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スデに世界は救われた!! ―とっくの昔にSAVED THE WORLD―  作者: カーチスの野郎
第二章 Strikes the Klan
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第十五話 真実はいつもじっちゃんのディナーの後で

 ――翌朝。


 第一階層――王城。


 ショーコはフェイを伴い、ローグリンドの王都最上階層に向かうゴンドラの中で揺られていた。


「ショーコさん、お城になにかご用があるのですか?」


「私、考えたんだよ。どうにかしてヤベー集団と戦わないで済む方法を。だって考えてもみてよ。放火したり裁判官ボコボコにしたりする連中なんだよ。私みたいな可憐でか弱いカワイイ女の子が相手するような連中じゃないよ」


「ははは」


「えっ、笑うとこじゃないんだけど」


「それで、どうしてお城へ?」


「王様に解決してもらうんだよ。ローグリンドの王様なら自分の国でテロなんか放っておくわけにはいかないでしょ」



 ――が、


「ダメだ」


「えっ」


 王城の城門でショーコとフェイは足止めをくらった。


 国王の側近であり、ローグリンド王国の宰相である男――ルシウスが二人の前に険しい顔で立ち塞がった。

 四角く強ばった顔がまるで巨大な石の壁のように思える。これ以上一歩も足を踏み入れさせないという確固たる意志が感じられた。


「陛下はご多忙の身。貴様のような小者の謁見など認められるわけがなかろう」


「こっ……小者」


「すみません、私はルカリウス公国外交官のフェンゼルシア・ポート・ユアンテンセンと申します。国王陛下とお話をさせてもらえませんでしょうか」


「外交官だと言うのならきちんと事前申請を通しておくべきでしたな。飛び入りなど非常識にもほどがある」


 フェイとルシウスの間にショーコが割って入る。


「この王都で新世組とかいう連中がやりたい放題してるんだよ! 王様ならなんとかしてよ!」


「その件については憲兵を動員して捜査中だ」


「じゃ、じゃあ獣人街のパン屋に脅迫状が来たから護衛を派遣して! ケンペーでもペンギンでもなんでもいいからさ!」


「本物かイタズラかわからんような犯行予告に一々構っていてはキリがない。それに、憲兵を派遣するかどうかは陛下が判断される。貴様らが口出しすることではない」


「なっ……!」


「分かったなら帰れ。陛下は忙しいのだ」


「人の命よりも大事な仕事ってなんなのさ。ゴルフしながら会談とか、高級料理の寸評会じゃないだろな」


「……」


「ちょっと、なんで黙るの」


「とにかく、これ以上居座るなら力ずくで追い返すぞ」


 このままでは埒があかない。フェイは最後の一手、「ここにおわすのは“転移者”様だぞ!」作戦を発動することにした。

 ショーコが“転移者”であると明かせば、さしものルシウスもその威光にひれ伏すだろう。


「国王陛下に伝えてください。こちらのショーコさんは――」


 ――が、ショーコがフェイを制止した。


「フェイ、もういいよ」


「……ですが」


「こんな人達に頼る方が気分悪いよ」


 ショーコは踵を返し、門前から去ろうとした。

 だがこのまま何も言わずに帰ったのでは後味が悪い。ショーコは再びルシウスに向き直り、言ってやった。


「国王サマに言っといて。あんたの側近は意地悪で嫌味な顔面ドッスンヤローだってね!」


「なっ……!」


「フェイ、走れ~~~!」


「えっ、ちょっ、待ってくださいショーコさん!」


「くぉらぁ! またんか貴様らぁー!」


 二人は全力疾走で逃げた。ルシウスの怒鳴り声を背に受けながら。



 第二階層――観光区。


「はぁ~~~……ごめんねフェイ。これでルカリウス公国とローグリンド王国の国交は断絶かもね」


「大丈夫ですよ。あの人、悪口ばっかり言うから国際交流の場でも煙たがられてるんですよ」


 国家権力を頼る道は断たれた。とはいえ、ショーコとしてはイカれた暴力集団に真っ向から立ち向かうのは避けたかった。

 腕力は非力、足も速くない。得意なことといえば細かすぎて伝わらない映画のワンシーンモノマネと残り少なくなったハミガキ粉を捻り出すことくらい。

 なんとかヤベー連中と戦わなくて済む方法を考えようと、無い頭を雑巾のように捻る。


「そうだ! 奴らのボスを探しだして先に捕まえちゃえばいいんだ! これは天才の発想ですわな!」


「なるほど、どうやって正体を曝くんですか?」


「過去に新世組が関わった事件を調べて、手がかりを探すんだよ」



 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 王都立ローグリンド図書館――世界中の様々な書物が収められており、あらゆる歴史を学ぶことができる。

