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KAGURA  作者: 瀬戸玲
38/58

37.災厄





 空が割れ


 その破片を撒き散らしながら


 巨大な何かが


 こちらへ向かって


 落ちてくる。




 「マリア、こっち!」




 カグラは反射的にマリアの腕をつかむと


 花畑の中を走った。


 マリアも半ば引きずられるようにしてついてくる。




 「カグラ、カグ、これ、いったい………」



 「いいから!」




 カグラは叫びながら上空を振り返る。


 <それ>はもうすでに


 彼女らの頭上に迫っている。




 (落ちてくる!)




 カグラがそう思うか思わないかのうち



 ズズ…………ン!!!!!



 と


 巨大な地割れのような轟音が鳴り響き


 文字通り大地はひび割れ


 猛烈な震動と突風が


 衝撃となって2人の体を襲う。




 「きゃあーーーーーーーーーー!」




 マリアの悲鳴。


 2人の手は衝撃に引きちぎられるようにして剥がされ


 彼女の悲鳴がカグラの耳元から遠ざかっていく。




 「マリアーーーーーー‼」




 自身もまた吹き飛ばされながら


 カグラは叫んだ。


 視界が


 回る。


 その視界を埋め尽くす


 花


 花


 花。


 その奥に何かが──




 (…………いる!)




 カグラの体は花々の中に投げ出され


 激突と同時に肺から息がしぼり取られる




 「…………くっ………」




 体のあちこちに擦り傷のような痛みを感じながら


 それでもカグラはがばりと起き上がった。




 (マリア………!)




 必死に彼女の姿を探そうとする


 その瞳の先


 狂ったように舞い踊る花びらの中に


 <それ>はいた。




 「なに………これ………」




 呆然と呟く。




 そこにいたのは


 全長およそ5メートルほどの


 巨大な鋼鉄の塊だった。


 まるで蜘蛛のように何本もの脚を持ち


 頭部と思しき部分には


 縦2列に義眼のようなものが8個並んでいる。


 <それ>は無数の脚を折り曲げて花園のほぼ中央に着地すると


 生き物のように不気味に蠢きながら


 鋼鉄の頭部を360度回転させて、周囲を見渡していた。




 (なんなの………!?)




 右腕の装置が


 激しくカグラに警告している。


 逃げろ


 と。


 けれど立ち上がろうとするカグラの足はガクガクと震え


 花びらの舞う中で


 何度もつまずいてしまう。




 記憶をリセットされたカグラが初めて目にした


 襲いくる<機械>。


 人間のアダムの腕を軽々と切り落とし、


 そしてカグラを守ろうとした彼を殺した――


 <機械>。


 しかしあいつらとは明らかに違う。


 もっと強力な何かがそこにいた。




 巨大な<機械>の頭部が


 ぐるりとこちらを向く。




 「!」




 <機械>の顔面の両脇から銀色の筒状のものが飛び出し


 そこから火花が散る。


 カグラは本能に任せて


 横に飛んだ。




 タンッ! タンッ! タンッ! タンッ!




 筒から発射された銃弾が


 一発一発


 大地を撃ち


 草花を散らし


 そのうちの一発が


 カグラの顔面をかする。




 「………ぅっ!」




 弾丸はカグラの髪の毛をひと束散らし


 耳の上辺りをかすって飛んでいった。


 左のこめかみと耳に鋭い熱さを覚え


 思わずそこへ手を当てると


 ぬるりと血の流れる感触がする。




 (だめ………このままじゃ………!)




 だが逃走手段を考える暇すらなく


 今度は<機械>の腹部と思しき部分の下から


 新たな黒金の筒が現れる。




 シュッ




 という短い音がして


 何かがこちらへ飛んでくる。


 


 (まずい!)




 目の前が一瞬白く染まり


 自分でもよくわからない方向へ


 カグラは駆け出していた。


 爆音が轟き


 熱波と爆風が


 彼女の体を紙切れのように


 吹き飛ばした。












 同時刻。


 中枢部、管理室。




 「一機、街に侵入!! <聖域>――中央庭園に!!」


 「なんですって!!?」


 「これは………

  大型多脚兵器、<テンペスト>です!!」




 リリスの声と共に


 照合された<機械>の情報データが画面に映し出される。




 「<テンペスト>………」




 エヴァはその画面を見つめながら


 うめくように言葉を吐き出す。




 「まずいわ………たった一機でも

  このままではすべてが破壊される。

  30年前と同じように………!」



 「博士!」




 リリスがデスクから立ち上がり、エヴァを見る。


 エヴァも彼女を振り返ると、心得たようにうなずいた。




 「お願い。あなたも街へ出て、マリアとカグラの保護を」


 「わかりました」




 リリスは答えると


 デスクの引き出しから拳銃を取り出し


 それを手に部屋を出て行く。


 残されたエヴァは


 リリスの分の管理システムを自分に移行しながら


 <テンペスト>と呼ばれる<機械>のデータを


 にらみつけた。




 「好きになんて、させるもんですか………!」






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