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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第三章 Tales of a life
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第三十一話 救い料二百億万ゼン、ローンも可

「よく戻ったな。お前が帰るのを待っていたぞ」


 金髪の男性エルフ――里長のレグルスは若々しい外見をしているが、他のエルフとは違う“空気”を醸し出していた。

 五千年生きているゆえの威厳だろうか、その背後に永い人生の厚みが感じられる。


 十年ちょっとしか生きていないショーコは相対しているだけで気圧されていた。

 それでなくても“世界の始まりの日”だとか“原初に在りし者”とか、すごく中二心をくすぐるワードをワっと浴びせられてクラクラしていた。


里長(おさ)、突然の帰郷ですがまたすぐに発たねばなりません。今日はお願いがあって来ました」


「……なんだ」


「こちらは新たな“転移者”のショーコさんと友人のクリスさん、そして――」


 フェイが紹介しようとした時、マイが自ら口を開いた。


「久しぶりだな、レグルス」


「……! マイ……マイか……! これは驚いたな」


 驚いた様子のレグルス。そんな彼を見てフェイも意外といった表情になる。


「お知り合いだったのですか?」


「先の大戦でな」


 あえて多くを語らないマイだったが、十五年前の“最初の転移者”との旅で知り合ったのであろうことは察せられる。

 気難しそうだったレグルスの表情が和やかなものに変わった。


「見違えたぞマイ。ほんの子供だったお前がたった十五年でここまで変わるとは。これだから人生は面白い」


「へ~、天下のマイさんも五千歳のエルフからすりゃ近所のガキ扱いだな」


 クリスがニヤつきながらマイにちょっかいを出す。

 バツの悪そうな顔をするマイ。


「レグルス、思い出話をしに来たわけじゃないぞ」


 レグルスは小さく咳払いをした。


「そうだな。これは失礼した。フェンゼルシア、話を訊こうか」


「実はコレコレシカジカ……」


「カクカクウマウマ……ということか。なるほど、つまりそのヒコウテイとかいう乗り物に永久術式を組んでほしいというのだな」


「えっ、今ので伝わんの」


 ショーコは真っ当な疑問を抱いたがフェイもレグルスもスルーした。


「なぜ里の上空でエンジンが急停止したのかはわかりませんが、飛行艇に永久術式を施していただき、再び飛べるようにしていただきたいのです。大陸を渡り、“最初の転移者”様に会うために」


「お、お願いします長老さん! なんの手土産もありませんが手を貸してください! どうかお助けを~!」


 フェイに続いてショーコも頭を下げた。

 レグルスは顎に手を当て、しばし考える。


「むう……“新たな転移者”が“最初の転移者”に会うため、共和国へ行くために永久術式を……か」



 ――数秒の沈黙の後……頷いた。


「わかった。その話、引き受けよう」


「やったー! ありがとうござ――」



「ただし、依頼料として二百億ゼン支払ってもらおう」



「にっ!?」


「にひゃくおくぅ!?」


 ショーコとクリスは雷に打たれたかのような衝撃に見舞われた。


「は……ははは……またまたジョーダン言っちゃって~……お茶目さんなんだから~」


 ショーコが茶化すが、レグルスはいたって真剣な表情だった。


「永久術式は簡単なものではない。高等な技術には相応の対価を支払うのが当然だ。まさか無償で施しを受ける気だったのか? 私とフェンゼルシアが同郷であれ、マイのように知った仲であれ、報酬も払わず仕事をさせるなどおかしいと思うが?」


