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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第二章 Strikes the Klan
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第二十七話 楽しくなりそーだな

 とても背が高い女性だ。相対すればショーコが見上げる形となる。

 服装はライダースの黒ジャケットのようなものを着ており、単純にカッコイイ。

 目を引くのは腰にひっ下げた、四角い鞘に収められた刀剣だ。普通の鞘とは明らかに形が違う。特別製の武器だと一目で分かる。

 だが何よりも特徴的なのはその鋭い目つきだ。トラのような猛獣を想起させる、切れ長でキリっとした目だった。


「ぁ……ごめんなさい」


 ショーコは反射的に謝ってしまった。

 怖そうな人に睨まれると無意識の内に謝ってしまうクセが発動したのだ。


「……」


 マイは得物を狙う猛獣のような眼光でショーコをじっくりと見つめた。


「……フッ」


「微笑!?」


 わずかにマイの口角が上がったのでショーコはめっちゃビックリした。


「私がマイだ。“マイ・ウエストウッド”……クリスから話は聞いている。“最初の転移者”に会いたいらしいな」


 マイはイスをくるりとこちらに向け、座り直した。


 ショーコは緊張していた。マイは気難しい人間だと聞いていたし見るからに厳格クールな雰囲気を漂わせている。


「あの……私……ひ……ふへ……」


 高校入学当初、服装が乱れてるという理由でめちゃくちゃ怒られた数学教師とダブって見えて余計にビビってしまっていた。


「君達の戦いぶりは見せてもらった。大したものだったよ。敵味方双方ともに怪我人だけで死者は出ていない。見事だ。私ならああはいかなかった」


 マイの口ぶりに反応したのはクリスだった。


「ちょっと待て……アンタまさかあの戦いを見てたってのか? だったら助太刀してくれたってよかったんじゃねーの?」


「いずれ新世組は潰すつもりだったが、君達がどこまでやれるのか見てみたくてな」


「……ヤな性格してるよホント」


「すまんな」


 呆れるクリスに対し、マイは小さく笑った。


「マイさん、“最初の転移者”様と共に世界を救っていただいてありがとうございました」


 本題に入る前にまずお礼の言葉を述べるフェイ。


「私達は“最初の転移者”様を探しています。かつて仲間として共に世界を救ったあなたならその居場所を知っているのではと思い、ローグリンドを訪れました。よろしければ“最初の転移者”様が現在どこにおられるのか教えていただけませんか?」


 慌ててショーコも頭を下げる。


「お、お願いします! 私達のこと信用できないとは思いますけど教えてください! ……初対面だし怪しいと思うでしょうけどどうかお情けを……!」


「わかった」


「そ、そうですよね……どこの馬の骨ともわからん奴にいきなり頭下げられても困りますもんね……せめて菓子折りでも持ってきて――」



 間。



「えっ」



「会わせてやろう。“最初の転移者”にな。奴のいる所まで私が一緒に行って案内しよう」


「ほえあっ!? い、いいんスか!? マジで!? な、なんで!? マイサンナンデ!?」


「君達の戦いは見せてもらったと言ったろう。信用に値する。それに……純粋に君達のことを気に入ったからな。奴とは仲間だったがもう随分長い間会っていない。久しぶりに顔を見るのも悪くないだろう」


 意外。無愛想で気難しい人間だと聞いていたから話を通すのにまた一悶着を覚悟していたが、すんなり了承してもらえた。しかも案内までしてくれるとは。


「や、ヤッター! ホントッスか!? なんだかよくわかんないけどバンザーイ!」


「よかったですねショーコさん!」


 ピョンピョン飛びはねながらショーコとフェイは抱き合った。苦労してきただけに喜びもひとしおだ。


「フッ……“アイツ”によく似ている……」


「ねえマイさん! その“最初の転移者”って今どこにいるんですか? こっから近いんですか?」


「〈神聖ヴァハデミア共和国〉だ」


「アハハハハ! 聞いたことねー!」


 テンション高めのショーコはケタケタ笑っていた。

 しかしフェイは反対に神妙な面持ちになった。


「共和国……ですか」


「え? どうしたのフェイ。そんなヤバイとこなの?」


「いえ、危険な所ではありません。むしろ逆に世界で最も統治の行き届いた国でしょう。ただ距離があります。海を越えて〈西ヴォーガ大陸〉まで行くことになります」


「えっと……別の大陸ってこと? 海外旅行ってはじめて」


「ここからではどれだけ時間がかかるかわかりません。二ヶ月か三ヶ月か……もっとかかるかも。相応の準備をしなければなりませんね」


「そんなに……ここに来るまでも盗賊や強盗団と遭遇したくらいだし、さらにまた悪党と遭遇することになるんだろうな……でも大丈夫! マイさんが一緒なんだからなんとかなるよ! なんせ世界を救った英雄パーティーの一人なんだからね!」


