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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第二章 Strikes the Klan
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第二十八話 仲間を求めて

 第五階層――工業区〈造船ドック〉


 ソドルファス王に連れられ、第五階層の造船ドックを訪れたショーコ達。

 いくつもの船が並び、修理もしくは出港をいまかいまかと待ち望んでいる。


 だがソドルファス王がショーコ達に見せた“船”はそれらとは明らかに異なる形状をしていた。


「さあ、聞いて驚け見て笑え! これが我が国の技術と素材と企業努力の結晶じゃ!」


「こ、これって……」



 長細い船体から左右に突き出る大きな翼。機体の上には前後にプロペラが付いた四角いエンジンがドッカと乗っかっている。


 ――その形状は“船”では無い。


 ショーコの世界では、これは空を飛ぶモノ――



「飛行機……?」


 思わずポロリと言葉が出るショーコ。


「いや、こいつは【飛行艇】じゃ」


 ソドルファス王が訂正した。


 たしかによく見れば水面に浮かべられている。機体の“腹”と左右の翼の下にある“フロート(浮き)”によって水上でバランスを取っているようだ。

 ショーコは昔、飛行艇を題材としたアニメ映画を見たことがあったが目の前の機体は映画の主人公が乗っていたものよりも大型だ。


「ヒコーテー? なんだそりゃ」


 クリスが当然の疑問を投げた。この世界において空を飛ぶ乗り物はまだ作られていないのだ。


「“最初の転移者”が考案した技術を基に造り上げられた様々なモノのおかげで、我々の生活はずっと便利になったものじゃ。魔動車や魔法送や魔法便……」


 ショーコの世界からこの世界に持ち込まれたモノや技術の数々は、“最初の転移者”が「自分の世界にはこういうものが存在した」と提案したものを、異世界の住人達が異世界なりの技術で作り上げてきた、ということらしい。

 フェイが着ているビジネススーツや時計など、ショーコの世界と同様のカタチでこの異世界に存在しているものの多くは同様のプロセスで作られたのだろう。


「その中でも“飛行機”というモノは特に魅力的じゃった。空を飛び、人や物を運べる乗り物が実現できれば世界は大きく様変わりする。じゃがそんな大きな金属の塊を安定して飛行させるのは、我々の技術では非常に困難なのじゃ。特に着陸がな」


 ソドルファス王は過去を振り返るように語る。


「飛行機は着陸する際にかかる衝撃負荷に耐えられなければならない。それほど頑丈な機体を作るとなるとどうしても安定した飛行が難しくなるのじゃ。さらに着陸には凸凹の無い真っ平らで広大な土地が必要じゃ。そのように整備された土地など世界中探し回ってもそうそうありゃせん」


「そうか。ファンタジーな異世界じゃ滑走路みたいにキレーで平らな土地なんてないもんね」


 ショーコの世界の飛行技術は幾多の才ある者達が長い年月を費やしてようやく実現したもの。この世界の技術で再現するにも相応の時間がかかるようだ。

 異世界から持ち込まれた技術案には――ビジネススーツや銃のように――すぐにでも作れるモノとそうでないモノがある、といったところか。


「しかしこの飛行艇ならば水面に着水することで衝撃は少なく、広い平地が無くとも地上に降りられるというわけじゃ。船と飛行機の特性を併せ持つ……それがこの飛行艇“アドリヴァーレ号”じゃ!」


「“アドリヴァーレ”とは古い言葉で“飛翔”を意味します」


 フェイがショーコに補足説明する。


「この機体はすごいぞ! エンジンは水冷ヴァイ型十二気筒の三百六十ガンリを二基搭載しておる。最高速度は百九十三バリーで飛べるんじゃ」


「わからんわからん! 異世界の単位で説明されてもわからん!」


「全長は二十メートル、全高四メートル、翼幅は二十五メートルじゃ」


「急に馴染んだ単位でわかりやすい!」


 この世界に“最初の転移者”がメートル法を持ち込んでくれていてよかった。ヤードポンド法だったらサッパリだったぜ。


「難しいのは離着水の時だけで、水面から離れれば後は簡略化された操縦で目的地までひとっ飛び。〈西ヴォーガ大陸〉まで二日ほどで着くじゃろう」


 馬車なら山あり谷ありの道で数ヶ月かかる距離も飛行艇ならあっという間。ショーコ達にとってまさに渡りに舟だ。


「というわけでこのと~っても速くて便利で優れた飛行艇である“アドリヴァーレ号”を、そなたらに譲ろうではないか」


「い、いいの!? こんなスゴイ乗り物……」


「かまへんかまへん。そなたらには返しきれん恩があるでな。せめてもの礼じゃ」


 試行錯誤を繰り返した末にやっとできあがった飛行艇を譲ってくれるとはなんともきっぷのいい王様だ。やっぱ国を率いる人間は器がでけえや。


「お主らが使っていた馬車の心配も無用じゃ。馬はワシが責任を持って面倒を見よう」


「ソドじい気が利くじゃん!」


「伊達に王様やっとらんからの」


「ほえ~、中はけっこう広いぞ」


 クリスが飛行艇の中を覗く。つられてショーコものぞき込んだ。

 広さはショーコの世界で言う電車一輌くらい。広すぎず狭すぎない絶妙な塩梅だ。

 艇内の前部には操縦席があり、その後方――中央辺りには低めの四角いテーブルとそれを囲うように横長のイスが取り付けてある。後部には機内側面に沿って二段ベッドが左右に設置されていた。ある程度なら寝泊まりが出来るように整備されているようだ。


