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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第二章 Strikes the Klan
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第二十四話 鉄拳制裁タイム

「さて、後はてめーだけだな」


 クリスは敵の大ボスであるロウサンをギロリと睨み付けた。


 幹部は全滅。五十人近い構成員も獣人達に数で押されて制圧寸前。

 新世組の敗色は濃厚だった。


「おもっきしブン殴っちゃえクリス。ああいうサイテーなヤツは痛い目みなきゃ改心しないからね」


「言われるまでもねー。水平線の彼方までブッ飛ばしてやらぁ」


 ショーコのリクエストに、クリスは口角を上げた。



「……馬鹿な……正義は我らにあるはず……我々は人類の……世界の秩序を守る正義の使途なのに……神の御意志に逆らう連中に負けるわけが……こんなこと……こんな……」


 ロウサンという男は、常に余裕に溢れる男だった。自ら立ち上げた不動産業を軌道に乗せ、一代で富を築いた。表向きの世間体も良く、金も地位も名誉も得た、いわゆる成功者というやつだ。

 その陰で、異種族愛差別者を集めた新世組を指導し、|自分の気に入らない連中・・・・・・・・・・・を痛めつけて悦に浸るのも、常に優越感に浸って行っていた。

 自分は上等で、他者は下等だと認識していた。


 そんな彼が、見下していた連中に追いつめられる現状など、到底認められるワケがなかった。


「……~~~っ! 貴様のせいだっ!」


 何かがキレた(・・・)ロウサンは、ショーコを指さして言う。


「は!? 私ぃ!?」


「貴様がっ! “転移者”様の名を騙る貴様が悪いっ! 貴様が……異種族愛者の味方なんぞするからっ! だからそこの金髪女やエルフも異常者の側に着いたんだ!」


 冷静さを失った物言い。その上マト外れ。

 ショーコは顔をしかめた。


「貴様さえ……貴様さえいなければっ! 私が世の中を正してやったのにっ! 異常者どもを排除して、世界を完璧にしてやったというのにっ!」


「……」


「貴様のせいでブチ壊しだ! 我らの正義を! 私の正義をっ! 貴様が邪魔したんだ! 貴様がっ……!」



「……正義正義っていう割に、なんかもう絵に描いたような悪者だよね」


「なにっ……!?」


 ショーコの言葉に、ロウサンは勢いを殺された。


「考え方の違う人を暴力で排除しようなんて、そーゆーのを悪者って言うんだよ。ぜんっぜん正義なんかじゃない」


「っ……黙れ! 間違った思想を持つ連中は淘汰すべきなのだ! 異常者どもは地上からいなくなるべきなのだ!」


「だったらお互いに干渉しないで、それぞれで生きていけばいいだけじゃん。誰にも迷惑かけてないんだし、同じ思想を強制してるわけでもなし。『敵だーっ!』って攻撃しないでさ。なによりイジメはサイテーだもん」


「なにを……生産性の無い恋愛など秩序に反する。そのような行為は神への冒涜に――」


「子供ができなくたって何も悪いことなんかない。誰と誰が愛し合ったっていいじゃん。そんなことで神様が怒るはずがないでしょ」


 ロウサンが反論しようとするも、ショーコはそれを遮って続ける。


「獣人と人間が結ばれたからって誰かが不幸になることはない。空から隕石は降ってこないし、地震で大地が割れることもない。アンタの貯金が減るわけでもないし、部屋にゴキブリが大量発生することもない。いつものように世界は動く。アンタには何も関係ない。ただ幸せな二人組が増えるだけ」


 ショーコは以前聞いた、外国で同性婚を認める法案が可決された際に発せられたスピーチを(うろ覚えながら)引用しつつ言う。


「アンタの考え方を無理矢理変えることはできない。他人の恋愛観を受け入れられないのもわかるし、それは仕方ない。アンタが誰かを嫌いになるのだって自由。だけど……だけど気に入らないからって攻撃するのはやめて。そっとしておいてあげて。自分と違う人がいるってことを認めるだけでいいんだから」


