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金色の月姫  作者: 藤の花
蒼き竜の雷
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弐-弐拾捌

「ほぅ――。」

春晃は憂いに満ちた目で、マジマジと見つめた。

春晃は朧に呼ばれ、すぐさま東宮御所まで駆けつけた。



「ちちちち近付くないですか!!」

「これが、竜の気であるか。興味深い。」

今にもおでこが胸にぶつかりそうな距離まで近付いていた。

付き添いには白菊を連れていた。白菊はどちらかと言うと春晃について回ると言うより、屋敷内で家事周りをしているから、外に出るイメージが余りなかった。

反対に涼が来なかったので訪ねたら、別の所に仕事に出ていると返事が来た。



「竜の跡を見せろ。」

「え――ヤッパリ!!?」

「心の臓の辺りだったか?」


澪菜が躊躇していると、春晃は面倒くさそうに白菊を呼んだ。朧が春晃に出来るだけ肌を見るなと言ったらしいので白菊を連れてきたらしい。「独占欲はかまわないがそんな気1東宮妃にたいしてミリも起こらない」とブツブツ言っていたのをとりあえず聞き流しといた。



「じゃあ、着替えちゃいましょうか!さらし捲きますね。キツかったら言って下さいね!!」


白菊は、几帳を沢山立てかけ始めると、その中に澪菜を連れて行った。クルクルとさらしをあてられて、薄目の着物を着付けられる。

胸元の鱗が鎖骨辺りまで浸食していた。見えやすくなったので、あまりはだけさせずすむのはいいのだが、このまま全身に鱗がまわってしまうのではないかと思うと微妙な気分になる。




「完成!!」

にぱっと笑って白菊は澪菜の背中をおした。



「ありがとうございます。」

白菊に礼をのべると、春晃のいる部屋に戻ってた。部屋の雰囲気はガラリと変わっていた。

妖妖たる空気。不思議な文字が墨で所々に書き込まれている。


「そこに座れ。」

「はい。」



春晃の言われる通りに澪菜は動いた。

床の五カ所に韻が刻まれ、その中心に陣がしかれている。澪菜はその中央に腰を下ろした。



「そこに結界を張ったから、絶対に動くな。」

「東宮、人払いを頼みます。誰も部屋に近寄らせないで下さい。貴方もお下がり頂けますか?」

「わかった。後は頼んだぞ。」


朧も春晃に従い、部屋を後にした。


「今から、一通り流れを話してやる。しっかり聞け。」

「はい。」

「未知なる力。我が力をもって神力に適うかは否めない。」



神妙な面持ちの春晃に澪菜は生唾をごくりと飲む。


「その間の繋ぎの術をかけるだけだ。無いよりマシだ。」



おそらく、水竜を鎮められるのは巫女しかいないだろう。澪菜に春晃の霊力を送り込み、水竜の浸食の時間を稼ぐつもりらしい。水竜の力がどのくらいなのかわからないから、危険と隣合わせらしい。再度「絶対動くな」と言われた。



「白菊ちゃんは、いて危なくないの?」

「白菊がか――?」


春晃が不思議そうな表情を浮かべる。

「白菊には内から霊力を放出させるからいなくては困る。」

「私は式神だから大丈夫ですよ。」

白菊はクスクスと笑った。


「気付いてなかったのか?お前は白菊の式の姿を見ているだろう?」

「式の姿―――?」


呆れた顔で春晃が言う。白菊はその横で楽しそうに笑っていた。


「式神を持たせただろう?」

「――――?」



春晃の式神の術を見たのは何度かはあった。白菊はその時はいた記憶がない。




「一緒に不死の山に行きましたよ。」

白菊の言葉にキョトンとした。確かにあの時、護身用に式神の札を渡された。一度だけ式神を召喚出来る様、春晃の力が込められている。そう言われ渡された。

式神は姿を現したが、その姿は美しい白髪でスッキリした顔立ちの大人びた女性の式神だった。



「春晃様!!私の封を解いて下さいな。百聞は一見にしかずです!」


春晃は白菊にブツブツと何かを呟きかけると、白菊は白い光に包み込こまれた。光が収まると共に、白菊の姿は変わっていた。黒かった髪は白髪に。まだあどけない表情も大人びた憂いを満ちた顔つきになっていた。そして、その身は宙に緩やかに浮いていた。



「うふふ。」

見た目は変わっても、内面の本質が白菊そのままだから、同一人物何だと解釈出来た。


「ああぁ―――。」

澪菜は驚きすぎて、言葉にならなかった。


「納得したか?本題にもどってよいか?」

春晃は事務作業を終えたかの様に淡々と続けた。



「は、、、はい。」



白菊は澪菜の方を見ると、にぱっと微笑んだ。今度は澪菜に目掛けて、春晃は呟き出した。

春晃の言葉は、全然何を言っているのかわからなかったけれど、胸の中がざわつき始めたのがわかった。

自分の中で何かが暴れているかの様に、ドクンドクンと脈を打つ。



「春、、、晃、、、さ」

「大丈夫。すぐ終わります。私達に任せて」

白菊の声が、耳元に掠めると、またいつもの感情が脳裏に流れ込んで来た。





痛い――痛い―――苦しい。狂おしい―――。

はち切れそうな暗闇に、ボンヤリとした白い光が交わる。


「――――――。」


恨めしい――。憎らしい――。


「―――――――。」


その思いに、女性の柔らかい声が絡み合う。言葉は聞き取れないけれど、暖かみを帯びたその声は、暗闇を優しく包み込んだ。

白い光は暗闇にユックリと溶け込んでいった。



パチンと音がすると、澪菜は現実に戻って来た。


「…………。」頭がまだポヤーッとする。焦点の合わない目を必死に合わせようとする。



「終わった。もうでてもよい。」

春晃はポツリと呟くと、道具を片付け始めた。フラフラと立ち上がり、陣から出る。部屋には春晃の姿しかなく、白菊がいない。


「白菊ちゃんは?」

「お前の中にいる。」

「戻って来れるの?」


不安そうに問う澪菜に、春晃は冷たく答えた。

「そう思うなら、水竜の巫女を説得しろ。私が出来るのはここまでだ。」


鱗は少し引いた。だが、消えてはいなかった。

春晃が繋ぎと言った通り、まだ中に竜がいる証拠だった。

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