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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第三章 Tales of a life
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第二十九話 少女は悩めるオトシゴロ

 飛行が安定するとフェイは操縦席の正面に設置された世界地図の一カ所にピンを立てた。


「これでピンの位置まで自動操縦で飛んでくれるみたいです」


「はえ~、私の世界の飛行機よりずっと簡単っぽいね」


 地図上で赤い点がわずかに動いている。どうやら飛行艇の現在地を示しているようだ。

 地図には他にもいくつかの大陸が描かれている。


「今我々がいるのは〈東ハウリド大陸〉の東方です。西に向かって海を渡ると共和国がある〈西ヴォーガ大陸〉があります。上側の大陸は〈北ホーコン大陸〉です。武術が盛んな地方で、武術のジェン・チーが生まれたのもこの大陸です。下の方は〈南ボウリド大陸〉という歌と踊りで有名な大陸ですよ」


「私達が向かう〈西ヴォーガ大陸〉はどんなとこなの?」


「悪の巣窟です」


「えっ」


「あ、間違えました。悪の巣窟でした」


「いやいやいや! 訂正したとて! なに悪の巣窟って!? 説明してちょーよ!」


「元々は“魔族の王”の城があったんです。まあいわば魔族の本拠地って感じですね。大丈夫大丈夫、もう十五年も前の話なんですから」


「大丈夫っつったって魔王城跡地なんて絶対いわくつきじゃん……私イヤだよ写真とったら魔王の手が写り込んでるとか」



「おい見ろよ。食いモンも積んであるぞ。サンキュージジイ!」


 クリスが物資が入った木箱の中から食料とビン入り飲料を発見した。ソドルファス王が用意してくれていたのだろう。気の利いたじーさんだこと。


「旅の門出を祝って一杯やろうぜ。フェイ、ショーコ、何飲む?」


 フェイとショーコは操縦席を離れ、背の低いテーブルを囲うイスに着いた。


「なんでもいいですよ」


 クリスはラム酒が入った瓶を投げた。フェイが片手でパシっとキャッチする。


「あ、オレンジジュースがあれば」


 リクエストに答えてジュース瓶を投げるクリス。この世界にも果汁飲料はあるらしい。

 ショーコは両手でキャッチしようとしたがうまくいかず胸元でドンっと受けてから両腕でアワアワしながらなんとか捕らえた。


「私は水をくれ」


「チェッ、おもしろみのねーヤツ」


 不満そうな顔で清涼水の瓶を投げるクリス。見向きもせずにキャッチするマイ。

 クリスはパンや干し肉やら様々な食べ物を両手一杯に抱え、テーブルの上にドサっと広げた。


「そぃじゃあ、我々の旅の幸運を祈って――」


 全員が飲み物の瓶を片手に持ち、向かい合う。


「かんぱ~~~いっ!」


 ショーコは瓶を前に掲げた。が、瓶がかち合うことはなかった。


 フェイとクリスとマイは瓶の底で机をドンドンっと二回叩いた後、一気にグイっと飲み干した。


「あ、それがこの世界の乾杯の儀式なのね」

 ショーコはちょっと恥ずかしくなった。


「っぷはひぃ~~~っ! まさか空の上で酒が飲めるとはな。役得役得。“最初の転移者”との旅でもこんなこたぁなかったろ?」


「そうだな。私達が旅をしていた頃は飛行できる魔族も多かったしな」


「そういえばマイさんが“最初の転移者”と一緒に魔王を倒したのっていくつの時だったんですか?」


 純真無垢な問いを投げるショーコ。女性に年齢に関する質問はマナー違反だが本人は全く気付いていない。


「十二の時だ」


「じゅうにさい!? 中一か小六の年齢で世界を救ったの!? 児童向けホビー雑誌の主人公じゃん……」


「転移者といえばさ、ショーコはどーして“最初の転移者”を探してんだ? 金でも貸してんの?」


 クリスは二本目の酒瓶を空け、三本目の栓を抜きながら尋ねた。


「それがさ~、元の世界に帰る方法を知ってるだろうっていう希望的観測なんだよ。これで“最初の転移者”がなにも知らなかったら骨折り損のくたびれもうけだよ」


 ちょっと古くさい言い回しをしながら「ヤレヤレ」と言いたげなポーズをとるショーコ。


「ふーん、なんで元の世界に帰りたいの?」


「へ? そりゃあ……ウチに帰りたいからだよ」


「なんで帰りたいの?」


「…………え?」


 ショーコは答えに詰まった。


「……なんでって……なんでってそりゃ……アレ?」


 “家に帰りたい”という漠然とした目的で動いてきたが、いざ訊かれると“帰りたい理由”がすぐには思い浮かばなかった。


「この世界って居心地悪いのか? 元の世界で恋人が待ってるとか?」


「いや……別にそーゆーわけではないけど……」


 言われてみればそうだ。この世界が居づらいわけではない。むしろ“転移者”ということでチヤホヤされる。

 元の世界には家族や友人がいるがどうしても会いたいかと聞かれると答えに困る。


 “何者でもない平凡な少女”だったショーコが、この世界では“世界を救った救世主と同じ転移者”として英雄扱いされる。

 むしろこちらの世界の方が良いのではないのか? 友達もできたし食べ物だって美味い。その気になれば何不自由の無い充実した異世界ライフを送れるだろう。


 彼女はここに来て、旅の目的の根本に疑問を持つこととなってしまった。


「えぇー……こっちの世界のがいいのか……? いや……でも……」


