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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第二章 Strikes the Klan
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第十八話 狂気の剣客と悪役令嬢

 鬼の形相のガルガディンがクリスめがけて刀を振るう。

 クリスはバックステップで躱し、刃は空を斬った。


 さらに足を踏み込み、ガルガディンは再び刀を走らせる。

 クリスは上半身を反らせて回避した。


「ええい、ちょこまかと! 神妙にせい!」


「痛いのは嫌いでね」


 反らした上体を起こしてヴァンピード――銃の引き金を引く。

 打ち出された鉱石の弾丸がガルガディンの右肩を抉った。


「ぐっ!」


 ガルガディンが怯んだ隙に、クリスは左手を腰のベルトに伸ばす。取り出したのはもう一丁の銃だ。

 左手に持ったヴァンピードが唸る。今度はガルガディンの左脇腹に命中した。


「がっ……! ――こざかしい!」


 激痛のはずだが、それを諸戸もせずに刀を振るうガルガディン。

 クリスは右手に持った銃で刃を弾いた。


「ヴァンピードは合成された鉱石製だ。並の攻撃じゃ傷一つつかないぜ」


「ヌウんっ!」


 ガルガディンが一撃、二撃、三撃と連続して剣撃を繰り出す。

 クリスは身を翻して躱しつつ、躱しきれない攻撃は銃身で受け止めて防御した。


「あァ! イライラするゥ!」


 ガルガディンは頭をかきむしり、刀を力強く握り直した。どうやら癇癪持ちらしい。

 クリスは煽るようにニヤついてみせた。


「カッカすると早死にするぜ」


「逃げるなァ! ぶっ殺すぞオアアァ!」


 怒りに身を任せて刀を振り回す。

 クリスは冷静に後退し、距離を取った。


「アンタの得物は刀剣だ。つまるところ、距離さえとりゃなんてことないのさ」


 刀の届かない位置からクレイジーサイコサムライめがけ銃をブッ放す。


「ヌンッ!」


 ――しかし、なんとガルガディンはそれを刀で切り払ってみせた。


「んな!?」


「フン、この距離ならば造作もないわ!」


 ガルガディンの腕前なら、たとえ銃弾だろうと切り落とすことも可能らしい。

 クリスにとっては相手の刀の届かない距離、かつ銃弾を切り払えないほどの近距離を取らねばならないわけだ。

 ガルガディンは近づかなければ攻撃が届かない。だが近いと銃弾をマトモに受けてしまう。いかに攻撃をかわしつつ懐に入り込むかが勝負だ。


 ――この戦いは“距離”が勝敗の鍵を握る。両者は互いに理解した。


 ジリジリと間合いを計り合う。互いに有利な距離を取り合う、まるで剣道の達人同士の試合のようだった。


「……~~っ! なにをしておる! 者ども、さっさと焼き払ってしまえ!」


 イラついたガルガディンが新世組の構成員達を怒鳴りつけた。


 上司に怒られてビクッと萎縮したものの、新世組の面々がサーベルと松明を手にベラとルイスの店――ナウファスベーカリーににじり寄る。


 だが、その前にフェイが立ち塞がった。


「させませんよ」


 黒い手袋を装着し、徒手空拳のような構えをとるフェイ。


「……っ」

「……」


 武器を持っている分、素手のフェイに対して新世組の方が有利なハズだが、彼女の威圧感に気圧され、攻めあぐねていた。


「いけと言っているだろう! 腰抜けどもが!」


「~~っ!」


 再びガルガディンに怒鳴られ、新世組の一人がフェイに斬りかかった。


 ――しかし、フェイの拳の方が速く相手の顔面を弾いた。

 白い仮面はひしゃげ、相手は尻餅をつくように仰向けに倒れた。


 二人目が斬りかかる。

 フェイは左足一本で身体を支え、右足で蹴りを三発、連撃で食らわせた。


 ヤケクソ気味に襲い掛かる三人目。

 迫りくる相手の足を挫き、体勢が崩れたところに両拳の連打を浴びせる。一瞬間を置いて、回し蹴りで〆。


 フェイの戦う様は鮮やかで、美しささえ感じられた。


「す……すごい! フェイの動き、まるでカンフーみたい!」


 ショーコは幼い頃に父親が家でよく見ていたカンフー映画を思い起こした。

 朧気な記憶だが、独特な戦い方は印象に残っており、フェイの動きに重なって見えた。


「これは【ジェン・チー】という武術です。ショーコさんはご存知ないでしょうが、この世界独自の文化で発祥、洗練された格闘術です。長い歴史を誇る、攻撃と防御を同時に行える拳法です」


 どうやらショーコの世界のカンフーとそっくりな武術がこの世界にも存在しているって具合らしい。

 全く異なる歴史を歩んできた二つの世界でも、武術を極めた達人が行き着く型が似た形になるのは偶然なのか必然なのか。


「さあ、次はどなたですか?」


「……っ」

「っ! ……」


 二の足を踏む仮面の面々。武器を持っていても数で上回っていても、たった一人のエルフに敵う気がしないらしい。



「ホ~~~ッフォッフォッフォ! 随分と腕が立つようですわね」


 新世組の面々が躊躇していると、どこからか甲高い笑い声が聞こえてきた。


 構成員達が道を開ける。笑い声と共に一人の構成員が前へと歩み出た。

 バッ! と勢いよく仮面を外して放り投げ、羽織っていたローブをまるでマントを翻すように脱ぎ捨てた。


 金髪をドリルのようにクルクルと巻きに巻いた女性だ。見た目は十代の少女だが、両手に指抜きグローブを装着し肘と膝にサポーターを装着している様から、格闘術を嗜んでいると推測できる。


