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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第三章 Tales of a life
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第三十二話 幸せってなんだっけ

 落ち着いた頃合いを見て、フェイはショーコ達を居間の長イスに座るよう案内した。

 木製の骨組みに羽毛を詰め肌触りの良い植物の葉で覆った、エルフ製法のソファーだ。


 フェイの両親も切り株状のイスに腰を下ろし、それぞれがテーブルを囲んで顔を合わせる形になった。


「皆さん、こちらが母のソフィア・ポート・ユアンテンセン。そしてこちらが父のラカン・ポート・ユアンテンセンです」


「は、はじめまして。未舟ショーコといいます。娘さんとは仲良くさせてもらってます」


 ショーコはペコペコ頭を下げた。


「こちらこそ娘によくしてもらって、ありがとうございます」


 フェイの母――ソフィアもペコペコと頭を下げる。


「いやはや、フェイが友達を連れて戻るとは。それも三人も! なんのおもてなしもないがくつろいでくれ」


 フェイの父――ラカンの端正な顔立ちはフェイに似ていた。細い身体ながら屈強な筋肉を纏っている細マッチョだ。


「どーやらフェイはオヤジさん似らしいな」

「いや、母親の要素もしっかり受け継いでいる」

 クリスとマイはどーでもいいことを喋っている。


「娘さんには本当にお世話になっておりまして……強盗から守ってもらったりテロ集団をやっつけてもらったり……いやマジで助けてもらってばっかりですわ」


「そうなんですか。フェイの父は絵描きが生業なのだけど、武術の腕前もすごいの。そんな親のもとでフェイは幼い頃から武術の手ほどきを受けてましたから、少しでもお役に立てたのなら誇らしいわ。ねえラカン」


「ああ、さすがは我が娘だ。母親に似て美人でかわいくて、俺に似て強くてカッコイイ自慢の娘だからな」


 腕組みをして大きく頷くラカン。

 ソフィアが「ごめんなさいねえこの人親バカだから」と苦笑した。


「俺とソフィアが結婚したのは五百年前なんだが、フェイが生まれるまで長くてな。待望の一人娘が立派に育ってくれて嬉しいよ」


「エルフは他の種族に比べてなかなか子供が生まれず、出生率が低いんです」


  ラカンの言葉を補足するようにフェイがショーコに説明する。


「つい百年前にコウノトリが運んできてくれたフェイがこんなに大人に育ってくれて……親として感慨深いなあ」


 ラカンの言葉にソフィアも大きく頷いた。

 ……が、ショーコは引っかかった。


「コウノトリ……? え……もしかしてですけどフェイさん、エルフの赤ちゃんってどうやって産まれるの?」


「そりゃ愛し合う夫婦のところにコウノトリさんが運んでくるんですよ。結婚してから何年後か、何百年後かは運次第ですが。さっきも近所の家にコウノトリさん降りてきてたでしょ。あれは赤ちゃんを運んできてくれたんですよ」


「ひえ~、絵本の世界だぁ~……」


 エルフという種族は神秘的な種族なのだ。


「しかし君達の話から察するに、やはり外の世界には野蛮な連中が多いようだな。魔族がいなくなって平和になったというのに」


「あはは……まあ私が巻き込んでるのかもしれないスけど……」


 そもそもショーコに同行しなければフェイは平和なルカリウス公国で外交公務をしていたはずだった。

 ここにきてショーコはちょっと罪悪感を覚えた。


「ショーコさんが気に病むことはありませんよ。ショーコさんを“最初の転移者”様のもとへお連れするのが私の仕事ですから」


「そう言ってもらえるとちょっと気持ち楽になるよ」


「とにかく、娘が物騒な人間社会で働くなんて言い出した時は心配だったが、無事に帰ってきてくれて本当に安心したよ。人間は粗暴で卑劣な種族だから、悪い影響を受けるかもと不安だったんだ」


「……」


 人間であるショーコはバツの悪そうな顔をした。


「あっ、違うぞ。君達もそうだとは思っていないさ。フェイの友達はそんな連中と違うとわかっているよ」


 慌てて自らフォローするラカン。

 夫の失言をカバーしようとソフィアも助け舟を出す。


「誤解しないでちょうだいね。私達は別に人間を嫌ってるわけじゃないのよ。この村にも観光客としてたくさん来るし、大切な商売相手なんだから」


「そうそう、人間ってけっこう浪費癖ある連中なんだよ。俺がテキトーに描いたラクガキや白いカンバスに鼻血塗りたくっただけの絵を高値で買ってったりするんだよ。ドワーフや獣人の方がずっと賢いぞ」


「……」


 ショーコだけでなくクリスも苦虫を噛み潰したような表情になる。


「あっ! ち、違うぞ! 私が言っているのは世間一般の人間という種族のことであって君達は別だからな」


 懸命に訂正するも、場の空気がものすご〜く悪い。

 これはマズイと悟ったラカンは話を切り替えようと努める。

 

