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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第二章 Strikes the Klan
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第十六話 誰かを愛するのに許しが要るかい?

 第三階層――獣人街。


「はぁ……結局ボスの手がかり見つからなかった……このままじゃヤバヤバ集団と戦うハメになっちゃうよ……この世界にお手頃な生命保険あるかな……」


 前途多難。この先に待ち受ける危険な戦いにうつむき加減のショーコ。


 ふと顔を上げると、周囲の獣人達から妙な視線を向けられていることに気付いた。

 なんとなく注目されている気がする。それも余所者を見るような冷たい視線だった。


「ねえフェイ、なんか私達……白い目で見られてない?」


「獣人達は仲間意識が強いと言われています。人間のショーコさんやエルフの私が獣人街を歩いてるのが珍しいのでしょう」


 差別の意識はないのだろう。それでも自分達と違うモノ(・・・・)を見ると好奇の目を向けてしまうのは生物の性というやつだ。



 とある商店の前でフェイが足を止めた。獣人街に一店舗だけある時計屋だ。


「ショーコさん、少しよろしいですか?」


「ふ? なに?」


「こちらのお店、クリスさんに聞いたのですが情報屋でもあるようなのです。新世組についての情報を仕入れてきますので、少し待っててもらえますか?」


「ああ、はいはい。どうぞどうぞ。私は大人しく外で待ってますよ。心配しないで。知らない人に飴ちゃんあげるって言われても着いていかないから」


 ちょっと投げやり気味なショーコを尻目に、フェイは商店の扉を開いた。



 店内にはガラス張りのショーケースがズラリと並んでいる。高級そうな腕時計が展示され、壁には所狭しと掛け時計が飾られていた。


 異世界の時計というものも、ショーコの世界のものと大差がなかった。記されている数字も同じもの。十五年前に“最初の転移者”によって持ち込まれた文字記号だ。


「いらっしゃい。ピンからキリまでどんな時計でも揃ってるよ。腕時計をお探しかい? それとも懐中時計? 柱時計も用意できるよ。だが腹時計だけは無いんだなこれが」


 猪の顔をした獣人の店主が冗談混じりで出迎えた。商売人らしいハツラツとした笑顔だ。


「すみません、買い物に来たのではないのですが……ここで情報を仕入れることができると聞いてきました」


「ああ、そちら(・・・)のお客様でしたか。なんでも聞いてください。ご要望とあれば王城の内状も――」


「新世組についてお訊きしたいのですが」


 ――途端に店主の顔から笑みが消えた。

 神妙な面持ちで店の外の様子を伺い、小声で話し始める。


「……お嬢さん、この街の者じゃないな? じゃなきゃ命知らずのバカか、よっぽどのバカかだ」


「聞かせてもらえませんか? 新世組の情報を」


「よせ。そんな軽々しく口にするんじゃない。連中の怖いところはな、どこに構成員がいるかわからないってことだ。家に火を着けたりする連中が、普段は一般市民として生活してるんだ。どこの誰が連中の一味か知れない……そこの通りを歩いてる奴かもしれないし、向かいの店で買い物をしてる奴も一員かもわからん」


 フェイは振り返って外の様子を見た。誰もこちらを見ている様子はない。それでも、視界に入る者全員が疑わしく見えてきた。


「奴らのことは口にしない方がいい。いつどこで誰が聞いているかわからん。アンタからしてみりゃ、俺が新世組の一員だったらどうするんだって話だ」


「なるほど……参考になりました。ありがとうございます。情報の代金はおいくらでしょうか?」


「こんなもんで金もらうほどのことじゃないさ。代わりといっちゃなんだが、なにか時計買ってってくれよ。これなんかどうだい? 耐衝撃性特化の懐中時計。その名もガンジョーショック! 大砲が直撃したって壊れないシロモノだよ」


