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KAGURA  作者: 瀬戸玲
35/58

34.約束





 「マリア‼」




 引き金が引かれたその瞬間


 カグラはなぜだか


 初めて会ったときの


 マリアの顔を思い出していた。




 『よろしくね、カグラ!』




 信じられないほど美しく愛らしいその少女は


 満面の笑みを浮かべてカグラの手を握った。




 (明るくて、やさしくて、笑顔で………)




 硬直した時の中で


 頭が真っ白になっていく。


 そして


 何かが


 カグラの両目をふさいだ。




 ──バシャッ!




 「っ!?」




 冷たい感触に驚き


 とっさに両腕で顔をかばう。




 「え………?」




 ぽた、ぽた、ぽた。


 冷たいしずくが、顎から胸にかけてしたたっていく。


 濡れた顔をなでながら


 カグラは呆然と


 マリアのほうへ目を向けた。




 ヒューーー




 弱々しい音をたてて


 マリアの握っていた銃から


 透明な液体がわずかな放物線を描いて落ちていく。




 「水鉄砲…………?」



 「あは……は………」




 マリアは構えていた両腕を下ろして


 泣きながら笑っていた。


 かたかた震えながら


 天使のような笑みを


 カグラへ向けている。




 「ごめん。驚かせて………ごめんね」



 「マリア…………」



 「マリアに銃なんて危ないもの、持たせてくれないよ。

  それにマリアがカグラのこと、殺せるわけ、ないもんね………?」



 「………………」




 笑顔。


 いつもの


 マリアの――




 次の瞬間


 カグラは思い切り


 マリアの頬を平手打ちにしていた。




 パンッ!




 という音が庭園中に響き渡り


 叩かれたマリアは硬直した表情で


 下を向く。




 「この、バカ!」




 そのマリアの胸倉を力任せにつかみあげ


 カグラは


 震える喉で叫び声を上げた。




 「一体どれだけ心配したと思ってるのよ。

  アダムも、リリスも、エヴァ博士も………

  みんなあなたのことが大事で

  傷つけないように、傷つけないようにって

  どれだけ………!」




 マリアは目を見開き


 顔を上げ


 つかみ上げられて半立ちの状態で


 カグラを見上げた。




 「カグ、ラ………泣いてる……の?」




 マリアの襟首をつかんだまま


 カグラはきつく閉じた目を自分の右肩にこすりつけた。


 それを見たマリアはだらりと下げていた両手を上げ


 そっと


 カグラの頬を包み込む。




 「泣かないで………カグラ。

  マリア、謝るから。みんなに謝るから。

  心配かけて、ごめんなさい。

  だから、泣かないで。

  ごめんね、ごめんね………」




 ゆっくりと


 2人はその場にしゃがみ込む。


 花びらの中に


 2人の体が埋もれる。


 


 「違うよ」




 カグラはそう言うと


 マリアの胸元から手を離し


 かわりにそれを彼女の背中に回して


 しっかりと


 彼女の体を抱きしめた。




 「謝らなくていい。

  無理して、笑わなくたって、いい」



 「カグ………?」



 「もっと信じて」




 カグラは泣きながら


 彼女の耳元で囁く。


 とてもやさしい声で。


 


 「私たちの前で

  泣いたってわめいたって、いいんだよ。

  痛みも、苦しみも、悲しみも………喜びも、幸せも。

  私たちは分け合える。

  分け合えるから、生きていける。

  そうでしょ?」



 「分け、合う………?」



 「そう」



 「マリアは、分け合えるの……?

  カグラと?」



 「そうだよ。私とも、みんなとも。だって」




 一度体を離し、カグラはマリアの目を見つめる。


 まっすぐに。




 「私も、アダムも、他のみんなも。

  マリアの家族なんだから」




 ガクガクと


 大きく震えはじめるマリアの体を


 カグラは抱きしめる。


 いとおしい――彼女の妹を。




 氷の壁が溶けて崩れ落ちるように


 固くこわばっていたマリアの顔が歪み


 やがて


 長く細く


 声を上げて泣きはじめる。


 彼女は何かを求めるように


 カグラの肩に


 背中にしがみつき


 爪を立てながら


 泣き叫ぶ。




 「うわあーーーーーーーーーーーーっ!

  あーーーーーーーー‼」




 それは彼女が初めて見せた


 痛々しい姿だった。




 『どこにも行かないで』



 『行かないよ』




 泣き続ける少女の髪をやさしくなでながら


 カグラは呟いた。




 「どこにも行ったり…………しないよ」







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