「ま、まあとにかく! フェイが戻ってきて心から嬉しいよ。これからはまた昔みたいに家族で幸せに暮らせるんだからな。いや、それもフェイが嫁ぐまでか。ハハハ」


 ラカンは陽気だった。フェイが故郷に残るものだと勘違いしている。


 ……事実を話すのは戸惑われるが、黙っているわけにはいかない。



「お父さん、実は今日は大事な用があってここに来たのです」


「へ……?」


 ラカンは豆が鳩鉄砲を食らったような顔になった。


「実は、コレコレシカジカ……」


「カクカクウマウマ……だと……」


「ねえなんでそれでわかるの?」


「……つまり、フェイ……お前、またすぐ外の世界へ行くというのか……」


「はい。そのためにも……二百億ゼン必要なのです。無茶な頼みだということは自覚していますが、わずかな額でも助かります。いずれ働いて返しますのでお力添えをしてもらえないでしょうか」


「……」


「やはり……二百億なんて無理ですよね……」


 ラカンは口を真一文字に結び、眉間に皺を寄せて思案した。



 しばらくの沈黙が流れた後……ラカンの固く結ばれた口が開かれた。


「……こういう非常事態のためにずっと貯めてきた蓄えがある。それだけでは足りんがユアンテンセン一族の持てる財産をかき集めればなんとかなるかもしれん」


「……! 本当ですか!?」


「ただし条件がある」


「条件……?」



「フェイ、うちに帰ってこい。一時の里帰りじゃなく、外の世界の生活なんか捨てて、故郷で幸せに暮らすんだ」


「…………え……?」



「お前ももう百十六歳だろう。十分遊んだはずだ。いつまでもフラフラしてないで地元に落ち着いて結婚するんだ。それが女の幸せというものだ」


「……」


 ラカンの隣でソフィアは何も言わずに目を閉じ、話を聞いている。


「お前が外の世界に行きたいと言った時……少しくらいならいいだろうと許した。二、三年……長くて四年くらいで帰ってくるだろうと。ところがお前は十年も帰る素振りを見せなかった。このままでは婚期を逃す。幸せになれないんだぞ」


「っ……」


 フェイは困惑していた。どう言葉を返せばいいのかわからず、ただただ困惑していた。


「あ、アンタなあ! 親だからってむちゃくちゃ言いやがって! こいつの人生勝手に決めつけんじゃ――」


 我慢できずに声を上げるクリスをマイが制止した。

 眼前に腕を出されたクリスは目線を彼女に向ける。マイは何も言わずに首を横に振った。


「エルフは早くて六十歳くらいで結婚する者もいる。お前と同い年のアルルちゃんだってもうすぐ結婚するんだぞ。外の世界での仕事なんかすぐに辞めて帰ってこい。人間社会なんかで働いても時間の無駄だ。いつかの将来、お前が過去を振り返った時、“あの頃は馬鹿なことをしていた”と後悔することになるのは目に見えているだろう。いい加減目を覚ませ」


 ラカンに続いて、沈黙を保っていたソフィアも口を開いた。


「フェイ……お父さんの気持ちも考えてあげて。あなたがいつまでも独り身じゃ心配なのよ……そろそろ私達を安心させて」


 両親は人間社会で働く自分を応援してくれていると、そう思っていた。故郷を離れて懸命に生きる娘を誇りに思ってくれているものだと……


 それは彼女の勘違いだった。

 むしろ逆だったのだ。


「フェイ……俺はお前に幸せになってほしいから言っているんだ。子の幸せを願ってこそ親……故郷に戻ってこい。ここがお前の生きる場所なんだ」


「……」


 ショーコはおそるおそるフェイの顔をのぞき込んだ。

 何か言いたそうにしているが、言葉が喉に詰まって出てこないようだった。


「……フェイ……」


「……私……っ……その……私は……」



 ――再び玄関の呼び鈴が鳴った。

 張り詰めていた空気が、穴を空けられた風船のように一気に緩んだ。


「一息入れましょう。肩筋張っていてもよくないわ」


 ソフィアがゆっくりと腰を上げ、玄関へと向かう。

 純度百パーセント木製の扉を開けると、里長のレグルスが立っていた。


「あら、珍しいお客さんね」


「ゲーッ、ヤなやつが来た」


 クリスは苦虫を噛んだような表情を浮かべた。


 レグルスが家の中を見回す。つい今まで場が重苦しい空気に包まれていた事をすぐさま察した。


「邪魔をしたかな」


「カレルレン、どうしたんだ。また村の観光誘致用の宣伝広告絵を描いてくれって依頼か? 今月もう三枚目だぞ。あんまり依頼を受けすぎると一枚の完成度が低くなってしまうから好ましくないんだが」


「すまんなラカン。その話じゃない。フェンゼルシア達に話があってな」


「私達に……?」



 ソフィアがイスを用意する。レグルスは小さく頭を下げてから腰を下ろした。


「考えてみたんだ。永久術式を組み込んでほしいという君達の依頼……二百億ゼンで請け負うという話だったが」


 クリスは聞いてるだけで怒りのあまり拳をプルプル震わせていた。


「そちらの少女は新たな“転移者”だと言っていたな。代案を提示したい。君が本当に“転移者”だというのなら、金よりもずっと価値のあることを、“転移者”にしかできないことをやってもらいたい」


「私にしかできないこと……? ま、まさか女子トイレに潜入して盗撮しろとか女湯に忍び込む手引きしろとかじゃないスよね……」


 アホのショーコはゴクリと喉を鳴らした。

 もちろん、レグルスの依頼はそんなことではなかった。



「君達には“風の精霊”と契約を結んでほしい」

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