「ではそれで」


「ラッピングは?」


「お願いします」



 フェイは特に必要もない時計を買って店を出た。待機しているハズのショーコを探して周囲を見回す。


「い~ろ~は~に~コンペイトー、えいやーっ!」


「わ~! こんなの無理だよ~!」

「ぜってークリアしてやるぞー!」


 ショーコは獣人の子供達と縄を使って遊んでいた。

 幼い子供達に混じって全力で遊ぶショーコの姿は端から見れば弟や妹達の面倒を見ているいいお姉ちゃんだ。まあ、単に精神年齢が近いのだろう。


「ショーコさん、お待たせしました」


「あ、フェイ。もう用事済んだ? そんじゃ子供達よ! ここらでお開きとしますかぁ!」


「えーもうバイバイするのー?」

「もっと遊びたーい」


「ショーコお姉さんも忙しいからね。君達みたいに食べて寝て遊ぶ以外にもやることあんの。あ、ほら、向こうで手ぇ振ってるウサ耳の人、あれ君達のお母さんじゃないの?」


 通りの向かいにウサギ耳の獣人が手を振っている。隣には犬や猿の獣人婦人も見えた。どうやら子供達の保護者らしい。


「あ、ホントだー。迎えにきてくれたんだ。帰らなくちゃ!」

「じゃーねーお姉ちゃん! 遊んでくれてありがとー」

「また遊ぼうぜ!」


「宿題やれよ~。歯ぁ磨けよ~……で、フェイ、どうだった? なんか新世組の情報つかめた?」


「ショーコさん! そんな軽々しく新世組の名を口にしちゃダメです!」


「えっ」



 ――ショーコ達がパン屋に戻る頃には日が暮れていた。


 魔法で灯された街灯が煌々と夜道を照らす中、ショーコとフェイはパン屋の戸を叩いた。


「やあ、帰ったかい。さ、中に入ってくれ」


 ショーコ達を店内に招き入れ、ルイスは外の様子を眺めてから扉を閉めた。


「ルイスさん、これ結婚のお祝いにプレゼントです」


 先程購入した懐中時計が入った袋を手渡すフェイ。


「わあ、ありがとう」


 話のついでに買った物だと知らずに喜ぶルイス。そんなものを結婚祝いと言って渡すフェイもちょっとズレているが。


「で、二人して出かけてったのは新世組をブッ潰す手を探しに行ったんだろ? 首尾は?」


 クリスの問いにショーコは悔しそうに首を振った。


「マコトにイカンながら……うまくイカンかった……」


「ま、だろうと思ったよ」


 ショーコがガックシ肩を落とすと、店の奥からベラが顔を出した。


「まあまあそう落ち込まないで。これ食べてゆっくりしてちょうだい。新メニューのパンの試食も兼ねてね」


 彼女が持つトレーには焼きたてのパンが並べられていた。大きさも形も様々で、焼き立ての小麦の柔らかな香りが鼻を撫でる。


「わあ、おいしそう。このパンは何が入ってるんですか?」


 ショーコは手頃な大きさのパンを手に取ってかぶりついた。


「レバーよ」


「おぼげえええええ!」


「あら、口に合わなかった?」


「げはっ! ごはっ! 合う合わない以前の問題だよ! パンのパサパサに牛レバーが合わさって気持ち悪いよ!」


「私とルイスみたいに全く異なる種族が一つになるようなパンをイメージしたのだけど」


「そんなエキセントリックな芸術性をパンに求める必要はないよ!」


「こっちのは美味いぞ」

「私のも美味しいです」

 クリスとフェイがパンを頬張っている。どうやら当たりらしい。


「えぇ!? 二人のは何パンなの?」


「ピザが入ったパンとサンドイッチが入ったパンよ」


「……それは……それはどうなんだ……」


 言葉に詰まるショーコ。ツッコむのに適した言葉が浮かばない。


「レバーパンは失敗かぁ。やっぱり全く違うモノ同士が纏まるなんて無理なのかな……」


 シュンとするベラを見て、ショーコは慌ててフォローに入る。


「い、いやいやそれとこれとは別だよ! ベラさんとルイスさんの結婚はうまくいくよ! 保証はないけど祝福はするから! おめでとう! おめでと!」


「ありがとう。異種族愛に理解を示してくれて」


「え?」


 言葉の意味を理解できていない様子のショーコに、フェイが補足説明する。


「獣人と人間の異種族カップルは理解されないことも決して少なくありません。世間には拒否反応を示す人もいるんです。異種族間では子を成せないこともあって、生産性が無いと言って批判する声もあるそうです」


「っ……! そうなんだ……知らなかった……」


「いるんだよ。他人の人生にケチつけるクソッタレな連中ってのが」


 クリスが吐き捨てるように言った。


「昔から異種族愛というものはあったのですが、かつては迫害の対象でした。“最初の転移者”様のおかげで世の中が変わってきて、異種族愛も受け入れる風潮が広がりつつあります。それでも依然、嫌悪感を示す人はいるようです」


「……」


 ショーコには理解し難かった。ベラとルイスの様子を見るに、何もおかしいところなどない。ただ人間と獣人という、種族が違うだけの二人だ。何故異端扱いされるのか全く理解できなかった。


「まあ……私達は世間から見たら普通じゃない(・・・・・・)ってことだからね。そういうはぐれものを気に入らない人達って少なからずいるものだから」


 ベラは苦笑いを浮かべた。

 笑ってはいるが、とても苦しそうだった。


 ショーコはいたたまれない気持ちになった。何も悪いことをしているわけでもないのに、なぜ二人がそんな扱いを受けねばならないのか。

 ただ愛し合う二人が結婚する、それだけなのに。


「大丈夫だよベラさん! 私は獣人だろうが人間だろうがぜーんぜん気にしないからね! 私は二人の結婚をお祝いするよ!」


 ショーコはベラを力いっぱいハグした。

 お金にも何にもならないが、ベラにとってはそれだけで充分だった。


「……ありがとう。そう言ってくれて本当に嬉しい」


 ベラも精一杯のハグでお返しした。


「ああ……女の子同士が抱き合う光景……美しい……心のシャッターカシャカシャ……」

 二人が抱き合う様子をルイスは遠巻きに見ていた。泣きながら。感動の涙ではあるのだが、ちょっと意味が違う感動だった。



「……外が静かすぎる」


 クリスが何かに感づき、椅子から立ち上がって店の外に飛び出した。


「どうしたのクリス?」


 ショーコが声をかけるも、クリスは黙ったまま大通りの遠方を見つめている。


 ――暗闇の奥にうっすらと灯りが見えた。


「来た」


「ふ? 誰が?」



「新世組だ」

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