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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第二章 Strikes the Klan
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第十九話 素顔

 クリスとフェイの二大防衛大臣はガルガディンとリムル嬢の二大幹部を相手に手一杯になっていた。


 その隙に新世組の構成員達はナウファスベーカリーに火をつけようとにじり寄る。

 あんまりモタモタしているとまたガルガディンの怒号が飛んでくる。彼らも怒られるのはイヤだから仕事をこなすことに必死だ。


 ――もう残っているのはショーコただ一人。

 彼女が新世組の蛮行を止めなければならない。


「あわわわ……ま、待って待って! 放火は罪が重いんだよ! 何十年も牢屋で冷たいご飯しか食べれなくなるよ!」


 ショーコは必死に説得を試みる。自分でも無駄だとはわかっていた。相手は放火もリンチもなんでもこいのイカれたテロリスト集団。そう簡単に説き伏せられたりはしない。


「だ、大体アンタらヒキョーだぞ! 顔隠して他人に暴力振るうなんて! 身元バレるのが怖いなんてただのビビりじゃん! やるなら正々堂々と名乗ってやれ!」


 説得するのは諦めた。論破作戦に移行だ。



「ほう、たしかにお前さんの言う通りかもな」


 仮面の集団の中から一人の男が前へと歩み出てきた。

 肩をいからせながらずんずんとガニ股歩きでショーコの目の前まで来て、ピタリと足を止めた。


「そもそも俺様のこの美貌あふるる顔を仮面なんかで隠すのは気にくわなかったんだ。それじゃあご期待通りに名乗りを上げさせてもらおうかな。ふっふっふっふ……ハーーーッハッハッハッハ!」


 突然の高笑いと共に、男は勢いよく仮面を投げ捨てた。


「俺様の名はデクスター! 泣く子も笑う新世組の大幹部様だ! いずれ世界にその名を轟かせる未来のスーパースター様よぉ! サインが欲しいなら今のうちだぜ! 一枚五千ゼンで書いてやらあ!」


