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金色の月姫  作者: 藤の花
蒼き竜の雷
72/79

弐-弐拾肆

――――――

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

体が痛い

心が痛い

引きちぎられる

もがけばもがくほど底なしの沼に足をとられる。

助けて助けて助けて助けて助けて

――――――――――



「痛い?」

はっと目が覚めた。頬には涙が伝っていた。澪菜は涙を拭きながら起き上がった。布団に横になっていたみたいだ。

背中を伸ばしたり体を動かしてみるも、どこも痛くない。この間から、ずっとこの夢を見ているけれど、なんなんだろうか。



「お前なの?」

枕元を見ると、竜が丸くなって眠っていた。どう考えても竜の仕業としか思えなかった。水竜の巫女である皐に飼われている竜と名の生き物。それに何度も起こった不思議なこと。ここまで起こると、いくら鈍い澪菜でさえ竜ちゃんは水竜なんではないかと勘ぐってしまう。


「やっと起きたか。」

「皐ちゃん!!」


襖を開けて皐が部屋に入って来た。皐がいるのはなんとなく予想出来ていたから、そんなに驚きはしなかった。

皐は竜を抱き上げると、ふいっと目を逸らした。目を合わせ様としない皐と微妙な空気。



「あっあああの、、、。」

「私と竜は繋がっている。全て見ていた。」

「へっ?」

イキナリの事でキョトンとしてしまう。



「竜と私は繋がっている。私の見ている物は竜も見つめ、竜の瞳に映る物は私の瞳にも映る。それが巫女と水竜の繋がりだ。」

「―――!?え!?ええ!?」

「悪いが勝手に覗き見た。やっぱりお前の事は嫌いだ。」



―――――嫌いって、、、そんな

「覗き見たって見るために私に預けたの?」

不安になりながら尋ねた。



「いや、竜がお前を求めた、だから預けた。お前と竜の波長は不思議なほど合うらしい。だか、結果的に覗き見た事には変わりはあるまい。」


皐の言葉は難しく、理解するのに苦労した。

簡単に考えると、悪気があった訳じゃないって言うのと、菫ちゃんと話した事や涼に告げた事が伝わっているって事だよね?



