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KAGURA  作者: 瀬戸玲
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2.襲撃




 カン カン カン カン カン カン カン カン――






 ブーツの底が固い床を打つ。











 『あと45秒で次の駅に着くわ』




 どこかのスピーカーから女の声が聞えてくる。




 45秒。



 (長い……)



 数字を思い浮かべ、少女は感じる。


 とても長い。







 ガンッ!!!


 何度目かの轟音が響き、振動が足元を揺らした。


 少女は走りながら背後を振り返る。


 扉を開けて、「それ」が追ってくる。




 「それ」の姿はさっきから見えていた。


 何度か振り向いて「それ」を見たが、


 しかし


 少女は「それ」をなんと呼んでよいのかわからなかった。




 (………金属人間?)




 ふと思いついた言葉を、あてはめてみる。



 金属人間。


 確かにその形容は「それ」の外見に近いかもしれない。


 でも人間ではない。


 確実に。



 「それ」の表面はとてもなめらかな金属でできている。


 全身につるりとした光沢があり、継ぎ目がまったくない。


 人間の四肢と頭のような部分が見受けられるが


 その顔には目も耳も鼻も口もない。


 ただつるりとした金属に覆われているだけだ。


 手足に指はなく、両腕の先はナイフのように鋭く尖っている。


 その腕で連結部の扉を突き刺し


 こじ開け


 追ってくる。




 『スピードを上げなさい』




 女は淡々とした声で言う。




 『そのままだと先頭車両に着く前に追いつかれるわ』





 少女は歯を食いしばり


 前に進む。







 カン カン カン カン カン カン カン カン カン カン







 靴音だけがめまいのように頭に響く。


 金属人間は足音を立てない。


 ただ扉をこじ開けるときにだけ「ガンッ!!」と轟音を立てる。





 少女はもう振り向かなかった。


 前だけを向いて、扉を開け、次の車両へと移る。また走る。



 (先頭車両!)



 『運転室に入りなさい』



 運転室の扉が開いていた。


 言われるままその中へ転がり込む。


 倒れながら背後の取っ手をつかみ


 全力で扉を閉める。




 ガギンッ!!!!!




 ものすごい音と同時に閉めた扉がぶるっと震える。


 見上げると、窓の部分に金属人間が顔を押しつけていた。



 ガンッ!! ガンッ!!!



 と体当たりするように扉にぶつかってくる。


 少女は肩で息をしながらその様子を見つめる。




 『運転室の扉をロックしたわ』




 すぐ後ろから女の声が聞えた。


 無人の運転室の中を見回すと、操作盤の横にマイクがある。


 立ち上がり


 おそるおそる顔を近づけてみる。




 「……あの………」




 『着いた』




 ぱっと窓の外が明るくなる。




 駅だ。




 『電車が停止したらすぐに出て


  3番ホームの電車に乗り換えなさい。


  急がないと


  その扉がもたないわよ』




 ガギッ!!!!!!




 金属のこすれる音がして、運転室の扉がひしゃげて歪む。





 『走りなさい』













 電車が停止すると同時に少女はホームへと飛び出した。


 おそらく車両全体の扉をロックしてくれたのだろう。


 乗客車両の扉は開いてはいない。






 駅はまぶしいほど白一色だ。


 壁や天井はプラスチックのような材質でできており、


 照明にてらてらと光っている。


 白い階段を駆け上がると各ホームをつなぐ通路に出る。



 (3番)



 表示を確かめ、また走りだす。




 リリリリリリリリリリリリリ!



 階段の下の方からアラームのような音。




 (電車が発車する!)




 女の言ったとおり、3番ホームには緑色の電車が止まっていた。


 そして今まさに発車しようとしている。




 「待って!」



 思わず叫ぶ。




 目の前で


 扉が、閉まる。




 少女は反射的に手を伸ばし


 閉まりかけた扉をつかむ。


 隙間に体をねじ込ませるようにして


 なんとか乗り込んだ。










 「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……………」




 コートの袖で額の汗をぬぐい、力なく床に座り込む。

 

 逃げ切った。


 電車が動き出す。


 金属人間の姿はない。


 窓の外はやがて、あの黒塗りの闇に閉ざされる。




 (なんだったの? あれは……)




 少女はふと右腕の装置に目をやった。


 先ほど赤く点滅していた画面はもとの黒い色に戻っている。


 もう震えてもいない。



 (KAGURA…………)



 画面に表示された文字。


 よく見ると、画面下部の右端に白い点がある。



 (これは……………)



 白い小さな、点。


 じっと見ていると


 ひとつ


 その点が増える。


 二つの白い点になる。



 (…………?)



 さらにもうひとつ。


 今度は前の二つよりも少しだけ色が黄色みがかっている。




 点の数が増えていく。


 そのスピードも増していく。




 (な……に………?)




 点は黄色から赤へ。


 右端から左端へと達する。



 その瞬間。









 画面が真っ赤に染まり


 時計が


 再び震えはじめた。





 「!」





 ガンッ!!!!!!!





 頭上で大きな音が響く。





 見ると


 天井から金属の尖った棒が突き出していた。


 それはギチギチと音を立てながら


 円を描くように天井を破壊していく。













 ドバンッ!!!!!!!!!













 天井が抜ける。



 少女は四つん這いになって


 隣の車両に向かおうとする。


 足に力が入らない。



 床に映る自分の影のうえに別の影がかぶさり


 振り返ると


 すぐ目の前に「それ」がいる。





 「それ」が


 ナイフのような腕を、彼女に向けた。





 「………あ…………」





 喉から漏れる、かすかなうめき声。


 なんとか体をずらそうとするが、思うように動かない。




 それでも懸命に


 隣の車両へ


 そこに続く扉のほうへ手を伸ばす。



















 そのとき












 唐突に












 その扉が開いた。












 少女は茫然として見る。














 そこに


 黒髪の男がひとり立っている。




















 「伏せていろ」





 男は短く言って


 静かに拳銃を構えた。





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