 顔の濃い男だった。まつ毛が長く、眉毛が太い、濃いぃ濃いぃ顔の男だった。


 名乗り終えると同時にデクスターはビリビリとローブを破り捨てる。その様はどこかパフォーマンスじみていた。

 ローブの下の服装は、柔道選手や空手家が着ている道着のような格好だった。しかも生地は金色でラメがキラキラしている。ハデハデだ。ものすごく自己主張の強い男らしい。


「……時代劇の剣客に悪役令嬢と来て、今度はなんだ……? おバカキャラか……?」


「ふっふっふ、ビビるのも無理はない。このデクスター様は腕っ節の強さには定評があるのさ。なんせこの俺はあのガルガディンに勝ったことがあるんだぜ」


「ええっ!?」

 ショーコは血の気が引いた。


「靴飛ばし対決でな!」

 ショーコの血の気が戻った。


「それにリムルだって俺には敵わないんだぜ」


「ええっ!?」

 ショーコは背筋が凍った。


「スイカの早食い対決でな!」

 ショーコの背筋は春を迎えた。


「つまり! このデクスター様は強くて賢くてカッチョイイ、三拍子揃った完璧超人……新世組のニューリーダーに相応しい男よ! なーーーっはっはっはっは!」


 ……ショーコは理解した。時代劇の剣客、悪役令嬢と続いて三人目のこの男のキャラクターは『口だけ達者で自己主張の強いウザキャラ』だと。


「さて、こっちが名乗ったんだ。今度はそっちの番だぜお嬢ちゃん」


「そ、それもそうだ。自己紹介されたらちゃんと自己紹介で返さないとマナー違反だもんね。私は――」


 ――ショーコは閃いた。この危機的状況を切り抜ける打開策を。


 出来るならあまり使いたくない手札だったが、もはや他に手は思いつかない。ショーコはそのカードを切ることにした。



「……わ、私はショーコ。この世界とは違う世界からやってきた“転移者”だよ!」


 その一言に、場の空気が一瞬止まった。


「な、なにィ!? て、“転移者”様ァ!?」


 偉大な肩書きを前に、デクスターは大きく怯んだ。

 彼だけではない。新世組の構成員達も動揺していた。


 やはり“転移者”というネームバリューは絶大だ。どんな悪人であろうと、世界を救った英雄と同じ肩書きの威光には足がすくむらしい。


「……“転移者” ……だと?」


「まさか! 世界を救われたお方!?」


 クリスと対峙していたガルガディンも、フェイと相対していたリムル嬢も同様だった。


 その場に居る者全ての視線が“転移者”であるショーコ一人に注がれる。

 一時的にとはいえ、新世組の蛮行を食い止めることに成功したようだ。


「ま、まさか……ホンモノの“転移者”様なのか!? ……いや、なのですかァ!?」


 デクスターが恐れおののいた様子で後ずさりし、その場に跪く。強大な存在に頭を垂れる、小者らしい仕草全開だ。


「そ、そうだよ。私はホンモノの“転移者”だよ。ちゃんと証明書もあるんだから」

 ちょっと嘘をついた。


「ひ、ひえええええ! 申し訳ございません~~~! そんなこととはツユ知らずぅ~! この顔面の濃いぃ濃いぃ愚か者のご無礼をお許しくださいぃ~!」


 デクスターは何度も額を地面に打ち付け、連続の土下座――土下連座をして許しを請いまくった。


「く、くるしゅうない! くるしゅうないぞよ!」


 ショーコは必死に大物感を出そうと努めた。

 このまま勢いに任せて敵を懐柔しちゃおう作戦に移行する。


「ま、まったく! 君達は一体全体なぜゆえにこんなヒドイことをするのかね! このパン屋の経営者は婚約中の幸せ絶頂にいるところだ! ラブラブカップルに嫉妬する気持ちは痛いほどわかるが、集団でイジメなんてサイテーだぞ! 今すぐこんなことはやめたまえ!」


 目一杯お偉い感じを出しつつ、説教混じりにコトを納めようとするショーコ。

 今までムダにヨイショされたり期待されたりでハタ迷惑だった“転移者”という肩書きも、うまく利用すれば争いを諌められる便利なもののようだ。

 咄嗟の判断だったがこれなら事態を無事に解決できると、ショーコは己のアドリブ力を誉めた。



 だが――


「“転移者”様」


 ――野太く、低い声。


 突然、新世組の構成員全員がその場に片膝をついた。


 その中でただ一人、その場に立ったままの人物――声の主だ。


 仮面を装着しているが他の構成員とは違い、赤い文様が描かれている。纏っているローブも黒ではなく灰色だ。

 見るからに組織の中でも特別な人物だとわかった。


 低い声の男はゆっくりと歩き出し、ショーコの眼前まで来る。

 異様な雰囲気に警戒するショーコに向け、静かで、かつゆっくりとした口調で話しはじめた。


「ようこそ〈ローグリンド王国〉においでくださいました。我ら一同歓迎いたします。偉大なる“転移者”様」


 ショーコは目の前のこの人物が新世組の中でも位の高い人物だと察した。


「あんたが……親玉か」


「いかにも。私が新世組の指導者であります」


 背は高く、体格も大きい。だがどこかで聞いた覚えがあるような気がする声だ。


「だ、だったら言わせてもらいやすがね! アンタんトコの連中がヒドイことばっかしてんですよ! いったいどういう教育してんですか! 責任者だせ責任者! あ、アンタか……ともかく! なんだってベラさんとルイスさんを襲ったりすんのさ!」


「我らが行動を起こすのは“あなた様が救った世界”に真の秩序をもたらすためです」


「……ん……? 私が救った世界……?」


 一瞬、ショーコは目をパチクリさせた。


 どうやら彼らはショーコを十五年前に世界を救った“最初の転移者”と同一人物だと思っているようだ。

 フェイが言っていたように、“最初の転移者”のことを詳しく知る人間は少ないらしい。性別すらも知らないときている。


 ショーコにとっては好都合だった。即興で話を合わせにいく。


「……そ、そうだ! そのとぉーり! 私が世界を救ったんだで! おかげさまで世の中は平和になりました! なのにどうしてキミたちはその平和を乱すようなことをするのだ。ワケを言わんかいワケを!」


「世界は救われた……しかしこの新たな世には未だ混沌が居残っております。我らはそれを正すため……あなた様が造りあげた新たな世の秩序を正すため(・・・・・・・)に行動を起こしているのでございます」


 指導者の男はゆっくりと自身の仮面に手を伸ばした。


 “転移者”であるショーコに対する礼儀なのか、敬意を示すためなのか、素性を隠す仮面を外し、その下の素顔を露わにした。


「!」



「私はこの国で土地を管理する会社を運営しております、ロウサンという者です」


 その男は、賞金首でもなければ武術の達人でもない、殺し屋でもなければ殺人鬼でもない、カタギの人間。



「…………と、土地管理会社の社長が……新世組のボス……?」


 悪の組織のボスは、裏社会に生きるような極悪人が正体だとショーコは考えていた。


 ……しかしその実は、表社会で素知らぬ顔で生活する、社会に溶け込んだ一般市民の一人だった。

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