「そっかよくわかんないけど、皐ちゃんには言おうと思っていた事がわかってるって事だよね?ならいいや。」



何故そんな簡単に許す?普通ならもっと怒ってもいいだろう――。



「やはり涼の事を抜きにしても、お前とは相容れない。」

「なんで?私は、皐ちゃんの事分かり合えるなら分かりたいよ。」



偽善的な言葉を心の底から言う。純粋で無垢な娘。

自分に持ってない物を持っている。己の黒い部分を気付かされる。

私は巫女でなければならないのに、こいつ(ミオナ)のせいでで私も人なのだとそう思い知らされる。


「まあよい。お前には、竜を助けて貰った礼がある。」

「え。」


ゴクリと息を飲んだ。嫌いと宣言されたすぐ後に、まさか受け入れて貰えるとは。

「水竜を見せてやる。」そう言うと皐は竜に向かいブツブツと呟きだした。

竜はクーンと鼻をすりつけながら鳴き声をあげた。



「やっぱり、竜ちゃんが……水竜なの?」


妖々しい雰囲気に包まれ、思ってた事がつい口から零れてしまった。



「違う!!」

皐は澪菜の言葉を遮る様に、怒鳴り声をあげた。皐の怒りように澪菜はすくみ上がった。


「ゴメンナサイ!!不思議な事が何回も起きたからもしかしてって思って。」

「間違いでないが、正解でもない。竜、これはただの犬だ。犬の器を借り、竜の御霊が入っている。本体は社で眠りについている。」




水竜は己を恐れ、深い深い眠りにつき力を閉じた。しかしそれでも押さえきれない『負』の力が暴走し始めた。

身体と御霊を切り離し、負の力を二つに分けそれを巫女が鎮めていたがそろそろ限界が近い。

犬の器では波長が合わず、ズレが生じ始めた。そして時折、御霊のみでも動き出し始めた。


「私が何度か見た、空を覆うくらいの竜の姿は?」

「犬の器を抜け出た御霊の姿だな。」



魂だけで、動きまわる。そこまで竜を追い詰めた事を皐は悲しいと嘆いた。


皐は「ついて来い」と言うと歩き出した。水竜の所に案内するつもりなのだろうか。澪菜は皐の一歩後ろに並び歩いた。



「伝承は聞いた事があるか?」

「はい。少しだけなら。」

「何故、水竜の隠れ里は滅びたか知っているか?」



確か春晃さんはこう聞いた。

「竜の力を狙う野族に滅ぼされた」とも伝えられている。

「自ら、竜を守る為に、里の滅びを選んだ」という説もある。



皐は苦笑しながら、話を続けた。

「伝承は時に屈折して伝わる。里は、竜によって滅ぼされた。」

「竜によって―――?竜は悪い竜だったの?」

「違う!!お前はそのようにしか考えられないのか!」


元来、竜に善悪などなかった。水竜は水を守護し恵みを与えていただけだった。

竜に取っては何の変哲もない力。だが、人間にとってその『恵の力』は強大で、欲望にまみれた彼らにとって竜の力は魅力的であった。

欲に取り憑かれた人間達は、竜の力を狙い里を襲った。


ひっそりと静かに暮らしていた水竜の一族には闘う力などなく、それは一方的な惨殺劇であった。竜は目の前で殺されていく里の者の姿を見て、初めて『憎悪』と言う感情があるのを知った。



狂おしい―――狂おしい―――――力は狂気



竜は『負』の感情を制御する事が出来ず、結果的に、里の者をも巻き沿いに壊滅させてしまった。

「あんなに苦しがっていたのは。」




人を憎み

自分を憎み

己の身の内の力に怯え

それでも止められない憎悪と醜の負の連鎖。

大切な人を自分の手で殺めた苦しみ――

計り知れない。



もう誰も傷付けたくないのに、誰かぶつけないと止められないこの憎しみが絶望へと己を追いやる。



悲しい。まるで自分の事の様に涙が止まらなくて、悲しくて悲しくて苦しくて。


生き残っていたのは、その時里を離れていた数名。

これ以上争いと悲しみを生まない為に、里を捨て水竜は滅びたと伝承した。






「さあ着いたぞ。」

一本の大樹の前に止まる。幹には小さな祠が建てられていた。皐は祠に目掛けブツブツと呟くと、大樹の中央が割れるように開いた。

暗く長細い道が見える。中は夏と思えないくらいにヒンヤリと涼しい。皐と共に、中へと進んでいった。

目を凝らして、皐の居場所がギリギリ確認出来るくらいの明るさしかないから、見失わない様必死に追い掛けた



「皐ちゃんはどうして私に、話してくれたの?」

「さてな。お前にも知る権利があると思って。」


今日の皐はよく喋る。不思議なくらいだ。奥に進につれ、空気は湿めりを増す。声も聞こえてきた。


グァーグァーと悲鳴にも似たその声は響き渡った。

「竜の寝息だ。脅えるな。」

「はい!」



細長い道を抜けると、広い空間になっていた。そこに横たわる水竜の姿が目に入る。

その姿は澪菜が見た、空をも覆い尽くすあの竜だった。



「水竜。」

皐は優しく話し掛ける。竜も答えるかの様に、グァーと息をする。



「水竜連れてきたよ、、、。お前の新しい器を!」


背筋がゾクリと凍る。振り返り皐が澪菜に迫ってきた。



「皐ちゃんどういう事?」

「言っただろう?お前と竜の波長はよく合うと。」

ククッと皐が笑った。冷ややかな微笑が澪菜を凍り付かせた。


皐の両手が、スルリと澪菜の首に回る。本当に血が通っているのかと思うほど皐の手は冷えていて、人なんだろうかと感じる。



「ぁあ……あ゛」

「すぐ終わる。」



足が竦み、全身が震え動けない。水竜の姿が光る。

竜の器になっていた犬の姿からも光が放たれた。


「いや……いやぁぁッ」



一直線に澪菜に目掛けて降り込んで来た。光は口から体内に入り込み、熱を放つ。



「ああ……あ…熱い……」


臓器が灼かれているのかと思えてくる。

皐の手が緩み、澪菜は膝から力が抜けがくっと座りこんだ。「かはっ………カハッ」胸を掻き毟るが、熱は沸々とよりこみ上げた。



「大丈夫。じきに楽になる。」

そう言いながら澪菜を優しく撫でながら微笑む皐がより恐怖に思えた。

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