弐-弐拾弐
門の内側にはもう人気はなかった。閉じようとしている門をから、顔を出した。
「ごめんなさい、遠くまで出ないから!」
「女御様!!外はなりません!!」
門番が止めるのも聞かず、猫の様に人と人の間をすり抜け外に出る。門を締め切るのより澪菜が外に飛び出す方が一方早かった。澪菜は辺りを見渡すと、女性の後ろ姿が目に入った。慌てて駆け寄り、腕を掴んだ。
「涼君っ!?」
「澪菜?」
女性は振り返り、澪菜の方を向いた。顔をしっかり見て、涼だと確認すると、澪菜は胸を撫で下ろした。
「やっぱり涼君だった。よかった。また、行き違いになるかと思っちゃった。」
「悪いな。最近、春晃の遣いが忙しくて。屋敷に何度か来たみたいだけど何かあったか?」
涼は心配げに覗き込んだ。少しでも、涼に避けられてるのではないかと考えてしまった自分が恥ずかしかった。
「あのね」
「ん?」
「私、真剣に考えたよ。涼君の事は大好きだよ!この好きは何だろうって。」
涼と一緒にいれない事何て想像も出来ない。私にとって涼君はかけがえのない者だ。それは何度やっても変わる事はない。
ただ。涼の隣に皐がいて、私がその隣にいる。
そう想像してみると、ちょっと寂しいって思うだろうけれど、幸せそうにしている涼を見て私も笑うんだろうなって思う。
「ごめんなさい。私にとって、涼君は大切な人だけれど家族とか兄みたいだと思う。」
黙って聞いていた、涼が口を開いた。
「アイツが好きなのか?」
「それは――。」
わからない――。朧の元に別の女性が嫁いでも、私は笑えているのだろうか?「仕方ない」とか「私なんかより」って言って顔は笑うんだろうけれど、私の心は笑っているのだろうか?
もしそれが恋心って言いのなら、そうなのかも知れない。
「酷な事を言うが、アイツとお前は住む世界が違うんだぞ?」
「わかってるよ!私は、全てを捨ててまで朧について行くかって聞かれたら、正直どうなんだろうって思う。」
朧は私が"かぐや"だから良くしてくれるんだろうと思う。
それに、日本に帰りたい気持ちがある。
だから菫ちゃんみたいにはなれないと思う。
―――今私の素直な気持ち。
傷付けるかも知れないし、傷付くかも知れない。
涼君には、嘘つけない。
だから正直な答えを出した。
「だから。ね………。」
澪菜は口ごもる。何とも言えない沈黙が続いた。
その空気を先に破ったのは涼だった。ふいに、澪菜の頭をグシャグシャ撫でた。
「ひゃあ。」
「そんな顔するな。何年も、待ったんだ。まだ望みがあるのなら諦めないから。遠慮はやめた!」
「え!え?えぇ――!!?」
「覚悟しておけよ。」
涼は意地悪そうににかっと笑った。
ななな、何か涼君っっキャラ変わってないですか!!
「覚悟って!?!?!?」
「いいよ。澪菜は変わらないでいてくれれば。」涼は再び髪をぐしゃっと撫でる。
「ひゃあっ」
涼の笑っている顔につられ、澪菜も笑っていた。一緒にいたいし、こうして話してせるのが凄い嬉しい。
ごめんなさい。私は我がままだと思う。
それでも涼君とは、この間々で入れたらいいなと思う。
「さっきから、気になってたんだが。」
涼は澪菜の胸の辺りに目線を落とした。静々と眠りについている竜の姿が目に入る。
「それ、皐の所の犬だよな?大事に抱えてどうした?」
「あ。」
澪菜と竜の不思議な組み合わせに涼は、興味を示した。
「桂の川でね。」
川での出来事を説明しながら、抱きかかえていた竜を涼の前に突き出した。
「皐ちゃんに文は出したんだけれど、預かってって言われたの。何でだろう?」
「ふーん。」
「あと、たまに撫でてあげればいいって言われたよ。」
「撫でる?」
涼はふわりと頭に手をあて、竜をクシャッと撫でた。ピクッと体を痙攣させたが、やはり様子は何も変わらなかった。
「何日もごはん食べてないんだよ。大丈夫かな?」
皐が大丈夫って言ってたし、見た感じただ寝てるだけに見えるので問題はないと思う。ただ、ここまで眠り続けていると、心配にはなる。
「竜ちゃん目覚ましてよ。」
澪菜はポツリと呟く。竜の頭を2・3度撫でてみる。
やっぱり何も変わらないかと思ったその時、急に竜の瞳が開いた。竜が澪菜の腕を離れふわっと宙に浮かんだ。くるっと向き直り、澪菜を睨みつける。
「え?ええ?」
竜から霧が吹き出し、澪菜を包み込む。「ひゃああああ」
視界が真っ白になり、涼の姿も建物もボンヤリと影でしか見えなくなった。両手をブンブン振って涼を掴もうとするも、距離感が全くわからず、空中をかすめる。
「何が起きてる!?」
涼の声が聞こえるが、段々遠のいて行った。澪菜は目を凝らして竜の方を見る。霧に包まれているが、竜の目が蒼く光っているので、竜の存在ははっきりとわかった。
「竜ちゃん、なにかしたの?」
答える訳も無く、竜は無言で威圧してくる。
竜の瞳が光が強まるほどに、霧は濃くなって行った。
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