玖
驚く位広い家。いや、家っていうよりは屋敷。武家屋敷って言うよりはもっと古いイメージ。
そう!!寝殿造りっていうのかな?平安貴族の屋敷見たいに広く立派なお屋敷だった。しかも、今気付いたけどこの人着物なんだよね。もしかしてかなり、由緒正しき家柄の人に助けられた!!?
ポカンと澪菜がしてると、男性が話かけてきた。
「姫?大丈夫か?」
「あっいえ………スゴイお屋敷なのでびっくりして……その…さっきから気になってたんですが……」
「なんだい?」
「姫って私の事ですよね…?」
男性は一瞬不思議そうな顔をしたが、そうだよとすぐにふんわり微笑み答えた。
「いや私、姫なんかじゃないですよ!!」
あまりの澪菜の慌てように、クスクス笑う。
「そうか?かわいらしい姫君ではないか。清らかで純粋で愛らしい。」
「澪菜です。私の名前。」
顔を真っ赤にして、それを隠すように両手で顔をおおった。気恥ずかしい事を平気でいわれるのに耐えきれない。
「月の姫は澪菜と言う名なのだね。素敵な名だ。」
本当にわかってるのかなと思いながらも、話を続けた。
「貴方の名前は何て言うんですか?」
「名か、、、」男性はポツリと呟くと、難しい顔をしていた。
え!!?私まずい事聞いた?
あまりの表情の重さに、澪菜は驚きを隠せなかった。
「あ、、、あの、、、」
それに気付いたのか、重い表情がくるりとにこやかな笑顔に戻った。
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姫降りし
月より続く
夜行道
この手で覆う
朧月かな
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「貴方を月に帰さない様に出来るのならば、私は月を隠す朧月の様になりたい」
真っ直ぐに見つめる瞳に吸い込まれそうになる。不思議な人だ。
「朧月?」
「ふふふ、私の事は"朧"とでも呼んでくれればいい。」
「朧さんわかりました。よろしくお願いします」
「朧でよい。姫に朧と呼ばれる何て幸せ者だね。」
また、姫と呼ぶ。女の子として姫って呼ばれるのは、どちらかと言うと嬉しいけど。いざ呼ばれるとすごく恥ずかしい物だ。
「それにしても本当大きいお屋敷ですね!!」
顔が真っ赤になるのがばれたくなかったので、澪菜はとりあえず話をそらして見た。
「まぁ。一応こんなんでも貴族の端くれだからかな。」
貴族!!?まだ今の時代の日本に貴族なんていたんだ。
「日本に貴族なんていたんですね。びっくりです」
「……日本?月の国の名前かな。ここは平安と言うのだよ」
……………………
……………………………
日本…ですよね?」
「いや、平安だよ」
「!!?………平安時代…?」
「時代?ここは300年の歴史が続く平安の国だ。」
ちょっと待って…思考回路が処理しきれてない。話も噛み合ってない気がする。平安が国名なのかと問うとそうだと返答され、ますますわからなくなった。
「月の国とは大分違うかい?」
「月って空に輝く月の事ですか?」
「ああ。私達には見上げる事しか出来ない。桃源郷があるならばそこにあるのかなと思うよ」
澪菜の問いに朧は答えていくが、全く噛み合ってはいない気がする。この食い違いに何かがある気がした。
すると、朧がひとつ歌を歌いだした。
「漆黒の
夜に満ちあふる
月の光
姫舞い降りし
永久の栄光」
―――その歌!!―――――
「今の歌朧が?」
澪菜が涼と一緒にいた時に頭の中に響いていた歌だった。
「いや、これは有名な陰陽師が歌った歌だ。宴の晩、そなたが月から現れた晩に、私の為に歌った歌だ。本当にかぐやが現れたのには驚いたがね。」
そして朧は思い出しながらふふと微笑んだ。