「っ……」


「人の幸せを邪魔するような人間じゃなくて、人の幸せを喜べる人間になろうよ。心構えだけでもさ」



 ロウサンは閉口した。言い返す言葉が見つからなかった。


「ケーッ、甘々の甘ちゃんだなショーコは。とにかく、偽善ぶった説教タイムはここまでだ」


 クリスが拳の骨をポキポキと鳴らして笑みを浮かべる。


「あとは暴力パンチでブチのめして幕引きだ。言っとくがアタシのパワーはハンパじゃねーぞ。山かよってくらいデカイ岩を持ち上げたこともあんだからな」


「あ、やりすぎちゃダメだよクリス。ちゃんと牢屋にブチ込んで反省させなきゃダメだからね。生きて償わせなきゃ」


「はァ~? なにを生ぬるいこと言ってんだショーコ。こいつは完膚なきまでにボコボコにして大陸横断する勢いでブッ飛ばしてやんなきゃ気がすまねーぜ」


「…………くっ……!」


 ――突如、ロウサンは背を向けて逃げ出した。


「あっ! てめコラッ! 今更しっぽ巻くんじゃねえ!」


 クリスが追いかける。



「どけっ! どけえ!」


 ロウサンは新世組の構成員や獣人達を押しのけ、一心不乱に走った。


「こいつ……!」


 クリスは足下の石畳を両手で掴んで地面から剥がし、円盤投げのように放り投げた。

 彼女の怪力は本当に並大抵のものではないらしい。


 フリスビーのように回転しながら飛ぶ石の塊が、ロウサンの背中に直撃した。


「あがっ……!」


 路上に倒れ込むロウサン。

 両手大の石の塊を背中にぶつけられればもう全力で走ることなど不可能だ。


 しかし、タイミングの悪いことに――ロウサンにとっては良いことに――路上を走っていた魔動車が眼前で停車した。


「っ……!」


 必死の思いで立ち上がり、ロウサンはサーベルを手に魔動車に乗り込んで乗客に向けて叫んだ。


「降りろ! 全員今すぐ降りるんだ!」


 乗客達は一瞬理解できなかったが、誰かが悲鳴を上げたのを合図に全員慌てて降車し始めた。

 ロウサンは運転席に乗り込み、運転手を引きずり出して追い出し、急いで魔動車を発車させた。

 魔動車の操縦方法は簡易化されていて簡単だ。ロウサンは加速レバーを倒して速度を上げる。


「くそっ! くそッ! 我々は負けていない! 正義は必ず勝つのだ! 必ず報復してやる! 王城に逃げ込めばヤツらは手出しできない……ほとぼりが冷めるまで姿を隠して――」



「ほォ~、王城内に身内がいるのか。それで今まで組織の活動を隠蔽できてたんだな」


「!」


 ロウサンが振り向く。


 車内に居るはずのない女性――クリスがそこに居た。


「なっ!」


 まさか……乗客を降ろしている間に乗り込んでいたのか。


 ロウサンがたじろいでいる内にクリスはツカツカと靴音を立てながら近づく。


「ま、待て!」


 ――制止も聞かず、クリスの拳がロウサンの顔面に炸裂する。


 窓ガラスをブチ破りながら、悪の親玉は車外へと叩き出された。



 ゴロゴロと地面を転がるロウサン。

 周囲の市民が驚きと恐怖の声を上げる。


「がはっ! ……がっ……」


 身体中にガラスの破片が刺さり、血まみれになりながらもロウサンはなんとか意識を保っていた。

 朦朧としながら顔を上げると、そこはゴンドラ乗り場の目の前の通りだった。


「!……」


 やはり神は私を見守ってくれている。ロウサンはそう思った。


 残った僅かな力を振り絞り、なんとか立ち上がる。

 足を引きずり、腕を庇いながら停泊しているゴンドラへと向かう。


「はあ……はあ……はあ……」


 発車を待っていた乗客達が、突然現れた血まみれのロウサンに驚いて逃げ出した。

 魔動車と同じく、ゴンドラの操縦は簡易なものだった。レバーを倒せばあとは待つだけ。


 行き先はローグリンド王国の第一階層――王城だ。


 ゴンドラが地面から離れる。ロウサンは車内を見渡した。クリスの姿はない。


 窓から地上を見下ろす。魔動車を停車させ、こちらを見上げているクリスの姿がハッキリと確認できた。


「……はは……ハハハハハハ! どうだ! 追いかけて来てみろ! 貴様らの負けだ! ここまでは来れまい! 必ず仕返ししてやるからな! ケダモノどもと楽しみに待ってるがいい! ハハハハハハハ! ハハハハ……ハ……――」



 ――ロウサンは目を疑った。


 地上で、クリスが魔動車を持ち上げている様子が見えたからだ。



「あ……ウソでしょ……」


 ゴンドラめがけて、クリスは魔動車をブン投げた。


 ロウサンの目に最後に映ったのは、ものすごい勢いで自身に迫り来る巨大な鉄の塊だった。

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