは感謝するか?」

「もちろん」


「よっしゃ、引き受けた」

 クリスは負けず嫌いな性格なのだ。


「まあ……話すだけでいいんなら……」


「よかった。引き受けてくれるか」


 精霊と会うくらいなら危険はないだろうし、二百億という途方もない金額をかき集めるよりもずっと現実的だろう。いや精霊どうこうが現実的っていうのもおかしな話だが、このファタジー異世界では現実なのだ。


 話がまとまり、フェイが椅子から腰を上げる。


「では早速行きましょう。精霊がおられる〈月影の森〉へ――」


「待て」


 意気込むフェイに待ったをかけたのは、他でもない彼女の父――ラカンだった。


「まだ話は終わっていないぞフェイ。カレルレンが必要としているのは“転移者”のその子だ。お前はここに残って、俺と母さんと三人で、お前のこれからの人生について話し合うんだ」


「お父さん……」


 ショーコは見逃さなかった。フェイが苦しそうな表情を浮かべたのを。


 少しの間目を伏せた後、フェイは何かを決意したように父の目を真っ直ぐ見つめた。


「……話し合うことなどありません。私は……お父さんの言う通りの生き方は望みません」


「……フェイ」


「お父さんがなんと言おうと……私はショーコさん達と旅を続けます。まだ外の世界でやるべきことがあるんです。だから……」


 そこでフェイは言葉に詰まった。

 親を傷つけたくないという思いから、これ以上言葉を紡ぐのをためらっているのだ。


 娘が言葉を選んでいる様子を見かね、父が先に折れる。


「…………もういい、わかった……やりたいようにやればいい」


 ラカンは諦めたようにうなだれた。

 ソフィアも同様に俯く。


「……お父さん」


 娘の呼びかけに、父は何も返さない。


「…………里長、行きましょう」


「いいのか?」


「……はい」


 フェイは後ろ髪を引かれる思いのまま、実家を後にした。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 「フェイ、帰ったって聞いたが本当だったんだな! ウチの店で茶ーでも飲んでったらどうだい?」


  「聞いたよフェイ。せっかく戻ったのにすぐ出ていくらしいね。今度は……ちゃんと帰ってくるのはいつになるの?」


「また出てくって本当かい? 村に残ってくれよ。人手が要るんだ」


   「お前ん家貯金二百億あるんだってな! 今度メシ奢ってくれな!」



 ショーコ達が里を歩いているだけで、住民のエルフ達が続々と話しかけてきた。エルフの集落では横の繋がりが強いらしい。


「……やっぱこの村なんかミョーだぜ。情報があっという間に広まってる。それにどいつもこいつもフェイをこの村に留めようとしてる感じだ」


 クリスがつぶやく。どこからそんな話が出回ったのかわからないことまで知れ渡っていて少し不気味だ。


「フェンゼルシアが里を出て以降、それに倣って外の世界へ出ていく者は少なくない。人口の減少は里の死活問題だ。エルフは他の種族に比べて子供が生まれづらい……一人でも貴重なんだ。それと、こういう田舎では噂はすぐに広まるものなのだ」


