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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第二章 Strikes the Klan
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第十七話 さあ、戦いだ!

「ベラ、ルイス、奥に隠れろ。ショーコ、フェイ、迎え撃つぞ」


 フェイが頷く。ショーコは素早く首を左右に振った。


「クリス……!」


 ベラが不安そうな声を漏らした。


「心配しなさんな。この店は絶対に守る。仕事だからな」


 クリスは扉を開け、店の外へ飛び出した。

 フェイも続く。ショーコはしばらく唇を噛みしめて考えていたが、苦渋の表情で二人に続いた。



 店先から通りの奥に目をやる。

 遠方の灯りがどんどん近づいて来ていた。それにつれて灯りの数が二つ、三つとどんどん増えていく。

 ――次第にその灯りは松明の炎だと視認できた。


「……多いな」


 クリスの顔が険しくなった。


 白く、目の部分だけが切り抜かれている仮面を被り、黒いローブを纏った不気味な集団が道幅を埋めつくすほどの数でゆっくりと近づいてくる。

 その数は五十人以上。背格好は十人十色。恐らく老若男女様々な構成員だ。


「クリスさん、数が多すぎます。これだけの数を私達だけで相手するおつもりなのですか?」


 フェイがクリスに問う。


「ビビってるんだったら逃げていいぜ。アタシ一人でもやるから」


「いえ、これだけの人数を入れられる牢屋があるのか心配になっただけです」


「わははは。言うじゃねーの。気に入ったぜ。フェイ……だったか?」


「ルカリウス公国外交官、フェンゼルシア・ポート・ユアンテンセンです」


「アタシはクリス……クリスティーナ・ピッドブラッドだ」


「女性らしいかわいらしいお名前ですね」


「……チッ、だからフルネームは言わなかったんだよ。これからも今まで通りクリスって呼べよ。いーな!」


「わかりました。クリスティーナさん」


「て、てめーコノヤロ!」


「ふふふ……」


「……はははは」


 フェイとクリスは笑った。声を出して笑った。


 これからたった三人で五十人以上を相手に戦おうとしているが故の現実逃避なのか、それとも余裕からくる笑いなのか、ショーコにはわからなかった。



 新世組が目と鼻の先の距離まで近づいてきたところで、クリスが大きな声で制止した。


「そこで止まれ」


 仮面の集団は足を止めた。言う事を聞いたのか、最初から止まるつもりだったのかは定かではない。


「アンタらが新世組か。揃いも揃って黒のバスローブに仮面たあダセーカッコしやがって。まあそれはいい。服の趣味は人それぞれだからな。だが集団でイジメるようなカス連中は黙って見過ごせねーな。一体なんだってベラとルイスを……この店を襲うんだ! ワケを言え!」


 ……新世組の答えは沈黙だった。


「口がきけないってのかい。それとも今答えを考えてる途中なんてゆーんじゃねーだろーな」


「シャイなのかもしれません」


 フェイが言うとクリスは小さく笑った。だがすぐに険しい顔に戻る。


「黙ってねーで答えろコラ! アタシが冗談を笑ってられる内に理由を言え!」



「……神の御意志に背いたからだ」


 誰かが言った。


 それを合図にしたかのように新世組の面々は腰に携えたサーベルを鞘から抜いた。


「お、やるってのかい。言っとくけどな、普段はお茶目でカワイイクリスちゃんだけど、いざケンカとなると荒っぽくなっちゃうんだぞ。どうなっても知らねーからな」


 クリスが警告するも、新世組は抜いた刃をそのまま鞘に戻すようなことはしなかった。


 サーベルを構えた構成員の一人が右足を一歩前に出した。



 ――瞬間、聞き慣れない音が獣人街に響いた。


 その場にいたほとんどの者が初めて聞いた音。


 ……だがショーコにとってはテレビや映画で何度も聞いた音――銃声だ。


「ぐあっ……! が……」


 新世組の男が足を押さえてその場に倒れ込んだ。


「……銃!?」


 ショーコは目を疑った。


 銀色の、L字型の武器。それはまさしくショーコが元居た世界で、映画やドラマなんかで頻繁に目にする“銃”そのものだった。

 その“銃”がクリスの手に握られている。

 異世界にも銃というものが存在していたのかと驚いた。


「こいつはドワーフと魔導師が共同製作した特別製の武器さ。“ヴァンピード”って名付けた。魔術の術式が組み込んであってな、加工された鉱石を爆発的な勢いで射出するんだ。まっ、安心しな。足を貫通したくらいじゃ命にまで風穴空かないからよ」