 この世界のお金の単位は【ゼン】と呼ばれているが、飲料水が一〇〇ゼン前後で売り買いされていることからショーコの故郷の日本円とほぼ同じ価値と言えるだろう。

 つまりレグルスが提示した額は二百億円という途方もない額ということになる。


「ふっ! ふざけんな! ンな金誰が払えるってんだ! 法外にもほどがあんぞ!」


「クリスさん、永久術式を組める方は世界でも数えるほどしかいません。里長の提示した額は決しておかしなものではありませんよ」


「だからって払えるか! バカにしてるとしか思えねーっての!」


 怒り喚くクリスをフェイは必死に抑える。

 その様子を見てレグルスは小さく息を吐いた。


「そうか。提示した額を払えないというのなら……残念だがこの話は無かったことにするしかないな」


「あーそうかよ! てめーみたいなガメついやつこっちから願い下げだ! 行くぞみんな!」


 頭からプンプン蒸気を発しながら外へ出て行こうとするクリス。


「待て」


 レグルスが制止の言葉をかけた。

 振り向くクリス。


「あンだよ。値下げしてくれんのか?」


「いや、湖にヒコウテイとやらを停めていると言ったな。ならば停泊料として五千ゼン払ってもらおう」


「っ~! こ、こいつ! カネカネ言いやがって……!」


「ちょ、ちょっとクリス落ち着いて!」


「わかりました里長、お支払いします。五千ですね」


 フェイは共用財布から停泊料を出した。

 一枚ずつ紙幣をしっかり数えるレグルス。しかも二度。


「たしかに受け取った。明日の正午を越えれば延長料金が発生するから気をつけるんだな」


「誰が払うかバーカっ!」


 クリスは怒り肩ガニ股でぷんすこ怒りながら里長の家を出ていった。


「もうクリスってばおこりんボーイなんだから。あ、ガールか。フェイ、追っかけよ」


「……はい。すみません里長、失礼します」


 フェイはレグルスに深々と頭を下げ、ショーコと二人でクリスを追いかけて行った。

 一人残ったマイは複雑な表情でレグルスを見やる。


「……変わったな、レグルス」


「君達が変えたんだ」


「……」


 踵を返し、マイもその場を後にした。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「クソッ! ふざけやがって! エルフがこんなにケチくせー奴らだとは思わなかったぜ!」


 まだ怒りが収まらないクリス。どこへ向かうわけでもなく怒り肩でずんずん歩き続けていた。


「まあそうプリプリしないで。みんなの共用資金から出費してるしクリス個人は損してないじゃん」


「問題は額じゃねー。ことあるごとに金をむしり取ろうとする魂胆が気にくわねーの!」


「里長は決して意地悪をしているわけではないのです。そう易々と永久術式を施しては世の中のバランスが乱れかねません。里長は賢い方ですから」


 よくよく考えれば二百億で永久機関が完成するのであれば一概に高いとは言い切れない。むしろ永遠に燃料が不要になるのだから安いとも言えるのでは……


「でもどうする? 長老さんに頼る以外になにか方法があれば……」


「いーやっ! 逆だ。こーなったら何がなんでも二百億ポンと出してあのヤローをギャフンと言わせてやるんだ!」


 まるでリベンジに燃える不良のように意気込むクリス。彼女は負けず嫌いなのだ。


「そうは言うが二百億などどう用意するつもりだ」


「それは知らん!」


「やれやれ……」


 旅の資金はせいぜい数十万……フェイとクリスとマイの預金を合わせたとしても足りない。異世界では引き出しようがないが、ショーコのお年玉貯金を足したとて同様だ。


 しばらく考えた後、フェイは諦めたようにため息をついた。


「この手はなるべく使いたくはなかったのですが……最後の手段があります」


「最後の……? 奥の手があるんだね! 一体どんな手段なの?」



「親にたかりましょう」


「えっ」



 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 里の東側にある木造の一軒家。大きすぎず小さすぎない普通の一戸建て。

 この何の変哲も無いどこにでもある家がフェイの生まれ育った実家だ。


 その一軒家の台所にて、一人の女性エルフが昼食の準備をしていた。


「フ~フ~フフ~フ~フ~フ~ン♪ フフフ~フ~♪」


 赤色の長い髪が特徴的な女性のエルフ。彼女が鼻歌を唄いながら野菜を刻んでいると玄関の呼び鈴が耳心地の良い音を響かせた。

 来客かと女性エルフが両手を水洗いしてから玄関へ赴き、扉を開く。


「……! フェイ!」


「ただいま戻りました」


 扉の前に立っていたのは銀髪のエルフ――フェイと三人の連れだった。


「フェイッ! おかえりなさい! やっと帰ってきたのね! よかった……本当によかった!」


 女性エルフは笑顔でフェイに抱きついた。


「ご心配をおかけしましたお母さん」


 フェイが母と呼ぶ女性はエルフの例に漏れず美人で若々しい。とてもフェイのような大きな子供がいるとは思えない若さだ。髪の色こそ違うが二人が並べば姉妹にしか見えなかった。


「この人がフェイのお母さん……わ、若ぇ~」


「エルフは不老長寿だからな。世界が終わる(とき)まで永遠に生き続ける種族と言われている」


「そんな大層な連中なのに金にセコいってどーかと思うがな」


 久々の親子の再会を終えたフェイが振り向き、ショーコ達に紹介する。


「皆さん、こちらが私の母の――」


 その時、家の奥にある裏口が勢いよく開き、外から男性のエルフが慌てた様子で駆け込んで来た。


「ソ、ソフィア! 画材屋で聞いたんだがフェイが村に帰って……き……て――」


「お父さん」


「……」


 男性エルフは数秒間停止したまま、目をパチクリさせている。


 ――そして、歓喜の声を上げた。


「フェイ~~~! 本当に帰ってきたのか~! よ、よかったあ~~~! 久々の家族の再会だあ~~~! 今日はお鍋でお祝いしよう! フェイの好きなお肉もいっぱい入れような! とにかくよく帰ってきてくれた! お帰りフェイ~~~! うおお~~~ん!」


 父と呼ばれた男性エルフはダバダバ涙を流しながらフェイと彼女の母をまとめて抱き締めた。



 母――ソフィア・ポート・ユアンテンセン。


 父――ラカン・ポート・ユアンテンセン。


 そして娘――フェイ。


 家族三人が揃うのはじつに十年ぶりのことであった。



「……ふふ」


 父の腕の中で、フェイは小さく笑った。

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