「あーそうかよ。でもお前にゃ訊いてねーんだよバカ」


「嫌われたものだな。ちなみに今の情報料として二百ゼンもらうぞ」


「ンなッ!? う、ウソだろ!?」


「嘘だ」


「……っ~~~! ぶっ! ぶっ! ブッころ――」


「わー! おさえてクリスおさえてー!」



 ――レグルスに連れられ、ショーコ達は里の奥の森林のさらに奥地……〈月影の森〉の入り口に辿り着いた。

 何百も年季がこもっていそうな石柱が二本、門構えのように建っている。ゲームならここから先がバトルエンカウント有りで間違いない。


 この世界はスデにモンスターなどいない――元より里全体に結界が張られているので入れない――と理解していても森の中は物々しい雰囲気だった。 


「〈月影の森〉は昼夜問わず常に月が見えることからそう呼ばれている。獣道を道なりに進めば精霊に会えるだろう。入場料は一人五百ゼンだ」


「ここもお金取るんスか!?」

「てめーどこまでガメついんだ!」

 驚くショーコ。噛みつくクリス。


「昔は里の者もよく森の奥へ行楽に入っていたが、入場料を取るようになってからほとんど誰も入らなくなってしまった」


「そりゃそーッスよ……」


「ちなみに本来なら人間は立ち入り禁止の神聖な場所だ。人間はすぐ自然を汚すからな。君達は特例だ。最後に、これを渡そう」


 レグルスがショーコに宝石のような物を手渡す。紐が通されていて、氷柱のように尖った形だ。よく見ると宝石の中で光が何重にも反射していた。


「困ってどうしようもない時に使いなさい。陽の光にかざすときっと役に立つ」


「わ、ありがとうございます」


「五百ゼンで買い取りだ」


 レグルスの一言にクリスはプルプルと怒りに震えながら拳を握りしめた。


「は、払います払います! ほら! 行こうクリスいこいこっ!」


 急いで代金を払い、ショーコはクリスの背中を押しながら〈月影の森〉へと入って行った。呆れた様子でマイも後に続く。


「では、行ってきます」


 フェイはレグルスに小さく頭を下げた。


「フェンゼルシア」


 レグルスに呼び止められ、フェイが振り返る。


「大丈夫か?」


「……大丈夫ですよ。ご心配なさらず」


 乾いた笑顔で返し、フェイはショーコとクリスの後を追った。



 〈月影の森〉は奇妙な植物が鬱蒼と生い茂っており、手入れもされていない様子だった。

 里の居住区域よりも木々が多く、葉の隙間から陽の光が僅かに差し込んでいる程度。レグルスの話と違い、空を見上げても枝や葉に遮られて月は見えなかった。


 生き物の気配はするものの、どこに何が潜んでいるのかは見極められない。地面にはわずかに獣道のようなものが森の奥へと続いている。

 四人はレグルスに言われた通り、獣道を道なりに真っ直ぐ進む。


「メラメラメラ……」


 クリスはまだムカムカしていた。


「クリスってばすっかりエルフアンチになっちゃったね」


「カッカするとお肌に悪いぞ」


「イライラしすぎてもうとっくに健康を害してるぜ……とっとと終わらせてこんなとこ出て行こうぜ」


 クリスがストレスのあまり爆発しそうになっていた――その時である。


『こんなとこなんてひどいナア!』


 突然、どこからか声が聞こえた。鼓膜を突き破るような甲高い声だ。

 ショーコは辺りを見回す。だが誰の姿も見当たらない。


『こっちだヨ、コッチ!』


 声が聞こえる方へ視線を動かす。その方向は右でも左でも上でもなく……下だ。



 ――声の主は、ショーコの足下に生えている一輪の花だった。


『ヤア!』


「わぎゃあああああ! お花が喋ったあああああ!」


 驚きのあまり飛び退くショーコ。


「も、モンスターだ! 見た目的に絶対ザコだけど草タイプのモンスターだよ!」


『シツレイな! 僕たちを魔族なんかと一緒にしないでよネ』


 顔のようにも見える模様が不機嫌そうな表情を形作った。

 ビビりちらすショーコにフェイが説明する。


「これは【下位精霊】ですよ。精霊が自然の一部に命を吹き込んだものです。この世界の古い言葉で“アニマ”と呼ばれ、今では“妖精”や“晶霊”など様々な呼び名があります。魔族ではありませんよ」


『そう! 僕は風の精霊サマに命をもらったフラハジメ。お花のフラハジメさ!』


「なんだそのフザけた名前は……」


『この森に人間なんて珍しいね。最近はエルフですら滅多にやってこないのに。マッ、誰だろうとキョーミないけどね』


 一見かわいらしいお花だが、ケタケタと揺れ動きながら笑う様はどこか不気味だ。


「下位精霊なら親である“風の精霊”の居場所を知ってるだろう。案内させてはどうだ」


 マイの提案にショーコが頷く。かがんで視線を下げてフラハジメに語りかけた。


「ねえハナハジメちゃん、私達、精霊さんとお話ししたいんだけど会わせてくんないかな?」


 フラハジメは再びケタケタと笑った。


『こいつはお笑い草だネ! そんなのダメだヨ!』


「えっ」


『精霊サマはご機嫌ナナメなんだ。君達みたいなドサンピンの相手をする気分じゃないのサ』


「こ……この雑草野郎……」


 ショーコはズンっと踏み潰したくなる衝動をなんとか抑えた。


『むしろ逆サ! 君達みたいな無礼者を追い返すのが僕達の仕事なんだ』


「えっ」


 ――突如、森の木々から巨大な(つた)が無数に伸び、ショーコに襲いかかった。


 両手両足を締め上げられ、ショーコは逆さ吊りにされた。


『殺しはしないけど腕の一本や二本はもらっていくヨ!』


「うっそおおおおおぉぉぉぉぉ!?」

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