「ムッ、その言い方だとまるで私だけじゃ不安みたいですね」


「へ? いやいやそういうことじゃないよフェイ。フェイも強いけどマイさんがいたら鬼に金棒って意味だから」


「むー」


「も~、膨れないでよフェイ~」


 ちょっと拗ねてるフェイをなだめようとショーコが肩をゆさゆさ揺さぶる。


「んじゃ、アタシも行くか」


「あっ、もう行っちゃうの? ありがとねクリス。おかげでマイさんに会え――」


「んや、アンタらと一緒に行くってこったよ」


「…………へ? どこに?」


「アンタらが行く先」


「……!?」


 理解が遅れたが、意味を飲み込んだショーコは目を丸くした。


「王都中で『新世組をやっつけたのは賞金稼ぎのクリスちゃんとその他』ってことで報道されててさ。アタシの名は売れて箔が付いたけどほとぼりが冷めるまで居づらくてよ。『仲間の一人は“転移者”だ』なんて噂も出てるし、あれこれ詮索されんのもヤだからね。ま、アンタらといたら退屈はしないだろーしさ」


「うん……! うん! 大歓迎だよ! マイさんに加えてクリスが一緒ならどんな悪党相手でも安心だもん!」


「良かったですねショーコさん。気に食わない人を問答無用でブン殴ってボコボコにしてツバ吐くクリスさんが居れば防犯面は安全です。悪い虫が寄り付かなくなりますね」


「うん! これでもう押し売り業者や宗教勧誘に引き止められて二時間延々と話聞かされることもなくなるよ!」


「オメーら人がよすぎんじゃねーの。キッパリ断れそんなもん」


「だってフェイが『人の話は最後まで聞きましょう』って譲らないから」


「一匹狼のお前が誰かと組むとは。どういう風の吹き回しだ?」


 マイが腕を組んで問う。


「ショーコといると“転移者サマ”のおこぼれに預かれるからね。タダ飯にありつけるってもんよ」


「フッ……お前らしいな」



 クリスとマイのやりとりをヨソに、フェイが誰かに肩を叩かれたかのようにハッとした。


「ショーコさん、ベラさんから魔法便が届きました。つい今です」


「えっ? ホント? どれどれ」


 フェイが指をくるりと回し、魔法便の文面を召喚した。二人は肩を合わせて一緒に手紙を読みはじめる。


『前略、拝啓、本日はお日柄もよく……』


「なんでベラさん手紙でボケるの?」


『ショーコちゃん、フェイさん、具合はどうですか? 今、仕事の合間にこの手紙を書いています。改めて私とルイスのお店を守ってくれて本当にありがとう』


 フェイが魔法便の文面を指でスライドすると文面が下に移動して文章の続きが表示された。まるっきりスマートフォンとそっくりだ。


『あの後クリスと話したんだけど、あの子、あなた達のことをとても気に入ってたみたい。あの口ぶりから察するに、きっとあなた達について行くって言い出すんじゃないかな』


「ふふ……ベラさんにはお見通しのようですね」


『クリスったら用心棒代の報酬を受け取らなくって、「報酬はナウファスベーカリーの一日食べ放題券でいい」って言ってきかないの。不器用でガサツなところもあるけどそういう子だから、あの子のことよろしくお願いします。追伸、あなた達ならいつでも大歓迎だからまたお店に来てね』



 クリスはショーコとフェイがニヤニヤ顔で自分に視線を向けていることに気付いた。


「……なんだよ。なにニヨニヨしてんのさ」


「いんやぁ~? べっつにぃ~?」


「クリスさんったら不器用さんなんですね~」


「……オイ、どー思うマイさんよ。人の顔見てニヤつく奴って失礼だとおもわねーか?」


 マイは若干困った様子で小さく咳払いした。


「話を戻すが……共和国までの移動手段はどうするつもりだ」


 忘れてた懸念を指摘されたショーコが我に帰る。


「そ、そうだった。さすがにあの馬車で四人乗りはキツイよね」


「山を越え谷を越え行くわけですからかなり苦労することになるかと」


「グ、グムー……それはちょっと不安だなあ……」



「お困りのようじゃな」


「どわぁっ!?」


 突然、隣の席――マイが座っている席とは反対――に座っていた客が口を開いた。

 ショーコはめちゃビックリした。が、よく見れば見覚えのある顔だった。


「……そ、ソドじい!?」


 昔のアニメに出てくるテンプレのような見た目の老人、ローグリンド国王ソドルファスだった。


「ずっと隣にいたの!? っていうか何でこんなとこにいるのさ! 大国の王様がこんな一般市民が利用する喫茶店にいていいの!?」


「かまへんかまへん。わしゃ親しみやすいフレンドリーな王様で売っとるからな」


「ハァーイ、ソドじい~」

「おーぅ」

 通りすがりのご婦人の挨拶に国王ソドルファスはフランクに手を振って返した。


「威厳っちゅーもんは無いのか威厳っちゅーもんは」


「ローグリンドの大王サマがこんなとこで盗み聞きかい。いいシュミしてんな」


 王様相手でも全然態度を変えないクリス。

 だからって意にかえさないソドじいも器がデカイ。


「うむ、話は聞かせてもらったゾイ。我が輩に任せるゾイ。共和国へ行く良い方法があるデ」


「急に大王っぽい口調になるのやめて」


「国王陛下、その良い方法とは?」



 ソドルファス王はニヤリと笑った。


「空を飛んでゆくんじゃよ」

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