 どうやらショーコが知る“銃”とは似て非なる物のようだ。“最初の転移者”がもたらした案を基に、異世界なりの技術で再現されたものといったところか。


「っ……!」


 新世組の面々がたじろぐ。

 サーベルが届かない距離から一方的に攻撃出来る未知の武器――銃に恐れをなしているのだ。


「ホラどうしたぁ! ビビってんじゃねーぞ! 賽は投げられたんだ。テメーらが投げたんだろーが! 今更ワビ入れたって容赦しねーぞコラ!」


 自身で言った通り、口が荒っぽくなるクリス。


「クリスさん、口が悪いですよ。もう少しお上品にいきましょうよ」


「おっと、そうだな。そうしよう。オラ、根性あるヤツはいねーのか! いるわきゃねーよな! 寄ってたかって弱いものイジメするようなゴミカス集団だもんなこの道端のタンカス野郎アホンダラボケカスウジ虫!」


 フェイは肩をすくめた。



「随分言ってくれるじゃないか」


 仮面の集団の中で一人が口を開いた。

 大勢の構成員達を押しのけて、ガタイの大きい構成員が前にずいっと出てきた。

 ローブの上からでも筋骨隆々の身体だと察せられる。見るからに他の面々とは雰囲気が違った。


「へえ、言葉がわかる奴もいたんだな」


「新世組の掟その二、幹部に満たない者は言葉を発するな」


 ガタイの大きい男が言う。


「なんだその妙なルール。下っ端は意見も言えないってのか? 掟その一はなんなんだよ」


「新世組の掟その一、新世組のことは口外するな」


 ショーコは「ぱ、パクリだ! そりゃー映画のパクリだー!」と叫びそうになったが、なんとか我慢した。


「ってこたぁアンタは幹部ってわけか。クズ組織のクズ幹部になるにはどんだけクズ行為を繰り返しゃ昇格できんだ? 子供に手を上げるとか、靴に画鋲入れるとか、売店で手間取る老人を後ろから急かすとか、そんなとこか?」


「くだらん。煽りなど無駄だ」


 男は仮面を投げ捨て、纏っていたローブを破り捨てた。


 赤い髪を後ろで結った、目つきの鋭い男。顔には多くの傷跡が刻まれている。着物のような服と袴で、まるで時代劇の剣客のようだ。

 戦いの素人であるショーコにもわかる……この男は強キャラだと。


「小生はガルガディン。“撫で斬りのガルガディン”。新世組が幹部の一人よ」


「なでぎりのガルガディン……この異世界って西洋風ファンタジーな異世界だと思ってたけど、まるっきり和風の人まで出てきた……」


 ショーコは自分が転移してきた異世界のあらゆる要素ミックスっぷりに冷や汗をかいていた。

 着物と袴も、この世界に元から存在していたか、あるいは“最初の転移者”が持ち込んだのだろう。


「あれは……我がルカリウス公国出身の賞金首。ローグリンドに潜伏していたとは」


 フェイはガルガディンの名に聞き覚えがあった。彼女の仕える公国が輩出した悪名高き狂人なのだ。


「へえ、そんじゃあ賞金稼ぎのクリスちゃんにピッタリのお相手さね。悪いけどメシのタネになってもらうぜ。まっ、全然悪いとは思ってねーけどな」


 ガルガディンは着物をはだけて上半身裸になると、腰に携えた鞘から刀を抜いた。胸にも背中にも無数に傷が残るその姿が彼の修羅の道を物語っている。


「名刀“血抜き”が疼いておるわ。貴様らの生き血を吸わせろと」


「こ、今度は日本刀~!? なんでもありかよこの異世界!」


 どうやらこの世界には日本刀と瓜二つの刀の文化が独自に誕生していたらしい。ショーコの世界の日本刀は異様に高度な技術で製造される代物だが、どこまで性質が似通っているかはわからない。

 あるいは“最初の転移者”が刀という文化を持ち込んだのか……なんかそればっかりだな。


「ゆくぞ賞金稼ぎ! 三昧におろしてくれるわ!」


 ガルガディンは鞘を投げ捨て、刀を斜めに構えた。


 それを見てクリスが笑う。


「ムハハハ! ガルガディン敗れたり!」


「なに?」


「勝つつもりなら何故鞘を捨てる」


「っ……! 減らず口をっ!」


 ガルガディンは刀を両手で振り上げ、クリスに襲いかかった。

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