第一話 磯村尊
これより本編が始まります。
春の穏やかな日の昼過ぎ、磯村尊は一人、海岸にいました。
「よし、これで完了かな……」
尊は天幕を張り、遮光板を六枚用意し、茣蓙を敷きます。
「飲み物は……、お茶でいいか」
尊は焚火をたき、お湯をわかしながら、釣り上げた魚を串刺しにして焼きにしつつ、腕時計で時間を確認します。
「そろそろ来る頃だよな」
と、尊が呟いたとき、五人の男女が近づいてきました。
「やっぱり、もう来てる」
田所譲は声を掛けます。
「え!もう来てんの?早えよ、日食は昼過ぎだろ?」
遅刻常習犯の田辺章は半ば呆れています。
「あんたが遅すぎるんじゃ!」
有田恵美は口を尖らせています。
「尊は朝から準備していたんでしょ?」
杉田美沙が尊を気遣います。
「テントとか茣蓙もしいて、ご飯の準備までして、尊君ありがとうね」
岡田摩耶が焼き魚を見ながら感謝を伝えます。しかし、尊は恥ずかしそうに頭を掻きながら、
「いや、昨日の夕方からやってる…」
「「「「「早すぎじゃ!」」」」」
五人の声が綺麗に重なりました。
「なんだよ、いいじゃんか。久しぶりにキャンプしたかったんだよ」
皆の総突っ込みに尊はたじろぎます。と、そこに若干焦げの臭いが漂ってきました。
「尊君、お魚大丈夫?」
摩耶が魚の現状に気付きました。正に焼き焦げる直前だったのです。
「ヤベ!」
尊は急いで魚をとり、皆に食べるよう促します。。
「美味しい、これイシモチだよね?」
誰よりも早く口にした美沙が尊に言います。
「いいのが釣れたんだよ。ハゼも釣ったから後で味噌汁にしような」
尊は笑顔で言いました。