「あなたの腕を買いましてよ。この新世組幹部であるリムル・ド・リール・デモボルトがお相手してさしあげますわ」


 ドリルお嬢様の名を聞いて、ガルガディンと睨み合いをしていたクリスが反応した。


「マジかよ。デモボルトだって?」


「知っているのかクリス!」

 ショーコがちょっと演技がかった様子で訊いた。


「ローグリンドじゃ有名な名家だ。かなりの資産家で、国の運営にも関わってるほどの大物一族さ。まさかデモボルトの御令嬢がクズ集団の新世組なんかの一員とはな。世も末だ」


「あ、悪役令嬢……」


 戦慄するショーコ。この異世界にはクレイジーなサムライもいるしドリル髪の悪役令嬢までいるのか……もはやなんでもありだな……


「ホ~~~ッフォッフォッフォ! わたくしだけではありません。我がデモボルト家は新世組のスポンサーでもありますのよ。それだけこの新世組という組織は崇高なものということですわ」


 リムル嬢は指をピンと伸ばし、手の甲を頬に当てる形でオホホホ笑いをした。絵に描いたようなお嬢様キャラだ。


「罪のない人々に対して集団で暴力を振るうような組織ですよ」


 フェイがリムル嬢に言う。


「理由あってのことですわ」


「いかなる理由があれど、人を傷つけて良いことなどありません」


「あなた、見かけによらず頑固者ですのね」


 金髪のお嬢様は鼻を鳴らした。


「勝者が正しい……それで良いではありませんか」


 ゆっくりと構えるリムル嬢。その様は先程のフェイの構えとそっくりだった。


 自身の動きの素早さを披露するために、リムル嬢はその場で左右の拳をものすごい速さで連続して突き出して見せた。オマケと言わんばかりに右足での三連蹴りを付け加える。


 あまりの速さにショーコは目で追えなかった。離れていても空を切る音が聞こえるほど。恐るべき速度だ。


「私もお(いえ)の意向で、幼い頃からジェン・チーを学んでおりましたの。大陸で敵無しにまで極めてしまい、退屈していましたわ。あなたならわたくしを楽しませてくださいますわよね?」


「ご期待に応えられるかわかりませんが」


 フェイとリムル嬢は互いに姿勢を正した。

 右拳に左手の平を合わせ、両者共にゆっくりと頭を下げる。

 カンフー映画での挨拶そのものだ。


「よろしくお願いします」



 両者の腕が交差した。

 手首がぶつかり合い、それぞれ逆の方向へと跳ねる。


 リムル嬢が肘を突き出す――フェイは左の手の平で受け止め、すぐさま右拳をリムル嬢の顔面めがけ走らせる。

 だが彼女はそれを読んでいたかのように腕でガードした。


 今度は悪役令嬢が相手の顎めがけ拳を突き出し、続け様に腹部めがけ拳を繰り出す。顎と腹部への連撃だ。

 しかしフェイは右手をまるでペンキを塗るかのような動きで上下させ、連続して防いでみせた。


 ――フェイが蹴りを繰り出す。左足一本立ちの状態で右足による三連打。

 リムル嬢は腕を折りたたんで防御し、反撃にとフェイの攻撃直後の隙に掌底を打ち込む。

 だが直撃寸前のところでフェイは敵の腕を弾いてみせた。


 打撃の都度、乾いた木片か何かが破裂するような音が響く。

 ジェン・チーという格闘術は、打撃の度に炸裂音がするものなのだろうか。


 一方が攻撃を繰り出せば受け止め、攻守が交代する。お互いにクリーンヒットはさせない攻防の連続。

 武術の達人同士の闘い。高度な技術のせめぎ合いだ。


「なるほど。たしかにお強いですね」


「まだまだ小手調べですわ」


 リムル嬢が両拳の連撃をお見舞いする。

 フェイは両の腕でなんとか捌く――


 ――視界がガクンと下がった。

 相手の蹴りがフェイの足を挫いたのだ。両手による連撃を意識させられ、下段攻撃に注意が及ばなかった。


「ホ~~~ッフォフォフォ! 足下がお留守でしてよ」


「くっ……」


 すぐさま姿勢を戻すフェイ。だがここから均衡は崩れてゆく。


「上げていきますわよ」


 リムル嬢のギアが上がる。肘打ち、掌底、蹴りが続々と飛んでくる。

 上、下、右、左……フェイの意識はあらゆる方向へ揺さぶられる。その意識の隙間に針を通すかの如く鋭さで攻撃が打ち込まれる。


 一撃一撃はさほど重くはない。だが鋭く素早い打撃がフェイの身体をゆっくり確実に蝕んでゆく。


「……強い」


 相手はただのお嬢様ではない。自分と同等か……あるいはそれ以上のジェン・チーの達人であるということをフェイはイヤというほど理解した。


「ここまでの腕の方がいたとは……正直驚きました」


「光栄ですわ。アナタも、私が今まで手合わせした者の中で一番の腕です。しかしながら……私の方が一枚上手でございましてよ」


「……これは、少し困りましたね」


 フェイは久々に冷や汗をかいていた。

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