 本館の他に別館が二棟、魔法による映像記録が保管された魔術棟に加え、船や馬車等の乗り物の歴史を展示したホールと、計五棟もの建物を有する巨大施設だ。


 二人は王都で過去に発行された新聞が保管されているコーナーを訪れた。


「新世組が関与してそうな事件の記事を調査しよう。フェイはそっちの棚を」


「わかりました」


 ショーコはフェイと分かれ、捜査に入った。


 過去の新聞をごっそり抱え、テーブルに広げる。

 探すべきは犯人が不明なものや迷宮入りしている事件だ。


 クリスから聞いた事件の記事を見つけた。記事の冒頭から目を通す。


「ひどい……」


 居住区で大火事が発生し、住宅三十五棟が全焼。出火原因は不明……

 商業区で集団リンチ事件。犯人は依然逃走中。被害者は王都から逃げるように去った……


 敵の中にはおそらくマスコミにも通じている者もいるのだろう。情報を操作して組織の存在を隠蔽しているようだ。


 王城直属の裁判官が失脚した記事を見つけた。

 土地の権利を巡る裁判の最中、裁判官が夜道で複数人に暴行された。奥歯を三本、腕の骨を一本、肋骨を六本へし折られるという重傷だった。

 犯行グループを捕まえる為に憲兵が動員されたが、何の手がかりも掴めぬまま調査は打ち切りになったようだ。


「こんな連中が野放しなんて……この国の王様はホントに何をやってんだ。お飾りなんじゃないの? まるでただのカカシですな」



「陛下を批判するとは最近の若者は怖い物知らずじゃな」


 突然、見知らぬ男が話しかけてきた。ショーコが顔を見上げる。


 立っていたのは小柄な老人。頭頂部に髪は無く、左右の耳の上に白髪が申し訳程度に残っている。

 ショーコは幼い頃にアニメで似たキャラクターを見たことがあるような気がしたが、具体的には思い出せなかった。


「まさか王様の悪口言ったから逮捕なんてディストピアじゃないよね?」


「残念ながらその法律はまだないな」


 ショーコは「なんだこのじーさんは……」と思った。と、同時にあることに気づいた。

 見知らぬ男性に突然話しかけられたこの状況……も、もしやこれは!


「ま、まさか……これってナンパってやつ!?」


「残念ながらわしは熟女好きじゃ」


 ショーコはちょっと安心した。

 同時に、遠回しにフラれたような気がしてなんだかムカついた。


「なんなのさおじいちゃん。あたしゃこの国の犯罪歴を調べるのに忙しいのっ。話し相手なら孫にしてもらって」


「わかっとらんなぁ。わしはな、ものすご~い秘密を抱えてる謎の老人じゃぞ。ふっへへへ。今のうちにコビを売っとく方がいいぞ」


「は~……そうですか」


「あっ、真に受けておらんな。このソドじいをバカにしちゃいかんぞ」


「バカにしてないよ。お年寄りには敬意を払うのがショーコちゃんのポリシーだからね。敬老の日に学校休みになるんだから感謝してるよ」


「で、ショーコとやら。熱心に記事を漁っているがなにかお探しかな?」


 ソドじいと名乗る老人が椅子を引いてショーコの向かいに座った。


「新世組のシッポを探してるんだよ」


「しんせいぐみ?」


 ソドじいは頭上にクエスチョンマークを浮かべた。


「この事件もこっちの事件も、新世組っていう連中が一枚噛んでるんだって。確たる証拠はないけど、放火したり集団でリンチしたり、悪い連中だよ」


 ソドじいの顔が険しくなる。


「この国にそんな不届きな連中がいるのか」


「知らなかったの?」


「わしはこのローグリンドを愛している。これほど素晴らしい国は他にないと思っていた。あらゆる種族が手を取り合って共に暮らし、平和を謳歌する理想の国。それを脅かす輩がいるなんてこれっぽっちも知らなかった」


 ソドじいの語気が次第に強くなっていく。彼の言っていることは本心のようだ。


「ローグリンドを荒らすクソったれの連中がいるというのならわしも黙ってられん。その新世組とやらは一体どこにおるのだ?」


「それを探ってるんだよ。でも手がかりがなくて……」


「ふむ……こういうものはな、必ず何か共通項があるものじゃ」


「ふむ、なるほど。じいちゃん鋭いこと言うね」


「ソドじいを舐めるんじゃない」


 ショーコは改めて記事を見返した。どの事件を見ても、現場も状況もバラバラで一貫性が無い。


「共通項って言ったって……てんでバラバラだよ」


 唯一共通するのは全てローグリンド王都内で起こっていることくらいだ。

 ショーコは無い頭を雑巾みたいに絞る。


「考えるのじゃ少女よ。これらの事件で誰が得をするか。誰が損をするか。そこが重要だ。必ず一本の線で繋がる“なにか”がある」


 住宅街で大火災が発生して誰が利益を得る?


 裁判官を失脚させて誰の懐が潤う?


 パン屋を襲って誰が儲かる?


 一体誰が……――



 ――……


「ショーコさん」


 フェイの声がショーコの鼓膜を叩いた。


「はっ……! なんだ夢オチか……」


 いつの間にかショーコは眠ってしまっていた。

 気づけば向かいに座っていたソドじいの姿もない。


「お休みのところすみません。なにか手がかりは見つかりましたか?」


「サッパリ。フェイは?」


「犯人が特定されていない事件を調べました。商業区での食い逃げ事件、居住区でのゴミを分別せずに放置されていた事件、この図書館でも貸し出しした本が二週間も返却されていない事件など……」


「なるほど、収穫なしか」


「もう日が暮れます。お店に戻りましょう」


「ゲッ、もうそんな時間? うう……やっぱ戻らなきゃダメ? このままとんずらってのはナシ?」


「ショーコさんの良心が咎めないのなら」


「……わかったよ。でも私は戦わないからね! フェイが悪者やっつけてね!」


「はは~ん、ショーコさんはボスキャラを狙うんですね。わかりました。下っ端達はお任せください」


「こ、この子私に全幅の信頼寄せすぎてる……」

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