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KAGURA  作者: 瀬戸玲
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3.保護




 女がひとり。


 車の座席にもたれかかり、目を閉じている。




 人形のように美しい女だ。


 歳は25、6。


 掘りの深い顔立ちで


 透き通るようなプラチナブロンドの髪を腰まで垂らし


 肌は陶器のようにきめ細かくなめらか。抜けるように白い。


 くすんだ灰色のコートを羽織り


 その中で腕を組んでうつむいている。




 目を閉じたまま、女はそっと薄い唇を開いた。





 「アダム」





 電車の中で響いていたのと同じ声で


 言う。





 「わかっているわね。


  ファースト・プライオリティーは」





 言いながら目を開く。


 聡明な二つの光をはなつ


 青い瞳。
















 『その人間を保護すること』




























 同時刻。


 地下鉄を走る電車の車内。




 拳銃をまっすぐに構えた男。


 黒の短髪。黒の瞳。黒のコート。黒のセーター。黒のスラックス。黒の靴。黒の手袋。


 黒の拳銃。



 「わかっている」



 全身黒づくめの男は短く言う。




 ギチ、ギチ、ギチ、ギチ。




 ぎこちない音を立て


 警戒するように男のほうを向く金属人間。


 男はその眉間に照準を合わせ


 引き金を引く。



 

 ガキンッ

 ガキンッ

 ガキンッ

 ガキンッ

 ガキンッ

 ガキンッ




 金属人間の頭部に向けて立て続けに銃弾が発射された。


 少女は床に膝をついて両手で耳をふさぎ


 祈るような恰好でうずくまっている。


 そのうえに容赦ない銃声と着弾の音が降り注ぐ。




 男は引き金をひく指を休めない。


 金属人間の顔の表面がはがれ


 肩の部分から右腕が吹っ飛んで


 後ろへ飛んで行く。


 金属人間は銃弾を浴びながら前へ進もうとするが


 片足を上げた途端


 弾の勢いに押されてひっくり返った。




 大きな音を立てて金属人間が仰向けに床に倒れる。


 男はその上から何発も銃弾を撃ち込む。












 やがて



 男は撃つのをやめ


 ゆっくりと


 その両腕を下ろした。




 金属人間はあらかた表面がはがれ


 内部の何万本もの金属製のコードもまた


 めちゃくちゃに破壊されている。










 「…………げほっ、げほっ、げほっ、げほっ」




 唐突に少女が咳き込んだ。


 男は近づき、かがみこむ。




 「大丈夫か?」


 「………………」




 少女は震えながら


 そっと両手を耳から離し


 男を見上げた。



 少女の目に映ったのは意外なほど若い男の顔だった。


 目つきは鋭いが、年は20そこそこというところだ。


 端正な顔立ちは、表情のないせいかどこか無機質な印象がある。



 男の顔ををにらむようにじっと見つめたあと


 少女は倒れた金属人間を振り返った。


 金属人間はまだ痙攣するように手足を震わせていたが


 立ち上がってくる様子はない。


 もう一度男の方を向き、彼女は口を開く。




 「あなたは………………………


 〈あなたたち〉は…………だれ?」




 「俺たちは 【人類保護局】 のエージェントだ」




 男は無表情のまま言う。簡潔に。


 最小限の言葉ですべてを済ませようとするかのように。




 「俺はアダム。登録ナンバーは10824691。所属は」



 「待って」




 少女は困惑した表情で声を上げた。




 「意味が、わからない」



 「わかる必要はない」



 「どうして」



 「君は人間だからだ」



 アダムと名乗る男は短く言って、立ち上がった。


 少女はますます困惑した表情で、



 「待ってよ。何、それって……」



 言いかけて、止まる。











 右腕の振動。



 (また………)



 見ると、装置の画面が赤い。









 ガシャン!!!








 同時に




 二つの方向で物音が鳴る。 














 後方。


 それから、前方奥の車両。






 双方の扉がこじ開けられ


 先ほどと同じ金属人間が


 ぬっと姿を現した。



 さらに。



 一体が扉をくぐると


 また一体。


 また一体と、次々扉の奥から現れる。



 両方向。複数体。



 「リリス。この電車は一体どうなってる?」



 冷静な声で男が言った。



 『私のせいじゃないわ』



 女はどこかのスピーカーから


 ため息混じり声を上げる。




 少女は何も言えず


 ただそこに座り込んでいる。




 男は固まっている少女を見下ろし、手を伸ばした。


 彼女は黙ってその手を見つめる。




 得体の知れない


 男の手。




 「立てるか?」




 金属人間たちが迫ってくる中で


 男は至極落ち着いた声で言った。









 「君を保護する」

















 少女は男の手を取った。





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