弐-弐拾玖
皐はきっと助けてはくれない。そう思う。澪菜が嫌いとかそういう事がなくても、絶対にだ。
皐にとって竜が一番なのは痛いほど伝わってくる。
竜を助ける為になら何でもする。そんな気持ちがヒシヒシ流れ込んできた。
「涼が。」
「涼君?」
唐突に、春晃は話し出した。
「今、水竜の巫女の元に行っている。」
皐ちゃんの所に―――?
「朧!!朧!!!!」
名前を呼びながら、バタバタと走り出だした。
「姫様いかがなさいました?」
血相を変えて走り回る澪菜を見付け、声をかけたのは静子だった。
「出掛けて来るから、朧に声をかけていこうと思って。」
「これからですか?明日にでもなさっては。」
「今すぐじゃないと。」
「姫、どうした?」
「私、皐ちゃんの所にいかなくちゃ、、、。」
朧を見つけると、全力で近寄り朧の着物をぐわしと掴む。血相を変えた澪菜に、何があったのかと思いつつ、朧は答えた。
「わかったよ。今車の準備をさせるから、待っていなさい。静子、支度を。」
「かしこまりました。」
私行かなくちゃ。私が行っても何も出来ないかも知れない。足を引っ張るだけかもしれない。
涼君は優しいから、私を庇ってくれるだろう。
皐ちゃんは、皐ちゃんなりの考えがある。
皐のそのやりかたでいいとは言わないけれど、誰が正しくて誰が間違えてるなんて、一言ではいえない。
ただ、好きな人にそんな事言われたら悲しいだろう。
それがどんなに正しい事でも、やっぱり自分を見て欲しいと願うだろう。
だから、「止めて」って言葉は自分で言わなくちゃいけない。
「私だって、、。」
朧に言われたら、悲しくなると思う。
ん?
今自分で何を思った?
「姫、牛車の準備が出来たよ。行くよ。」
朧を見詰めると、胸の中に何か暖かい物がこみ上げて来た。
朧が好き、、、?なの?
「どうした?」
顔が火照って、みるみるうちに真っ赤になっていく。
えっ――私
「顔が赤いが、熱でもあるんじゃないか?」
「、、、!!」
心配げに覗き込む朧と目が合う。マトモに見れなくなっていた。なんで、こんなタイミングで思ってしまったのだろうか。心とは不思議で仕方ない。
「、、、なんでもないよ。」
澪菜は牛車に向かい、走っていった。
ーーーーー
ギーギー揺られ、皐の家の近くまでたどり着いた。
ここからは、森が深くなってるから、牛車を止めて歩き道。
「姫、足元気をつけて。」
「うん。」
足元がゴツゴツして、歩き難い。それを気遣って、朧は右手を差し出した。掴まるのが気恥ずかしいが、意識してるのがばれないように、思いっきり掴まる。いつも通りに。
バクンバクンと唸る
――あぁ、心臓鳴り止め!!――
「姫。」
「何?」
朧に名前を呼び掛けられて、ビクッとなる。
「いや。木がざわめいてないかい?」
「木?」
朧の言葉に我に返り、辺りを見渡す。澄んだ空気は変わりない。美しい景色もいつも通り。
が、決定的に違っていたのは、いつもなら、空間が止まっているのではないかと錯覚する森が、ざわついていた。
皐の結界によって神聖さを保っていた場所。
木々が揺れ動き、葉がこすれ合う。風が唸り、鳥も動物も姿を見せない。
「結界が、、、ないの?」
何十にも張り巡らされた結界。近寄れば寄るほど、結界の濃さはましていた。いくら、皐の家よりまだまだ手前と言えど、今日は全く気配がない。
水竜を守るために張り巡らせてるだろう結界がない。皐が自ら、森中の結界を解くはずがない。
まさか―――何かあったの――?
「嫌な予感がするな。急ごうか。」
「うん。」
足早に駆け抜けた。
「こんなに、険しかったかな?」
枯れ葉を踏み、草木をかき分け走りつづける。
ゴツゴツ石ころが散りばまり、時折蹴躓きそうになる。
荒れ果てていて、前回通った時はこんなんだったか疑問に思った。
なんとか皐の家までたどり着いた。
皐が家にいるか、確認しようと近付くと、何故か玄関の扉は開いたままだった。
「皐ちゃーん!!」
入り口から覗きながら皐を呼んでみるも、返事はなかった。
不用心過ぎる。抜かりのない皐を考えると、それは有り得ない光景だ。
様子を見てみるかと朧は一歩中に踏み入れた。
勝手に入っちゃうの!?と躊躇しつつも、明らかに様子が違うその光景に、澪菜も後に続いた。
「もしかして中で倒れてるかも知れないし。」
「お邪魔しまーす。」
どこに皐がいても聞こえる様に、家中に響き渡る大きな声で挨拶をした。置いて行かれない様に、朧の斜め後ろにぴったりついて歩く。
部屋の奥に進むと、一つの部屋に目が止まった。
「――――!!?」
襖は壊され、家具は薙ぎ倒されていた。
「刀傷……?」
そこら中に広がる傷跡が目に付く。傷跡を撫でてみると、まだ真新しい。
まるで戦場にでも出たかと思う位に、部屋は乱れていた。
「姫」
「ひゃっ」
澪菜は振り返ると同時に、朧に腕を引きよらされた。朧は澪菜を背中に庇うと、腰に下げている刀に手をかける。
「皐殿―――の仲間では、なさそうだな。」
冷ややかに言葉を放つ朧に、澪菜も息を飲む。
朧の柄に力がこもった。