「これなら旅はずっと楽になりますね」


「やったー! これで共和国までビューンヒョイだね!」


 ショーコ達が喜んでる中、ソドルファス王は急に神妙な面持ちになった。


「……じゃが一つ問題がある。実はこの飛行艇は十二時間しか飛べないんじゃ」


 ショーコは大きくズッコケた。


「この機体のエンジンは内部に様々な魔法陣を敷いていて、魔法で内部機構を動かしておるんじゃが、発動した時点から十二時間しか持続せん。エンジンは二発積んで計二十四時間……魔法が切れるとエンジンが停止して飛べなくなるのじゃ」


 この世界で言う“エンジン”とは魔法の術式を組み込んだ動力源ということだ。

 ショーコの世界のエンジンというと燃料を燃やして運動エネルギーを生み出すが、この飛行艇は魔法によって機関を動かし、プロペラを回転させて前進する構造のようだ。

 しかしそれらの魔法術式は十二時間しか持続しない。術式が切れれば飛ぶことはできない。そうなってはもう飛行艇ではなく羽の付いたカヌーだ。


「だったら漕げばいいだろう」

 クリスが脳筋解決法を挙げるが無茶な話だ。


「共和国まで二日かかるのに二十四時間しか飛べないなんて、どうせえっちゃうんじゃ~!」


「すまんのう。どう工夫してもこれが最善のカタチなんじゃ。むしろ飛行可能に組み上げたこと自体がかなりの偉業なんじゃぞ」


「そうかもしれないけどさあ……」


「あっ、じゃあ私の実家に寄りませんか?」


 フェイが鶴の一声を上げる。

 突然すっとんきょうな提案を出され、ショーコはポカンとした。


「フェイの……実家?」


「私の故郷〈ポートの里〉に魔法の力を永久に持続させる【永久術式】を組めるエルフがいます。飛行艇のエンジンに施してもらえれば活動時間を気にせず飛べるかと」


「そ、それってつまり燃料も何も気にせず永遠に飛び続けられるようになるってこと? 永久機関じゃん……まほうのちからってすげー」


「〈ポートの里〉はここから離れてますがこの飛行艇なら一日で着く距離です」


「よっしゃ! それじゃルートは決まったな。まずはフェイの地元に里帰りしてエンジンを改修。それが済んだら海を越えて共和国に向かうとすっか!」


 クリスは右拳を左手の平にパシンと合わせた。え、ケンカでもすんの。


「これを持っていきなさい。飛行艇の操縦方法を記した説明書じゃ」


「うん! 色々とありがとうソドじい! さすが金持ちは違うね!」


「まあワシ王様じゃしな」


「ぃよーし! 全員、飛行艇に乗り込めー!」


「わ~い!」


 クリスを先頭にショーコとフェイが楽しそうに乗り込む。マイは一人でゆっくり歩いて乗り込んだ。



 マイ以外の三人は艇内をキャッキャと触れてまわる。クリスは二段ベッドに飛び乗って快適具合を確かめた。


「アタシが上の段だからな」


「私も私もー」


「ずるいですよ。ジャンケンで決めましょうジャンケンで」


「あ、ジャンケンも輸入されてるんだこの世界」


 三人がヤイノヤイノとベッドの場所取りで盛り上がる中、マイはゆっくりとイスに腰かけた。


「やった~! 勝った~!」


「ヒヒヒ、残念だったなフェイ。アンタは下の段だよ」


「むむむ」


「イジケんなって。操縦役は譲ってやるからさ」


「やったー。ありがとうございます」


 フェイが操縦席に座る。目の前には世界地図が広げられており、その周りにレバーやボタンがいくつか並んでいる。


「出発しますよ。みなさん忘れ物はありませんね」


 大きく目立つレバーを倒す。レバーの根元で小さな魔法陣が浮かび上がると同時にエンジン内部でも魔法陣が光を放ち、稼働を始める。手動でなく魔法の力で慣性スターターが回転しだした。


「コンタクト」


 回転が充分に達したとことでフェイが別のレバーを倒す。クラッチが繋がり、轟音と共にエンジンに火が入る。勢いよく煙を吹き出し、プロペラがゆっくりと回り始めた。


「うおっ! 動いたぞ! フェイ、どうやったんだ?」


「説明書を読んだんです」


 ソドルファス王が指示を出すと造船ドックの門が開いた。ローグリンドの王都に隣接する湾と繋がる水路が続いている。

 機体を繋いでいたモヤイ綱が離され、飛行艇が水面を切り裂きながらゆっくり走る。門をくぐり抜け、青空の下に出た。


 次第に速度が上がっていく中、フェイは操縦桿を手前に引いた。機首が上を向き、上昇する。しかし水が機体にへばりつくかのようになかなか水面から離れられない。

 さらに操縦桿を引く。機体が顔を上げる。一気に水面から離れ、飛行艇は宙に浮いた。



「よーし! “最初の転移者”を……マイさんの仲間を探しに行くぞー!」


 アドリヴァーレ号は水しぶきと共に青空へと飛び立った。

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