「もー、クリスさんがヘンなこと言うからショーコさん壊れちゃったじゃないですか」


「え、アタシが(ワリ)ーのコレ」


「ショーコ、答えは追々考えればいい。答えが出るまで立ち止まっているより、とりあえず動きだしておいた方がいいさ」


 マイの年長者らしい意見に、ショーコは小さく頷いた。


「…………そうだね。試験でも分かんない問題に悩んでると時間無くなっちゃうし、後回しにする方がいいもんね」


「え、でもそれ結局時間切れで回答無しのまま出すハメになるやつでは」


「フェイいらんこと言わんでいいんよ」



 それからしばらくの間、四人は飲み食いしながら会話を楽しんだ。

 しかしショーコは自分が本当はどうしたいのか、どうするべきなのかを考えていて会話の内容がほとんど頭に入っていなかった。


 気付けば外では陽が落ち、暗くなっていた。フェイがランタンに灯りを点けて機内を照らした。


「おかわりおかわり~っと♪ フェイとショーコは次何飲む?」


「おまかせでお願いします」


「あ……私も」


「マイも飲めよ。せっかくなんだからさ」


「いや、水でいい」


「……はいはい、水ね」


 クリスは自分の分を三本、フェイとショーコとマイの分を一本ずつ木箱から取り出し、机に置いた。


「すまんな」


 クリスが持ってきた瓶に手を伸ばすマイ。栓を抜いて口に運ぶ。

 ショーコもつられて栓を抜いて飲む。妙な味がし、すぐさま彼女の顔はしかめられた。


「!? うぇ~っ……なにコレ。ヘンな味ぃ~」


「ッ!? こっ……これは……」


「ニンマリ」


 クリスはニンマリと笑った。


「さ、酒じゃないか! 騙したな……っ」


 マイの色白な肌がみるみるうちに紅くなってゆく。


「えっ!? あっ、私のもお酒だコレ!」


 ショーコも遅れてようやく気付く。色的にジュースと見間違うがまぎれもなくアルコール入りだ。


「マイさん大丈夫ですか? 顔がものすごく紅潮してますよ」


「だいじょ……ばない……」


 頭をぐわんぐわん揺らすマイ。先程までのキリっとした様子からは考えられない変貌ぶりだ。


「まあまあいいじゃあないのいいじゃあないの。天下のマイさんもたまにはパーっとやんなきゃ」


「わ……私は……酒……は……飲め……ふぇー……――」


 目を回しながら、マイはバタンキューと倒れた。


「ありゃ。世界を救った豪傑が下戸たあ締まらないね」

 ※無理矢理お酒を飲ませるのはやめましょう


「うっ……私もなんかクラクラする……」

 ※お酒は二十歳になってから飲みましょう。


「マイさんをベッドに運びます。ショーコさんもお休みになっては?」


「うん……そうする」


 フェイはマイをお姫様だっこで抱え、二段ベッドの下の段に運ぶ。う~んう~ん唸っている彼女に布団をかけて寝かしつけてあげた。

 ショーコもベッドの上の段に上り、布団をかぶる。


「よっしゃフェイ! アタシらだけで飲み会続けっぞー!」


「おー」


 クリスとフェイの二人は宴もたけなわ。酒瓶の底で机をドンドンと二回叩き、飲み会を再開した。



 ――……


 ショーコが気が付いたのは早朝だった。

 窓の外を見ると、現在飛行艇は広大な森林地帯の上空を飛んでいるようだ。


 陽は昇っていないがうっすら明るい。月が静かに世界を照らしていた。

 今になって初めて気付いた。この世界にも月があるらしい。しかも二つある。

 一方は常に同じ位置から動かず、もう一方は時の流れに沿って移動しているらしい。


 ショーコがベッドから降りると、長イスで酔い潰れて眠っているクリスが目についた。マイとフェイはまだそれぞれのベッドで眠っている様子。


 半分寝ぼけならがもショーコは操縦席の世界地図を見た。

 地図上では目的地のピンと現在地の赤い点が今にも重なる位置にあった。



 ――その時である。


 頭上で「ブスンッ」と異音がした。


「れ?」


 同時に、プロペラの回転が止まった。


 飛行艇はゆっくりと傾き、みるみる高度を下げ始めた。


「れれれれれれ!?」


 傾いた機内でフェイとマイがベッドの縁に頭をぶつけて目が覚める。クリスも床に転げ落ちて気が付いた。


「なっ、ぬゎんだ!? 敵襲か!?」


「これは……墜落しているのか!」


 マイはすぐさま異常な状況だと察知した。

 エンジンの稼働時間は十二時間。ローグリンドを発って半日が過ぎる頃にフェイは第二エンジンに切り替えていた。まだ稼働時間に余裕はあるはずだがどういうワケか停止したのだ。


 つまるところ……――このままでは墜落する!


「わ~! フェイ! なんとかしてぇ~!」


 フェイが急いで操縦席に着く。確認すると、エンジンを司るレバーの根元に描かれていた魔法陣が軒並み消えている。


「原因は不明ですが機体の魔法が全て無効化されたようです」


「そ、そんな! と、とにかく説明書読んで! 非常事態のマニュアルがあるハズだよ! 緊急パラシュートとか脱出装置とか!」


「ダメです。その類のものは一切掲載されてません」


「なんだってえええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」



 飛行艇アドリヴァーレ号は力を失い、どうすることも出来ずに地上へと墜ちてゆく。


 まるで一筋の流れ星のように――

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