弐-参拾
沈黙の中、揺らりと現れる人影は百を超える。完全に家を囲まれていた。
「、、、」
数では到底適わない。殺気を解き刀を鞘に戻した。
それに反応するかの如く、集団の中心となる人物が一歩前に出てきた。
ガッチリとした体格で、三十路前位の男性だ。黄肌色の肌と黒い髪は特に違いは感じなかったが、襟詰でゆったりとした一枚布の着物を纏うその姿は、平安の国の服装とは異なっていた。
「ここは、なんの変哲もない小屋だか、如何様か?」
朧は様子を伺うように話しかけた。
「我は、柳尊寿。唐の国より裏切り者の末裔を討伐に参った。」
落ち着いた口調ではあるが、変わったアクセントな話し方で男は柳尊寿と名乗る。
唐の国。海を渡ったあの異国の地か?
聞き慣れぬ名前に平安の国とまた相成る格好なのが理解出来た。
「裏切り者とは何の事だ?ここには、身寄りのない娘が一人しか住んではおらぬぞ。」
その言葉に尊寿の眉間がピクリと動く。
「クッその娘が裏切り者の末裔ですぞ。」
尊寿は不敵に笑った。
ーーー皐ちゃんが裏切り者??
「竜を知ってますかな?」
その言葉に澪菜はピクンッとなった。水竜を探している。その一瞬の動きを尊寿は見逃さない。
「後ろの女性は知っている様ですな。素直に差し出せば、手荒な真似はしない。」
尊寿は澪菜を舐めるように見た。笑ってはいるがその瞳の奥に隠れた脅威が背筋をゾクッとさせる。
「私の姫を怯えさせるのはやめていただけないか?」
「それは、失礼。申し訳ない。」
口ではそう言うが、悪びれる様子はなかった。
「我は東宮貴宮親王。ここは我が国の領土。不用意に荒らす事は許さぬぞ。柳殿、名のある将軍と御身請け受ける。ならば、まずは我が主君、天皇をお通し頂きたい。」
凛として言う。
尊寿は朧の気高い姿に、一歩下がった。
「東宮、、日いづる国の皇子か。」
含み笑いをしながら、尊寿は続けた。
「貴方がおっしゃる事はごもっともだが、これは我が、唐王家と裏切り者の一族の問題だ。邪魔だてするようなら、国をあげての戦さとなりましょうぞ。」
「―――ッ」
国となると、不用意な発言をすると、命取りになる。
自分だけならともかく、平安の国を思うと朧は悔しげに言葉を噛み潰した。
「しかし今回は裏切り者もここにはもう居らぬ様だし、聡明な皇子様の名を立て退きましょう。」
尊寿が手を振りかざすと、回りにいたの殺気が消えた。
言葉の通り、尊寿は軍を退き辺りに静けさがもどった。
気迫から解放され、澪菜は力が抜けた。
「引いてくれてよかった…。」物怖じしない朧が、珍しく弱い事を言った。その言葉に如何にも危険だったかが物語られていた。
「朧?」
「あぁ。あの男、柳尊寿あれはかなりの武人だ。刀を交えなくても瞳でわかる。」
苛立ちか悔しさか、朧の目に感情がこみ上げているのがわかる。
「姫、屋敷に戻るよ。」
「皐ちゃんと涼君は!!そのままにしていけないよ!!」
「ここにはいないのはわかるだろう?」
澪菜を宥めるように優しく語りかけるよう続けた。
「どちらにせよ、一度戻らないと探しようがない。」
「、、、うん。そうだね。」
澪菜は同仕様もない感情を、自分に言い聞かせながらその場を離れた。




